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 2020.11.12 「介護事業者の倒産」が過去最多に!苦境の裏側を東京商工リサーチが解説


■2020.11.12  「介護事業者の倒産」が過去最多に!苦境の裏側を東京商工リサーチが解説
介護報酬の改定を来春に控えるなか、介護事業者の倒産が過去最悪ペースで推移している。倒産急増の背景には、ビジネスチャンスをつかもうと参入した事業者の淘汰と、ヘルパーなど介護人材の人手不足がある。さらにコロナ禍で「3密」回避が浸透し、デイサービスなどでは想定外の利用手控えも起きている。(東京商工リサーチ情報部)

倒産と休廃業・解散はともに過去最多の見込み

過去の介護報酬の改定では、2015年度に基本報酬が2.27%切り下げられ、2015年は小規模事業者を中心に「老人福祉・介護事業」の倒産は76件(前年比40.7%増)と急増した。その後も流れは変わらず、2016年には108件(同42.1%増)、さらに2017年は介護保険法が施行された2000年以降で最多の111件(同2.7%増)に達した。

2018年度の介護報酬改定で0.54%引き上げられたが、ヘルパー採用が進まない事業所などの倒産は止まらなかった。2019年も2017年と並ぶ最多の111件(同4.7%増)と高止まりしている。

2021年度の介護報酬の改定を目前に、2020年1−10月の「老人福祉・介護事業」倒産は、すでに104件(前年同期比10.6%増)に達した。このペースでいくと年間最多の111件(2017年と2019年)を上回ることがほぼ確実だ。

また、休廃業・解散は、倒産を上回る勢いで増えている。2020年1−8月で313件(速報値、前年同期比19.0%増)に達し、年間最多を記録した2018年の445件を上回り、こちらも年間最多を更新する可能性が出ている。

2020年1−10月における「老人福祉・介護事業」倒産の104件を分類すると、小規模な「訪問介護事業」が48件(構成比46.1%)で突出している。ヘルパー不足が深刻で、採用に苦戦していることが背景にあるようだ。

次いで、過小資本のスタートアップで参入したものの、大手事業者との競合で脱落したデイサービスなど「通所・短期入所介護事業」が32件(同30.7%)、有料老人ホームが10件(同9.6%)と続き、この3業種で全体の約9割を占める。
いずれも市場拡大を見込み、緻密なノウハウがないまま安易に参入した小・零細事業者が多い。資金力がぜい弱で、事業が軌道に乗ることなく行き詰まった事業者が目立つ。

こうした事業者の乱立は介護業界の特徴の一つで、耐性に乏しい事業者の淘汰はある意味避けられない。しかし、介護を必要とする利用者が置き去りにされないように、何らかの手立てを政府、自治体は講じるべきだろう。

淘汰の波は零細規模の事業者だけでなく、大型の介護老人保健施設も例外ではない。

鳥取県の社会福祉法人中央会(鳥取市)は8月13日、鳥取地裁から破産開始決定を受けた。負債総額は2020年3月期で約6億8000万円に達し、介護業界では大型倒産となった。
中央会は鳥取市の監査で医師の配置不十分を指摘され、介護報酬の過誤受給も発覚していた。中央会に限らず、立派な施設の裏側で過大投資が負担になり債務超過に陥った施設もあり、倒産リスクが小規模事業者だけでない実態を浮き彫りにした。

介護事業のコロナ破綻がわずか3件という謎

新型コロナで経済活動は収縮している。だが、政府の緊急避難的な支援効果で全業種の倒産は1−10月累計で6646件(前年同期比4.4%減)と沈静化している。新型コロナ関連破綻も6月の103件をピークに、7月は80件、8月も67件と減少をたどっていた。

ところが、9月は100件に急増。10月は105件と月間最多を更新し、新型コロナ関連破綻は、集計対象外の負債1000万円未満を含めて11月5日に700件を突破した。コロナ収束が長引き、業績回復の遅れから支援効果の息切れが始まったとみられる。
新型コロナ関連破綻は、休業要請や外出自粛、時短営業などが直撃した飲食業が100件超えと突出している。また、消費関連のアパレルや宿泊業も目立つ。

「老人福祉・介護事業」も新型コロナ感染拡大と無縁でない。体力の弱い高齢者が3密を避けるようになった。さらに、在宅勤務の浸透で家族の介助が増え、実質賃金の目減りで資金負担を避ける動きもある。こうした要因から利用者の減少が目立ってきたが、新型コロナ関連の破綻は、判明する限り3件にとどまっている。

