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残しておきたい福祉ニュース

 2020年 
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 2020.12. 2 離職率高い介護業界で脅威の低離職率を実現する工夫
 2020.12.22 働き盛りの世代、軽症者に続出する「コロナ後遺症」の実態。500人以上を診療した医師が語る「今わかっていること」
 2020.12.23 手放せない酸素ボンベ 元重症患者が語る“コロナの恐怖”と後遺症
 2020.12.23 「コロナを甘く見ないほうがいい」元重症患者が語る壮絶闘病 感染3か月後も"リハビリ生活"
 2020.12.23 軽症だった女性が苦しみ続ける“コロナ後遺症”「説明できない味…」退院からは4か月
 2020.12.24 感染対策「東京が一番やっていない」 時短強化を渋る都 専門家がいらだつ理由とは
 2020.12.26 若い世代でも倦怠感・記憶障害のコロナ後遺症
 2020.12.26 東京、最多の949人感染 増加歯止めかからず、新型コロナ


■2020.12.2  離職率高い介護業界で脅威の低離職率を実現する工夫
社会福祉法人「スマイリング・パーク」の理事長、山田一久は、低賃金で重労働という介護業界のイメージも打ち破った。驚くのは、離職率の低さだ。わずか3%にとどまる。全国平均16.2%(2017年度)を大幅に下回る。安定した就職先として定番の市役所にも引けを取らない。

どうしてこんな“離れ業”を実現できたのか。山田は振り返る。

「私たちも、かつては高い離職率で悩まされ、25%ほどだったのです。介護のニーズにこたえるどころか、サービス自体継続できるかどうか危機的な状況だった」
劇的な変化のきっかけは、ICT(情報通信技術)という。施設長を任された山田が2011年に本格導入した。狙いは、職員の事務作業の軽減だ。職員が高齢者の介護に集中するためには、不可欠だった。

「介護の現場は、やりがいをもって働けるような職場づくりを始める必要があります。そのためにはICTが大きな力となります」

定時の見回りがない理由
この施設の最大の特徴は、目には見えないところにある。パソコンやスマホに組み込まれた情報だ。
それは、職員の業務の隅々まで浸透している。老人ホームでは通常、職員は定時に見回りし、おむつを替えたりする。「ほほえみの園」は様相を異にする。必要に応じて職員が部屋に入る。
職員は定時の見回りから解放された。なぜそんなことが可能となったのか。その秘密は、入所者の部屋のベッドにある。マットレスの下にあるセンサーが入所者の情報を把握し、その情報は同時に、職員のスマホやパソコンにイラストで表示される。

「眠っている」、「横になっているけど寝ていない」、「ベッドで体を起こしている」、「ベッドを離れている」。さらには呼吸数などが、リアルタイムで伝えられる。

ベッドで横になっていた人が、体を起こせば、何か行動する可能性がある。トイレに行きたいのかもしれない。その時、職員のスマホにお知らせ音が鳴る。しかも、鳴るタイミングは、入居者それぞれ異なる。動作のスピードが違うからだ。一人ひとりの特性に合わせるやり方は、驚くばかりだ。職員はお知らせ音を聞き、支援が必要かどうかそっと部屋の様子を伺う。

 入所者にとっても、職員にもってもメリットが大きいシステムと言えよう。山田は喝破する。

「これまでの職員による夜間巡回は、入居者のプライバシーや睡眠を妨げていました。さらにタイムリーに入室できず、トイレの誘導などができなかったのです。また、巡回の業務自体が非効率で、職員の業務負担が大きかったのですが、施設で導入したシステムは、こうした難点を克服してくれました」

