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残しておきたい福祉ニュース

 2020年 
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 2020. 1. 9 「親亡き後」見据え…重症障害者の2人暮らし 福岡で珍しい取り組み
 2020. 1.10 やまゆり園めぐり、利用者支援の実態検証へ
 2020. 1.10 「しゃべれるのか」確認しながら襲撃か やまゆり園公判
 2020. 1.11 中国・武漢、新型ウイルス感染の男性死亡 初の死者
 2020. 1.12 中国・武漢、原因不明肺炎で1人死亡
 2020. 1.14 タイで新型肺炎、中国人観光客発症 世界的感染の懸念
 2020. 1.16 新型肺炎患者、国内で初確認 武漢に渡航歴
 2020. 1.16 中国発の新型肺炎、感染と情報隠蔽のリスク
 2020. 1.16 新型コロナウイルス、どう備える? 手洗いなど徹底を
 2020. 1.16 新型コロナウイルス、防疫体制に課題 国内初の患者
 2020. 1.17 新型コロナウイルス肺炎で死者2人目 中国、69歳男性
 2020. 1.17 ユニ・チャーム マスク増産 新型ウイルスで
 2020. 1.31 「障害者福祉事業」の倒産が過去最多
 2020. 1.31 コロナウイルスの「国内感染」はもはや免れない
 2020. 1.31 新型肺炎で「インバウンド4000万人」に黄信号  訪日客消費額「8兆円」の大目標が遠ざかる


■2020.1.9  「親亡き後」見据え…重症障害者の2人暮らし 福岡で珍しい取り組み
医療的ケアが24時間必要な20代の重症心身障害者2人が、初めて親元を離れ、福岡市内の民家で共同生活を始めた。障害がある子をもつ高齢の親にとって「親亡き後」の住まいの確保は切迫した悩み。言葉や合図での意思疎通が難しい、重い障害がある人だけで住居を構える取り組みは全国的にも珍しいといい、関係者は「住まいの選択肢が限られる中、地元で持続的に暮らせる新たな形を確立したい」と話す。

2人は重度の脳性まひで、数時間置きにたんの吸引や胃ろうなどが欠かせない水野ひかりさん(26)と倉光陽大(たかひろ)さん(23)。新居の民家「SharedHome(シェアードホーム)はたけのいえ」(同市早良区)の世帯主は、ひかりさんだ。ひかりさんの父で医療的ケアが必要な人を日中に預かる施設「小さなたね」(同)所長の英尚さん(52)が共同生活を発案した。10年前から親交のある陽大さんと10月から暮らしている。それぞれの個室や居間、在宅の障害者が宿泊を体験できる部屋もある。

社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会(東京)によると、身体、知的ともに重度の障害がある重症心身障害児者は全国に推定約4万3千人おり、うち7割近くが在宅。「親亡き後」の住まいは重症心身障害児者施設(全国209カ所、計2万1819床=4月現在)が一般的で、多くの人にとって大切な住まいとなっているが「地元を離れなければならない人も少なくない」(英尚さん)という。一方、障害者グループホームは各地にあるものの、重症心身障害者の場合「看護が常時必要な上、24時間対応の医師も確保しなければならず、入れるホームは限られる」(同会)のが現状だ。

住まいの選択肢を増やす実証実験でもある「はたけのいえ」だが、特別なことはしていない。これまで実家に来ていた看護師やヘルパーの訪問場所が新居になっただけだ。日中はそれぞれが通う施設へ。新居で過ごす朝夕は着替えや食事などで看護師らが常に出入りする。現在、午後8時から翌朝までは英尚さん夫妻が2人をケアしているが、今後は夜間も医療的ケアができる介護スタッフに任せることを検討。人材確保の面で乗り越えるべき課題はあるものの「完全な自立」を先に見据える。

2人の主な収入は、それぞれ月約8万円の障害基礎年金。家賃は4万円(光熱費込み)で、看護師が医療的ケアを行う訪問看護や、ヘルパーが生活全般の支援を行う居宅介護などへの自己負担は実質なく、年金で全ての生活費を賄える。

陽大さんの母登喜子さん(66)は夫(72)と長年、介護してきたが「自分が70歳になるまでに息子の最終的な住まいを決めたい」と考えていた。「若い親御さんもいずれ直面する問題。はたけのいえがモデルケースになったらうれしい」。陽大さんも家族以外に接する人が増え、笑顔が増えたという。

地域の理解や支援も不可欠。先月15日には近隣住民も招いた餅つきを行い、約60人でにぎわった。英尚さんは「医療や福祉関係以外の人たちとのつながりもつくっていきたい」と話す。

■2020.1.10  やまゆり園めぐり、利用者支援の実態検証へ
県立障害者施設「津久井やまゆり園」の後継2施設の運営主体見直しを巡り、県は9日、利用者支援の実態などを専門的見地から検証する委員会の初会合を10日に開催すると発表した。当初は入所者ら45人が殺傷された事件の初公判前に設置する予定だった。

同園を運営する社会福祉法人かながわ共同会について、黒岩祐治知事は「裁判で良くない情報が出てくる」と主張。指定管理者の再公募と支援実態検証の場の設置方針を示していた。

検証委メンバーは、上智社会福祉専門学校特任教員の大塚晃氏、国学院大教授で弁護士の佐藤彰一氏、一般社団法人スローコミュニケーション代表で元毎日新聞論説委員の野澤和弘氏。