新型コロナの影響は「老人福祉・介護事業」も例外でなく、経営環境は厳しさを増している。当初、政府や自治体、金融機関の緊急融資や制度融資、納税猶予・減免、家賃支援給付金などの支援策でひと息つき、一時的だが資金繰りは緩和した。また、雇用調整助成金や介護事業者向け慰労金、感染防止対策などの支援策も効果をみせている。

だが、新型コロナ関連破綻が少ない理由を、介護事業者は別の見方をしている。関係者は、「支援を受けながら倒産すると、新型コロナが原因とは言いにくい。実際は、新型コロナで倒産した事業者はもっと多いはず。支援効果が薄れ、倒産はさらに増えてくる」と声を潜める。倒産原因が新型コロナでも、それを理由にできない。そんなムードがあるようだ。

昨年まで深刻だった人手不足は、世間では鳴りを潜めたが、介護業界では今も引きずっている。倒産全体は小康状態だが、違う動きが介護業界の根底では流れている。

人手不足の解消鍵は若者と外国人
介護事業者は、慢性的な人手不足にある。2020年9月の有効求人倍率は1.03倍と9カ月連続で下落した。だが、「介護サービスの職業」の常用(含むパート)の有効求人倍率は3.82倍で、ヘルパーに限れば2019年度の有効求人倍率は15.03倍に達し、介護現場の人手不足は深刻だ。若者が飛び込みにくい業界で、ヘルパーの高齢化も進んでいる。高齢従事者の退職が迫るなか、介護業界の現場は想像以上に労働需給がひっ迫している。

介護業界の関係者は、「生死に関わる重要な仕事で、責任の重さと賃金が釣り合わない」と考える若者の気質を指摘する。実際、ヘルパーから新型コロナに感染したとみられる高齢者が亡くなり、遺族が事業所に損害賠償を求めて訴えたニュースも報道されている(その後、和解成立)。収入と責任の狭間で苦悩する介護業界に、新型コロナは暗い影を落としている。

こうした事態に、国も手をこまねいているわけではない。これまで介護報酬の改定では、介護職員の処遇改善などを進めてきた。厚生労働省は、2021年度から未経験者が介護事業に転職すると支援金20万円を支給する制度も設ける意向だ。これは2年間、介護事業に従事すると返済を免除される。リーマン・ショック時に行き場をなくした人が介護業界に流入し、一時的に人手不足は緩和した。だが、再び介護の現場は人手不足が加速している。

不足する介護人材の確保に向け、外国人受け入れの環境整備も進む。11月から出入国在留管理庁の主催で、「外国人材受入支援体制の強化」のマッチングイベントが各地で開かれている。新型コロナ収束後を見据え、特定技能外国人と中小・零細事業者のマッチング機会を提供し、人材確保につなげたい思惑がそこにはあるようだ。

若者も外国人も、介護職員として自立するには研修や経験、時間が必要だ。これまで採用しても、景気が回復して他の業種で賃金が上昇すると介護職員が離職するなど、介護業界の抱える本質的な問題が繰り返されてきた。介護業界に携わる人に、夢と待遇改善を示せるかが問われている。

コロナ禍で注目される
来春の介護報酬改定
 2021年度の介護報酬改定はどうなるのか。新型コロナ感染拡大のなか、2018年度に引き続き介護報酬がプラスになるのか。政府は介護離職ゼロに取り組むが、訪問介護やデイサービスなど介護事業者の倒産は過去最多に向かっている。新型コロナでこのまま収入不足が続くと、支援策も一時しのぎにすぎないだろう。

人手不足で介護サービスの料金高騰、利用サービスの制限が現実味を帯びている。厳しい環境にさらされる現場から人は離れ、介護離職ゼロは困難になる。

厚労省などは生産性の向上に向け、介護ロボットやAI、ICT(情報通信技術)を駆使した省力化を目指している。だが、利用者が求める優しさやいたわり、感触、知見を生かした介護技術は、簡単に数値化できない。介護の現場には省力化や経済合理性だけでない、温もりを感じられる人の定着が欠かせない。

介護報酬がプラスになっても、介護業界を取り巻く環境が激変するわけではない。倒産が減少し、人手不足が解消するには、事業者側の意識の変化だけでなく、介護業界の将来を支える国の本気度が問われている。2021年度の介護報酬改定はその試金石として注目すべきだろう。

 

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