さらには、もう一つ大事なポイントがある。現場を仕切っている部長の吉村陽子の言葉は具体的だ。

「『寝られないので、眠剤(睡眠導入剤)をください』と訴えられる入所者もいますが、データをみると、しっかりと寝ておられる場合も少なくありません。私たちは、本人の訴えだけでなく、データに基づいた情報を主治医に提供し、眠剤などの調整をお願いしています。このことは、過剰な薬の摂取を防ぐ効果も生み出しているのです」
薬の飲みすぎを未然に防ぎ、結果的には、医療財政の負担軽減にもつながる。また、データはそのまま患者の日誌としてオンライン上に記録される。職員が業務の後で記載する手間が省ける。

介護の仕事の生産性を上げるため、ICTを徹底的に使う。それが、山田の戦略だ。

スタッフは介護記録をつけるために就職したのではない
 特別養護老人ホーム「ほほえみの園」ができたのは、2002年だった。山田はその時、一職員として働き始めた。

「当時の職員は仕事の多さに疲弊しきっていました。実際の介護だけでなく、介護職員として手書きで『記録』を残すことにも時間をとられていました」
記録は多かった。日誌だけでも、業務日誌、介護日誌、看護日誌がある。さらには、申し送りノート、ナース記録、排せつ・食事・入浴チェック表など一つ一つ手書きだった。職員は、それに時間を取られていた。

「職員は決して記録を書くために就職したのではありません。高齢者のことが好きで、しっかり寄り添い純粋な気持ちで介護したいという気持ちで働いているのです。そんな思いにこたえるためには無駄な業務を徹底的になくすことが大事だと考えました」

山田のICT戦略は始まった。具体的には、職員は入居者の隣で、食事や水分の補給、入浴、服薬などの記録を携帯用パソコンで入力した。さらに、入居者一人ひとりの病歴、生活状態、家族構成などの情報も入っている。
そのデータはどのパソコンからも閲覧できる。情報は一度、入力するだけで共有できある。それは、大幅な業務の効率化につながった。

ただ、すんなりとITC化が突き進んだわけではない。改革には“抵抗勢力”がつきものだ。一部の職員からは、不満の声が上がった。「手書きの方がいい」、「パソコンなんてわからない」、「入力するのにかえって時間がかかる」、「今から覚えるのは無理だ」。

“抵抗勢力”にもきめ細かく対応
山田は、こうした不満には正攻法で、対応した。講習会を開催したり、写真付きのマニュアルをつくったりした。新人が入れば、教育担当が、丁寧に教えた。
「職員たちは、普段利用しているスマホやメール操作と変わらないことを徐々に認識し、ICT化への抵抗感はなくなった」

さらに、声がそのまま文字になるシステムを導入した。職員は、マイクをつけて、パソコンに向かって話すだけだ。それがそのまま文字になる。介護現場では、初の試みだ。
そのシステムは、高度な学習能力を持ち、職員それぞれの声の特徴を読み取る。介護記録のような文章なら、ほぼ完ぺきだ。操作に慣れれば、キーボードで入力する時間の半分で、文字にすることが可能という。

あの手この手でコンピューターによるシステム化を図った。その結果、業務は著しく、効率化された。
「ほほえみの園」では、情報はシステム上で共有化されている。そのため、対面による引き継ぎは、あまり時間をかけない。
「こうした取り組みは、決してコストカットだけが目的ではありません。最大の狙いは職員の意識を入居者への介護に集中させることです。これまで机で、記録を書くことに時間を取られていたが、その労力がなくなると、入居者にもっと意識を集中させることが可能になるのです」。

「それにしても」と、私は疑問に思った。システムの導入には、相当な費用がかかるはず。どう工面するのか。山田は明快に答える。
「一度に払うのではなく、5年間のリース契約をしています。支払いは月々、定額のリース料となります。それは、各種コスト削減で、捻出でききます」
例えば、「紙」もコスト削減の一つだ。情報はすべて施設にあるパソコン、スマホなどから閲覧可能となる。そうなると、必然的に印刷する「紙」の量は減る。「紙」がなければ、レンタルしているコピー機やシュレッダー機も不要となる。これでレンタル料金は浮く。そのお金で、システムのリース代の一部が賄われる。