元職員による殺傷事件を踏まえ、▽利用者支援の状況▽法人としてのガバナンス体制▽施設設置者としての県の関与─などを検証する。会議は原則非公開で、報告書をまとめる時期は未定としている。

■2020.1.10  「しゃべれるのか」確認しながら襲撃か やまゆり園公判
相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で利用者ら45人を殺傷したなどとして、殺人などの罪に問われた元職員植松聖(さとし)被告(29)の第2回公判が10日、横浜地裁であった。

事件の際、被告に連れ回された職員の供述調書が読み上げられ、被告が「しゃべれるのか」と確認しながら、話せない人を狙って襲った様子が明らかにされた。検察側は被告が「意思疎通のできない障害者を殺そう」と考え、事件を起こしたと主張している。

被告は8日の初公判で小指をかみ切るような行動をして取り押さえられ、退廷を命じられた。この日は審理の冒頭で青沼潔裁判長が「不規則な行動をすると退廷命令を発せざるを得ない。行動言動を慎まれたい」と注意。被告は「はい、わかりました」と答えた。分厚い手袋を両手につけており、地裁によると自傷防止のためという。


続く証拠調べで検察官は、職員6人の供述調書を読み上げた。被告は時折、傍聴席を気にするしぐさを見せたり、ため息をついたりして落ち着かない様子だった。

最初に被告と遭遇した職員は午前2時ごろ、園内の巡回中に、窓ガラスを割って侵入した直後の被告を見つけた。被告は職員の腕をつかんで「騒いだら殺す」と脅し、結束バンドで両手を縛った。

遺族が名前を美帆さんと公表した女性(当時19)の部屋に職員は連れて行かれ、被告が「こいつはしゃべれるのか」と聞いた。職員が「しゃべれません」と答えると、被告は布団をはがして、中腰で数回包丁を振り下ろした。美帆さんは苦しそうな声を漏らしたという。

被告はこの職員を連れ回し、他の部屋でも「しゃべれるのか」と聞いた。職員が「しゃべれません」と答えると同様に襲い、「しゃべれます」と答えると次の部屋に向かった。「こいつら生きていてもしょうがない」と話した。


植松聖被告の動き
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■2020.1.11  中国・武漢、新型ウイルス感染の男性死亡 初の死者
中国の湖北省武漢市で発生した新型のコロナウイルスについて、同市の衛生健康委員会は11日、初めて死者が出たと発表した。1月10日時点で41人が肺炎を発症し、うち重症は7人で、2人が退院した。そのほかの患者の症状は安定しているという。3日以降、新たな発症者は確認されていない。

当局によると、死亡した男性(61)は発症者が多い市中心部の海鮮市場でいつも商品を購入していた。9日の夜、呼吸不全で心臓が停止した。

中国メディアは9日時点で新型コロナウイルスの検出を報じていたが、武漢市当局も11日、同ウイルスを確認したと発表した。呼吸不全や発熱、せきなどの症状が出る。すべての発症者は2019年12月8日から20年1月2日までの間に発症している。医療従事者への感染や、人から人への感染は確認されていない。

中国メディアによると、新型コロナウイルスでは特効薬やワクチンの開発に数年間かかる可能性があるという。香港などの周辺地域やアジア諸国では武漢を訪れた旅行客の体調を検査しており、警戒態勢を敷いている。

日本の厚生労働省は、武漢からの帰国者や入国者に対し、せきや発熱の症状があればマスクを着けて医療機関に行き、武漢に滞在していたことを告げ、受診するよう呼び掛けている。

コロナウイルスは主に呼吸器や腸に影響を及ぼす。過去に世界で拡大した重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)もコロナウイルスの一種だが、今回は異なる種類だという。

■2020.1.12  中国・武漢、原因不明肺炎で1人死亡
中国湖北省武漢市は11日、相次いで発生している原因不明のウイルス性肺炎で男性(61)が死亡したと発表した。初めての死者とみられる。当局はこれまでに新型のコロナウイルスが確認されたと発表。10日時点で41人が発症し、そのうち重症は7人で、2人は退院したと明かした。その他の患者の症状は安定しているとしている。

武漢市当局によると、男性は重症肺炎のため入院。9日夜に脈動が止まり、応急手当てを受けたが呼吸が弱まり死亡した。男性は感染者が多く出た市内の海鮮市場でいつも商品を買い付けていた。

当局は今月3日以降、新たな発症者はおらず、医療従事者への感染や、人から人へ感染したとの明確な証拠は見つかっていないと強調。患者の治療を続けると同時に疫学調査も進めると表明した。

日本の厚生労働省は、武漢からの帰国者や入国者に対し、せきや発熱の症状があればマスクを着けて医療機関に行き、武漢に滞在していたことを告げ、受診するよう呼び掛けている。

中国メディアは9日、原因不明の肺炎の発症者から、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)とは異なるコロナウイルスを確認したと伝えた。世界保健機関(WHO)は一層の調査が必要としていた。

■2020.1.14  タイで新型肺炎、中国人観光客発症 世界的感染の懸念
タイの保健省は13日、中国湖北省武漢市から観光で訪れた中国人女性(61)が、同市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎に感染していたと発表した。中国以外で患者が確認されたのは初となる。中国は25日の春節(旧正月)に合わせた休暇で海外旅行をする人が急増するため、世界的な感染の拡大が懸念される。

タイ保健省によると、8日にタイに到着した61歳の中国人女性から38度以上の発熱や呼吸器疾患の症状がみられた。搬送先の病院で検査したところ、中国・武漢で確認された新型コロナウイルスと一致した。女性は快方に向かっているという。女性と一緒にタイへ訪れた団体旅行客に同様の症状はなかった。

新型コロナウイルスによる肺炎は中国で10日までに41人が発症し、11日に初の死者を確認した。タイ政府は中国での新型肺炎の発生を受けて、空港で旅行客に発熱などがないか体調を検査し、警戒態勢を強めていた。

中国では春節に伴い帰省や旅行で多くの人が移動する。中国政府によると、帰省ラッシュが始まった10日から2月18日までに延べ30億人が鉄道や飛行機で移動する見通しだ。タイは年約1000万人の中国人が訪れる人気の観光地となっている。

中国発の新型肺炎を巡っては、2002年に発生したコロナウイルスの一種である重症急性呼吸器症候群(SARS)で、中国政府の情報開示が遅れ感染が拡大した経緯がある。今回のウイルスは過去に確認されたSARSや中東呼吸器症候群(MERS)と別の種類で、特効薬やワクチンの開発に数年間かかる可能性があるという。

中国メディアによると、今年の春節中の中国人観光客の訪問者数で上位3つの都市はバンコク、大阪、東京だという。

■2020.1.16  新型肺炎患者、国内で初確認 武漢に渡航歴
厚生労働省は16日、中国の湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の国内初患者を確認したと明らかにした。患者は神奈川県の30代男性で武漢市への渡航歴があり、15日夜に国立感染症研究所の検査で新型ウイルスの陽性結果が出たという。

同省によると、男性は1月3日から発熱症状があり、6日に武漢市から日本に帰国した。医療機関を受診し、9日には39度の高熱となった。肺炎に悪化の兆しがあったことから10日から入院。症状は回復し、15日に退院し自宅療養中という。同省が武漢市での立ち寄り先や帰国後の行動など、詳細を確認している。国内で同居する家族も濃厚接触者として経過を観察している。

新型肺炎は武漢市で2019年12月に発生。41人の患者が確認され、61歳の男性1人が死亡、6人が重症という。家族内での感染例もあるとされ、人から人へ感染する可能性も指摘されている。

中国当局が12日にウイルスの遺伝子配列情報を公開し、日本の国立感染症研究所も検査態勢を整えていた。

武漢市当局や世界保健機関(WHO)によると、患者は同市中心部の海鮮市場に出入りする人々が中心で、今月1日に市場が閉鎖され、3日以降は新たな患者は確認されていないという。8日に同市からタイに到着した61歳の中国人女性が発症し、新型ウイルスが確認された。

厚労省によると、男性患者は武漢市の海鮮市場には立ち寄っていないと説明。同省は中国で肺炎患者と一緒に過ごすなど濃厚接触した可能性があるといい、詳細を確認している。日本への帰国時には解熱剤を使っており、検疫を通過したという。

同省は新型ウイルスについて「現時点で家族間など限定的な人から人への感染の可能性は否定できないが、持続的な人への感染の明らかな証拠はない」としている。飛行機や電車などに同乗した人に感染が拡大するリスクは低いという。武漢市からの帰国者、入国者に対し、せきや発熱などの症状がある場合はマスクを着用した上で、速やかに医療機関を受診し、滞在歴を申告するよう求めている。

■2020.1.16  中国発の新型肺炎、感染と情報隠蔽のリスク
中国で新型ウイルスが発生し、感染リスクや当局による情報隠蔽に対する懸念が広がっている。2002〜03年にかけて重症急性呼吸器症候群(SARS)が発生した際には、中国当局が何カ月もその事実を隠している間に感染が広がり、800人以上が死亡した。そのため、19年12月に湖北省の省都である武漢市で発生した新型コロナウイルスについても、中国当局の対応に懐疑的な見方が浮上している。

■2020.1.16  新型コロナウイルス、どう備える? 手洗いなど徹底を
新型コロナウイルスによる肺炎患者が国内で初めて確認された。厚生労働省は「感染が拡大するリスクは低い」と冷静な対応を求めている。注意点などをまとめた。

Q 新型肺炎の原因や症状は何か。

A コロナウイルスは6種類が知られ、一般的な風邪の原因にもなる。発熱やせきなどの症状が多く、通常は重症化しない。新型肺炎の感染力や致死率などはまだよく分かっていない。同ウイルスの1種による重症急性呼吸器症候群(SARS)は死者が多数出た。

Q 日本で流行の危険があるのか。

A 現時点で、人から人への感染の可能性は同居する家族や医療従事者など、患者と「濃厚接触」した場合に限られるとされる。厚生労働省は電車に乗り合わせるなど短時間、患者と同じ場所にいただけで感染する可能性は低いとしており、過度な心配は不要だ。

Q 予防できるのか。

A 感染経路などは十分解明されておらず、ワクチンもない。厚労省はせき、くしゃみをする時に鼻や口を服やティッシュで覆う「せきエチケット」や、手洗いの徹底など通常の感染予防が重要と呼びかけている。

Q 体調に異変があったらどうすれば良いか。

A 中国湖北省武漢市に滞在後、体調を崩した場合はすぐマスクを着用して医療機関を受診し、医師に「武漢に滞在した」と申告する。渡航歴がなければ特別な対応は不要で、通常通り受診や療養をする。