「スマイリング・パーク」は高齢者福祉だけでなく、子育て支援や障がい者福祉などの幅広く事業を手掛けている。怒涛の勢いで、業務を拡大している。
こうしたICTを徹底した介護のノウハウは、日本だけでなく、世界からも脚光を浴びるだろう。今後、世界各国で、日本の後を追うように高齢化が進むのは確実だからだ。その際、介護をどうするのか。それは大きな問題になるだろう。日本発、宮崎発の次世代型の介護が世界標準になる可能性がある。

■2020.12.22  働き盛りの世代、軽症者に続出する「コロナ後遺症」の実態。500人以上を診療した医師が語る「今わかっていること」
退院した患者の約半数に「コロナ後遺症」の症状が見られた――。11月5日、和歌山県から衝撃のデータが公表され、にわかに注目され始めたコロナ後遺症。検査で異常は見つからず、医師から見放されてしまう人々の実態とは?

コロナ後遺症外来を掲げ、これまで500人以上の患者の治療に当たる医師と、後遺症に悩む患者の声を聞いた。

■患者の多くは軽症や無症状の人
「新型コロナウイルスは相当数の人に深刻な後遺症を残す。時間の経過とともに症状が変動し、あらゆる器官に影響を及ぼす可能性がある」

10月30日、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長がこんなショッキングな警告を発した。

患者への調査で明らかになった症状は、倦怠感(けんたいかん)、せき、息切れ、味覚や嗅覚の異常、頭痛、体の痛みなどで、コロナ感染症自体は軽い症状でもこうした後遺症が数ヵ月にわたって続き、心臓、肺、脳、筋骨格、精神の機能に異常を来す恐れもあると指摘している。

日本でも11月5日、和歌山県が「コロナ後遺症」に関する独自の調査結果を公表。新型コロナに感染し、退院後2週間以上が経過した県民216人に調査したところ、回答した163人のうち退院後もなんらかの症状を訴える人が46%に上った。

年代別では30代の77%が最も多く、40代から60代でも半数以上が後遺症を訴え、嗅覚・味覚障害、倦怠感、呼吸困難感、頭痛、脱毛、胸の痛みといった症状が寄せられるなど、国内でもコロナ後遺症の実態が浮かび上がりつつある。

これまでコロナ後遺症とみられる患者500人以上を診療し、今年10月から「コロナ後遺症外来」を掲げるヒラハタクリニック(東京都渋谷区)の平畑光一医師が話す。
「主にツイッターを使ってコロナ後遺症について情報発信をしているからかもしれませんが、当院に来られる患者さんは働き盛りの20代から40代の世代が多く、女性が男性の1.5倍です」

最も多く見られる症状は、やはり倦怠感だという。

「9割以上の方が強い倦怠感を訴えていて、なかには『トイレに行くのがやっと』『食事を食べるのが精いっぱい』といった仕事や生活にまで支障を来す、重い症状の方も少なくありません。それに加えて、微熱、食欲不振、体のあちこちに痛みやしびれが見られる患者さんもいます」

平畑医師が続ける。

「新型コロナで重症化し、肺や心臓にダメージがあるといった重いコロナ後遺症の患者さんは当院には来ません。検査で異常が見つかれば、ちゃんとした治療が受けられるからです。当院の患者さんの多くは軽症や無症状だった人です。
感染後に回復、また陰性になっても、長期にわたってコロナ後遺症のさまざまな症状に悩まされていて、検査を受けても異常は見つかりません。診断がつかず、たいていの医者から『気の持ちよう』『精神的なもの』などと相手にされなかったといいます。

こうしたコロナ後遺症に苦しむ患者さんは、当院では7月、8月頃から急激に増えました。今ではオンライン診療を含め、多いときには一日に60人を診ています。
知見を積み重ねるにつれて、その人たちの半数ほどが『慢性疲労症候群』という病名に当てはまるということがわかってきました。原因はウイルスの感染が大きなウエイトを占めているといわれますが、そのメカニズムはよくわかっていません。