Q 新興感染症は増えているのか。

A 長崎大学熱帯医学研究所の安田二朗教授によると、ウイルスが原因のものだけで30種類以上の新興感染症がある。新興国の森林開発などで未知の病原体と触れる機会が増えたほか、検査技術の向上で新たな病原体が見つかりやすくなっていることも背景にある。

■2020.1.16  新型コロナウイルス、防疫体制に課題 国内初の患者
中国の湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の患者が、日本国内でも確認された。武漢滞在中に発熱した後、検疫のチェックをすり抜け、日本に戻ってから感染を確認するまで9日間かかっていた。この患者は既に回復し、現時点で中国での感染拡大も止まっているが、国境を越える感染症への対応に改めて課題が浮かんだ。

厚生労働省によると、感染が確認されたのは神奈川県に住む中国人の30代男性。武漢市に滞在していた3日から発熱し、6日に日本に帰国した。検疫所では常時サーモグラフィーを使って入国者の体温をチェックしているが、男性は解熱剤を使用しており異常を認められなかったとみられる。

男性は6日に診療所で診察を受け、武漢滞在も申告したが、診察後は帰宅した。9日に39度の高熱となり、10日に別の病院で受診したところ、肺炎が広がる兆候があったため入院した。病院は14日に保健所に報告し、15日夜に国立感染症研究所の遺伝子検査で新型ウイルス陽性の結果が出た。

2019年4月に始まった感染症の報告制度「疑似症サーベイランス」の対象は、集中治療が必要な重症例などに限られている。厚労省は「制度に照らせば報告の経緯は適切だった」とする一方「もっと早く報告するよう基準を見直すべきか、議論していく」とした。

今回の新型肺炎に限り、国立感染研は15日から、肺炎の症状があれば重症でなくても保健所に相談するよう求めている。

武漢市衛生健康委員会によると、原因不明の肺炎発症が最初に確認されたのは19年12月12日。他の国が武漢滞在歴のチェックを始め、厚労省も1月7日になって検疫所で武漢滞在の自己申告を呼びかけ始めた。

厚労省の担当者は「当初は武漢からの入国者を見つけても感染を確認する手法がなかった」と説明。「検疫強化には限界があり、今後も患者が国内で見つかる可能性はある。患者を把握した後、早めにフォローできる体制を整えたい」と話す。

新しい感染症の流行を防ぐため、国際的には流行地域の政府が世界保健機関(WHO)に報告することを求める仕組みがある。05年に国際的な規則が改正され、隣国に広がる恐れのある新たな感染症を検知した後、24時間以内に通告する義務が課せられた。

中国当局は11日に肺炎の原因を新型コロナウイルスと特定し、12日に遺伝子配列情報を他国に公開した。03年に中国から重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際、同国は世界から報告の遅れを批判された。厚労省の担当者は「当時と比べ、中国側の情報開示は格段にスムーズになった」としている。

武漢市衛生健康委員会によると、14日時点で発症した41人のうち1人が死亡し、6人が重症となった。患者の発生が集中した海鮮市場は1日に閉鎖されており、3日以降、中国で新たな患者は出ていない。

夫婦間の感染が疑われるケースがあったことなどから、同委員会は「人から人に感染する可能性を排除できない」として調査を続けている。神奈川県の男性も海鮮市場には立ち寄っていなかったが、武漢市で肺炎患者と一緒に過ごしていた。

厚労省は同居する家族や医療従事者などの「濃厚接触者」以外にまで感染が拡大する可能性は低いとみており「過度に恐れる必要はない」と冷静な対応を求めている。

感染症に詳しい東北大の押谷仁教授は「SARSは発生後にウイルスが変異し、人から人に素早く感染するようになり、世界での流行につながった」と指摘。「新型ウイルスが同様に変異する可能性がないとは言い切れない。病原菌を精緻に調査する必要がある」と話している。

■2020.1.17  新型コロナウイルス肺炎で死者2人目 中国、69歳男性
中国湖北省武漢市当局は16日夜、新型コロナウイルスによる肺炎で男性(69)が15日に死亡したと発表した。死者は2人目。武漢では17日、発症者の多くが出入りしていたとされる海鮮市場の閉鎖が続いていた。国際空港は通常通り航空便が発着していたが、マスクを着けた人も見られた。

当局によると、男性は昨年12月31日に発症し、今月4日に病状が悪化した。市内の病院に入院して治療を受けていたが、深刻な心筋炎を患っており、胸水や、胸膜の肥大などが確認された。15日未明に死亡した。

当局は15日時点で41人の発症者数は変わらず、重症は5人で、12人が退院したと明らかにした。

濃厚接触者は763人に上り、そのうち119人に対し医学的な観察を続けている。濃厚接触者の中で関連の症例は見つかっていない。

武漢の空港でマスクを着けていた武漢市の30代の大学職員は「生活に支障は出ていない。人の多い場所では念のためマスクを着けている」と話し、一緒にいた家族にもマスクを渡していた。

新型コロナウイルスによる肺炎を巡っては武漢市当局が11日、60代男性が死亡したと初めて明らかにした。中国以外でも発症者が確認されており、タイは13日、観光で訪れた武漢市の60代女性が罹患(りかん)していると公表。日本も16日、武漢市に滞在歴がある30代の中国人男性が発症していたと発表した。

中国では春節(旧正月)に伴う大型連休が24日から始まり、多くの人が海外旅行に出かける。感染拡大を防ぐためには空港での水際対策が重要となりそうだ。

■2020.1.17  ユニ・チャーム マスク増産 新型ウイルスで
ユニ・チャームはマスクの増産を始めた。複数の国内工場で16日から夜間操業を始め、17日には日中のみの通常稼働から24時間操業に切り替えた。厚生労働省が16日、中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎患者を日本で確認したと発表し、小売店からの発注が急増したため。25日の春節(旧正月)を控え、帰国する中国人の需要拡大にも対応する。

■2020.1.31  「障害者福祉事業」の倒産が過去最多
2019年の「障害者福祉事業」倒産は30件(前年比30.4%増)で、過去20年で最多を記録した。小規模事業者の「販売不振」、「放漫経営」が目立ち、「人手不足」関連倒産も5件発生した。

障害者を支援する生活介護やグループホームなどと、障害福祉サービスを手掛ける企業の倒産を集計し、分析した。

2009年に「障害者雇用促進法」が大幅改正され、障害者の雇用機会が拡大している。厚生労働省によると、民間企業が雇用する障害者の数は過去最高の約56万人(従業員45.5人以上、2019年6月1日現在)に増加。また、2013年4月に「障害者総合支援法」が施行され、生活介護や障害福祉サービスへの民間企業の進出も加速し、障害者の就労機会は広がっている。

だが、雇用拡大の裏側で2017年9月、一般社団法人あじさいの輪(TSR企業コード:712230360、岡山県、民事再生法)が経営不振から障害者約220名を解雇したケースも起きている。さらに、障害者向け介護サービスでは介護職員の人手不足が深刻さを増し、倒産が急増している。

障害者の支援拡大を掲げる民間企業のなかには、補助金などを狙った安易な市場参入とも疑念が生じる企業も含まれている。「障害者福祉事業」の倒産急増の背景には、放漫経営や業績不振など事業上の問題だけでなく、経営者を含めた業界の健全化も急務になっている。
※ 本調査は、「日本標準産業分類 小分類」における、居住支援事業と就労継続支援A型など「障害者福祉事業」の倒産を抽出し、分析した。

◇過去最多を更新
2019年の「障害者福祉事業」倒産は30件だった。調査を開始した2000年以降、過去最多だった2017年と2018年の各23件を大幅に(30.4%増)上回り、最多記録を更新した。

2000年から2006年まで、「障害者福祉」事業者の倒産はゼロだった。2006年4月の「障害者自立支援法」の施行で、これまで障害関連事業の認可は社会福祉法人だけだったが、規制が緩和された。さらに2013年4月、「障害者総合支援法」が施行され、民間企業の参入への敷居が低くなり、給付金や補助金を頼りにした企業が大幅に増加した。

厚生労働省は、生産活動による収益だけでは障害者の賃金を支払うことが困難な就労継続支援A型事業所を指導するなど、適正化を進めている。適切な事業運営をせず、経営改善が見込まれない場合は、「勧告」や「命令」などの措置が講じられることもある。こうした流れを背景にして、補助金に頼り、自立が難しい事業所の淘汰が始まった。さらに、障害者福祉事業の分野でも「人手不足」が広がり、小規模事業者の倒産が全体を押し上げた。

◇原因別 無計画など事業上の失敗が全体の2割を占める
原因別では、最多が販売不振の16件(構成比53.3%)で全体の5割を占めた。次いで、事業上の失敗(放漫経営)が6件(同20.0%)で、安易に参入した企業の放漫経営が急増している。

◇負債額別 小規模事業者が大半を占める
負債額別では1億円未満が25件(構成比83.3%)と全体の8割を上回り、「障害者福祉事業」の倒産はほとんどが小規模事業者だった。

◇従業員数別 従業員5人未満が7割
従業員数別では5人未満が21件(構成比70.0%)と7割を占めた。次いで、5人以上10人未満が5件(同16.6%)、10人以上は4件(同13.3%)にとどまった。

◇資本金別 NPO法人や一般社団法人など個人企業他が4割
資本金別では、1000万円未満が17社(構成比56.6%)と過半を占め、1000万円以上は1件にとどまった。特定非営利活動法人(NPO)などは12件(同40.0%)だった。

◇地区別 近畿が最多、関東、九州が続く
地区別では、近畿が11件(構成比36.6%)で最多。次いで、関東7件(同23.3%)、九州6件(同20.0%)、北海道3件(同10.0%)、中部2件(同6.6%)、中国1件(同3.3%)の順。
 東北と北陸、四国は、発生がなかった。

倒産した「障害者福祉」事業者の創業計画を検証すると、創業前に報告された計画と実態が大きく乖離したケースが少なくない。障害者福祉事業の中には補助金の不正受給に手を染めた企業、無計画に採用した職員を大量解雇する企業など、悪質な企業や理念先行で資金が追い付かない企業などが玉石混交で参入している。

(社福)白百合福祉会(TSR企業コード:035117303、福岡県、2019年7月破産)は、障害者向けサービスを手がけていたが、給付金などの不正受給が発覚し事業継続が困難になった。

また、(特定)はじめの第一歩(TSR企業コード:576821012、兵庫県、2019年4月破産)は、障害者向けデイサービスに従事した従業員への賃金未支払いが発生。最低賃金法の疑いで労働基準監督署から書類送検された。

厚労省によると、民間企業の就労継続支援A型のうち、生産活動による収入が最低賃金を下回り、経営改善計画の提出を求められた事業所が7割近く(66.2%、2019年3月)に達する。自立支援給付費等に頼らず、自力運営が可能なA型事業所は一握りに過ぎない。

障害者の雇用は以前より拡大している。それだけに将来も安心して働ける職場と環境つくりが必要であり、福祉サービスを提供する「障害者福祉事業」の存在感は増している。国や自治体はさらなる支援の積み上げと同時に、企業も独自の経営基盤強化が求められている。

■2020.1.31  コロナウイルスの「国内感染」はもはや免れない
中国・武漢市に端を発し、全世界で感染者・死亡者の報告数が急増している新型コロナウイルス感染症。1月28日には、日本国内でもヒト-ヒト感染による感染者が発生した。当該人物は明らかな発症者との接触がなかった。中国衛生当局も指摘するどおり、長ければ2週間に及ぶ潜伏期間中の感染者(キャリア)から、感染した疑いがある。発生以来、多くの感染者が日本に入り、確認されていない国内感染者がすでに大勢いると見るべきだ。それを前提に、国民1人ひとりが正しい知識を持ち、共有し、予防のために行動するのが、現実的な方策である。

日本国内で感染拡大がすでに始まっている
昨年末には確認されていた新型コロナウイルス感染症だが、ここへきて指数関数的に患者が増加し始めている。その原因としては、潜伏期間の長さと、軽い初期症状が挙げられるだろう。一般的なウイルス感染症が48時間程度の潜伏期間で発症することが多いのに対し、今回のウイルスは潜伏期間が1〜2週間と長い。また、初期症状が咳や関節痛、悪寒、下痢など風邪と酷似している。気づかないうちに感染を広げている感染者は、確認されているよりもずっと多いはずだ。

中国政府は感染拡大を防ぐため、1月23日に武漢を封鎖(公共交通機関を閉鎖)したが、その前後に同市人口のほぼ半分に当たる500万人が武漢を脱出したとも言われている。ウイルスはもはや中国全土、そして世界に、把握されている以上に拡散していると見るべきだ。

当然、日本も例外ではない。昨年12月に武漢で初めて患者が報告され、1月中に中国内での感染が広まって以降も、日本は中国からの渡航者を制限なく受け入れてきた。冒頭に挙げた国内初感染者も、武漢からの観光客を乗せたバス運転手だった。その後、同乗のツアーガイドの女性の感染も明らかになり、3次感染の可能性が指摘されている。そして今なお、中国からの観光客が日々、続々と訪れている。

日本経済や日中関係を考えればやむをえないだろう。特に観光業・小売業が今日、中国観光客に大きく頼っていることは否定できない。中国からの訪日旅行客は2018年には838万人に上り、日本国内で1人平均22万円以上を消費している(うち12万円近くは、百貨店、ドラッグストア、スーパーマーケット、空港内免税店などでの買い物。『訪日旅行データハンドブック2019』による)。単純計算で、2兆円近い市場だ。

しかも、バス運転手たちが武漢からの観光客と行動を共にしたのは、感染発覚よりも2週間も前のことだ。それから発症までの10日余り、国内で日常生活を送る中で、当然ながら多くの人と接触している。その間に感染を広げていない保証はどこにもない。

さらに、武漢から政府チャーター機第1便で帰国した日本人206人のうち、3人が新型コロナウイルスに罹患していたことが判明(症状のある50代男性と、無症状の40代男性、同50代女性)。これを元に単純計算すれば、封鎖直前の武漢から日本を訪れた人の1.5%がウイルスを持ち込んでいる可能性もある。

そうした状況を踏まえると、日本国内での感染の広がりを未然に防ぐことは、もはや現実的ではない。必要なのは、感染拡大を前提として、正しい知識を共有し、各自ができる限りの予防に努めることだ。

以下、これまでにわかっていること、そのうえですべきことをまとめておく。

コロナウイルス自体は珍しいウイルスではない
世界中が危機感を募らせているが、コロナウイルス自体は決して珍しいウイルスではない。年間を通じて流行する、一般的な風邪の原因ウイルスの約10〜15%は、コロナウイルスである。「コロナ」とは、ギリシャ語で王冠を意味する。ウイルスを顕微鏡で見たときに、表面に突起が並び、王冠のように見えることから名づけられた。

ヒトの間で感染するコロナウイルスは、これまでに6種類の型が知られている。そのうち4種類は風邪の原因となり、あとの2つはいわゆるSARS(重症急性呼吸器症候群)とMERS(中東呼吸器症候群)だ。しかし今回の武漢発コロナウイルスは、そのいずれとも型が異なる。世界保健機関(WHO)ではこれを一時的に、「2019-nCoV」と命名した。すでにヒト-ヒトの4次感染が起きていると警告している。

では、この新型コロナウイルスは、どうやって生じたのだろうか?

有力視されているのは、武漢の市場で売買されていた野生動物からヒトへの感染だ。コロナウイルスは元来、ヒトだけでなく、動物間で感染するさまざまな型が存在する。それがまれに、ヒトにも感染することがある。さらに、感染したヒトの体内で変異が生じ、ヒト-ヒト感染を起こす新たな型となって大流行を起こしたのが、SARSやMERSだ。

SARSはハクビシン(推定)から、MERSはヒトコブラクダから、それぞれの動物のコロナウイルスが人へと感染したのが発端だ。さらに元をたどれば、コウモリに由来すると言われている。実際、今回の新型コロナウイルスの発生源と目される武漢の市場では、野生動物が山積みになって違法に売られていた、という話も聞く。

気になるのは感染力と、危険性の指標となる致死率だ。

WHOは1月23日の発表で、発症者の4分の1が重症、致死率4%としている。また、中国・国家衛生健康委員会当局は、国内の死者は1月30日の時点で累計170人、感染者は7711人と発表した。

ただ、中国当局が感染の全容を把握できている、あるいは、その発信する情報が全容を正しく反映している保証はない。

2002年11月に広東省でSARSが発生した際は、中国政府が当初その事実を隠蔽していた。最初に世界へ警報を発したのはWHOで、ようやく2003年3月のこと。しかも、香港やベトナムでの謎の肺炎が発生した、というものだった。WHOの調査チームは「国際社会は中国の統計をまったく信用していない」と糾弾した。最終的にSARSの終息宣言が出されたのは、2003年7月。最初の発生から8カ月もかかっている。それまでに8098人が罹患し、774人が亡くなった(WHOによる)。

今回の新型コロナウイルス感染症でも、中国当局の発表とは異なる見方をしている人は多い。

米英の研究チームは、今年1月22日の時点では武漢だけで1万4464人が感染しており、年始から累計2万1022人が感染した見込み、との試算を発表した。武漢で確認されている感染者は、実際の感染者の5%に過ぎないという推測に基づいている。さらに、このままの割合で患者が増え続ければ、実際の武漢の患者数は1月29日には10万5077人(少なく見積もって4万6635人、多く見積もって18万5412人)に達するだろう、とした。

同チームは、1人の感染者が他者に感染させうる人数を3.11人と推定。WHOが1月23日に示した1.4〜2.5人との予測を上回る。

さらに、感染力に関して懸念されるのは、「スーパースプレッダー」の出現だ。1人で数十人の他者に感染させてしまう感染者のことだ。SARS流行の際に初めて、発生から3カ月程度の時点で出現が確認された。ヒト-ヒト感染が進むうちに出現すると考えられ、その局面に入ると感染が一気に広がると見られる。

スーパースプレッダーがすでに存在している可能性も示唆されている。中国内の1つの病院で、15人の医療従事者が感染したケースだ。そのうち14人は、1人の患者から感染したと「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」で報じられている。これが真実であれば、その1人はスーパースプレッダーに他ならない。

感染力は、公式発表より実際には高い可能性がある。

致死率に関しては、新型コロナウイルス感染症は上記の数字から計算せざるをえないが、1月28日の時点で2.2%となっている。他方、SARSは9.6%である。また、MERSに関しては、昨年11月の時点で感染者数858人、死者2494人で、致死率は34.4%に上る(今も終息宣言は出ていない)。現時点の致死率を見る限り、新型コロナウイルスの毒性の強さについては、過度に心配する必要はなさそうだ。

では、どのような人が死に至るような、重篤な症状に陥るのだろうか?

当初は、入院が必要なほどに重症化するのは、高齢者や糖尿病、高血圧など基礎疾患のある人とされていた。要するに免疫力が低下している人々だ。当然、油断は禁物である。

ただ、医学誌『The Lancet』に1月24日に発表された論文では、武漢での流行初期の入院患者41人のうち、25〜49歳が約半数(20人)を占めていた。25歳〜64歳で見ると、実に8割(33人)を占めた。また、感染前に基礎疾患を患っていたのは3割(13人)で、ほかは健康だった。肺炎は100%発症するが、発症後しばらくは軽症で、呼吸困難に陥ったのは8日後、という例が多かった。

基礎疾患のない成人の死亡例も出ている。中国で1月23日に亡くなった男性は39歳、持病はなかった。

基礎疾患のない成人が急激に症状を悪化させてしまう現象の1つに、「サイトカインストーム」がある。

ウイルスなど外敵が体内に侵入してきた際に、白血球が攻撃開始にあたって上げる“のろし”が、サイトカインと総称されるタンパク質だ。これにより体は白血球をさらに動員し、体温を上げてウイルスの増殖を抑えたり、咳や鼻水を生じさせたりと、さまざまな反応を起こす。

このとき、一部の人では、その反応が強く出すぎて自身の体に大きなダメージを与えることがある。それがサイトカインストームである。はしかやおたふくは子どものうちにかかると軽く済む、というのはよく知られた現象であり、イメージしやすいはずだ。ほかにも、H7N9インフルエンザやエボラウイルス感染症などで、サイトカインストームが重症化や死を招くことが知られている。

上記39歳男性の死亡原因が、サイトカインストームによるものかはわからない。しかし今後の感染拡大に伴い、健康な成人が罹患し、サイトカインストームにより重症化する例も増えてくるだろう。

■2020.1.31  新型肺炎で「インバウンド4000万人」に黄信号  訪日客消費額「8兆円」の大目標が遠ざかる
新型コロナウイルスが猛威をふるっている。中国の国家衛生健康委員会の1月29日までの発表によると、死者は計132人に上った。 

発熱や上気道症状を引き起こす新型コロナウイルスは、中国湖北省の武漢市において2018年12月に同ウイルスに起因する肺炎の発生が報告され、その後、日本でも患者の発生が報告されている。

これを受け、全日本空輸(ANA)は1月29日、当初2月1日としていた成田ー武漢線の欠航期間を3月1日まで延長すると発表。日本政府も同28日に武漢へANAのチャーター機を送り、29日に現地に滞在していた日本人206人を帰国させた。ANAの武漢便の欠航により影響を受ける旅客人数は約5800人という。

新型コロナウイルスにより大きなダメージを受けているのが観光産業だ。中国政府はウイルスを封じ込めるため、同国からの海外団体旅行を禁止。沖縄県内を訪れる観光客のキャンセルも1万3000人を超えたという。今後、キャンセル数はさらに増加する見通しだ。

中国発の新型感染症といえば、2002年後半から2003年半ばまで世界で8000人以上が感染し、700人超の死者を出したSARS(重症急性呼吸器症候群)が挙げられる。

SARSの中国における感染数は5327人。対して今回の新型コロナウイルスは28日までで同5974人、疑いがあるのは9239人と、その伝播はすさまじい勢いだ。SARSの発生時は、訪日観光客への影響は数カ月程度で収まった。しかし、野村総合研究所によると、仮にSARSと同等の影響が1年間続いた場合、「新型肺炎の影響(のうち、インバウンド需要の減退のみ)で日本のGDPは2兆4750億円、実に0.45%も押し下げられる」(野村総合研究所)可能性があるという。

2020年までの達成を目指してきた訪日観光客の政府目標4000万人にも黄信号が灯っている。安倍政権は地方創生を重要戦略に据え、観光政策をその戦略の柱とした。2013年にはビザの発給要件を緩和し、免税対象品目も拡大。2012年に836万人に過ぎなかった訪日観光客数は2018年についに3000万人を上回った。

7月開幕の東京オリンピック・パラリンピックによる特需を織り込めば、2020年に4000万人の達成も視野に入る勢いだった。

日韓対立が激化し、訪日客数に急ブレーキ
ところが、とんとん拍子で成長してきた日本の訪日客数に2019年、急ブレーキがかかる。

歴史認識や安全保障をめぐる問題で、訪日客の2割強を占める韓国との緊張が高まり、韓国人訪日客は2019年8月から急減。前年比で60%以上減少する月が続き、2019年の訪日客数は前年比2.2%増の3188万人にとどまった。

そこで政府が目をつけたのが、中国人の訪日需要だ。実際、訪日客のうち中国人の観光客数は、韓国との関係が悪化する前の2018年が838万人と一番多い。インバウンド政策の陣頭指揮を執る菅義偉官房長官は2019年8月、東洋経済の取材に「今年(2019年)に入っても中国人訪日客数は10%程度の伸びを維持している。中国人訪日客は、どんどん増えるだろう」と訪日中国人に期待を寄せていたが、今回の新型コロナウイルス問題でそれも見込めなくなった。

訪日観光目標を「量」から「質」へ転換しようという動きも今回、水を差された格好だ。政府は2020年の目標として、訪日観光客数4000万人と同時に、観光消費額8兆円という目標も掲げている。

2019年時点の進ちょく率は、観光客数が3188万人、約80%なのに対し、観光消費額は4.8兆円、同60%と低い。その原因の1つは、滞在日数が短く、物品購入額が小さい韓国人観光客の比率が大きいことにある。韓国人観光客の1人あたり旅行支出(一般)は2019年で約7万5000円と、全体平均の約15万8000円を大きく下回っている。

「日本のインバウンド戦略が、人数ではなく消費額という『質』の重要性を再認識し、正しい方向に向かう転機になるのでは」(観光産業の研究家)という声もあがっていたが、中国人観光客の減少となると話は変わってくる。

一時期「爆買い」という言葉が流行ったように、中国人観光客の消費意欲は強く、1人あたりの旅行支出は約21万3000円(2019年)。まさにインバウンド戦略における「上客」だったため、新型コロナウイルスによるダメージは大きくなりそうだ。

地方の高級ホテル50カ所構想へ疑問の声
インバウンド戦略の数値目標を客数から消費額へシフトする象徴といえるのが、菅官房長官が2019年12月に示した、地方で高級ホテルを50カ所整備する方針だ。5つ星レベルのホテルを求める層の誘客や、より多くの支出を促す狙いがある。

しかし、この政策には観光業界から冷ややかな視線が送られている。あるラグジュアリーホテルの幹部は「平均客室単価が4万円を超えるようなラグジュアリーホテルを地方で実現するためには、地域の綿密な観光マーケティングに基づいたコンセプトと、その価値観を体現するためのオペレーションができる人材が欠かせない。観光マーケティングが洗練された地域は一握りであり、そのような人材も足りない」と切り捨てる。

別の業界首脳も「方向性は間違いではないが、ラグジュアリーを実現できる場所は世界でも限られる。どこまで政府が支援できるのか」と懐疑的だ。

東京オリンピックで日本を世界にアピールし、2030年に訪日観光客6000万人、観光消費額で15兆円を目指すとしてきた日本のインバウンド政策。これまで右肩上がりだった時代が一変し、コロナウイルスという逆風が吹き始めた観光業界の課題は、欧米や成長著しい東南アジアなど、次なる顧客の開拓となりそうだ。

 

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