感染が拡大する以前は、先ほどのような症状を訴える患者さんはいなかったことから、新型コロナウイルスに起因するものだと考えられます」


■症状は深刻でも、検査で異常は出ない
神奈川県に住むAさん(48歳女性)は、今年3月に新型コロナの陽性判定が出た。症状は軽く、風邪の延長ぐらいにしか感じなかったという。しかし、回復後......。

「いつ頃から後遺症の症状が出始めたのかはっきり覚えてないのですが、最初は体がほてるような微熱が出て、それが続きました。体がだるく喉が痛くて寝込んでしまうことも何度かあったり、背中からお尻にかけて強い痛みもありました。
検査をしてもどこにも異常は見当たらず、病名はつきませんでした。ずっと倦怠感が抜けないため、もしかしてうつ病ではないかと心配になって心療内科を受診したこともありましたが、問題ないと言われてしまいます。

原因のわからない不調がダラダラと続いていて治療もできず、もんもんとする状態が今も続いています。9月頃からは症状がひどくなり、今では日常生活に差し支えるほど症状が重くなることもあります」

また今年の3月と4月、PCR検査を受けたくても受けられず、その後、コロナ後遺症とみられる症状に見舞われている人はより深刻だ。

当初、PCR検査を受けるには、37.5℃以上の発熱が4日以上続くことが条件だった。そのため感染が疑われる症状が出ても、検査や治療を満足に受けられなかった人が相当数いるといわれている。その人たちはコロナ後遺症の症状に見舞われても、コロナに感染した証明はなく、周囲から理解されないのだ。

都内在住のBさん(40歳女性)は、3月に38.4℃の熱とともにせきや胸の痛みなどが出た。コロナを疑って、あちこちの病院に行くも診療拒否に遭い、保健所でもPCR検査を断られた。
しばらくすると、胸の痛み、手足のしびれ、片目の見えづらさや片頬の麻痺(まひ)、心臓を蹴られたような動悸(どうき)、歩けないぐらいの足と膝の痛み、筋肉の痙攣(けいれん)などが時期を前後して次々と襲ってきた。

「あまりの足の痛さに泣いてしまったことや、近所を散歩しただけで体が鉛のように重くなり、家で寝込んだこともあります。トイレに行くにも15分ぐらいかけて這(は)っていくほどです」

症状は深刻だが、病院で検査をしても異常は出ない。医師にも冷たくあしらわれた。

「今まで30人の医師に診てもらい、脳や脊椎のMRI検査もやりましたが異常は出ませんでした。このまま死んでしまうのではないかと不安になり懸命に症状を訴えても、気のせいだと片づけられてしまう。

精神疾患を疑われて精神科へ行きなさいと言われたこともあります。コロナ後遺症に理解を示す医師はほんのわずかしかいないのが現状です」(Bさん)

愛知県の会社に勤務するCさん(46歳男性)の場合も、4月に嗅覚や味覚の異常を感じてコロナを疑った。そのときにはPCR検査を受けられず、後に受けたが陰性。その後、微熱、重い頭痛、動悸、胸の痛みなどの症状が出て、体重も10s減った。

しかし、病院で検査を受けても異常は見つからない。不安で仕事が手につかず勤務中に泣きだしてしまうなど、ついには会社から長期休養をするよう言い渡された。

「それまで年に一度風邪をひくかどうかの健康体でしたから、症状がひどくなるのが怖くて外出もできません。誰かにうつさないよう家でもマスクは外せず、食事も家族とは別々。完全に引きこもり状態です。いろんな病院に40回ほど通いましたが、治療法は見つかりませんでした」

身内にも、「気のせい」だと言われたという。

「妻からは『PCR検査が陰性だったのにいつまで気にしているのか』と言われ、体のつらさを信じてもらえない。一時は将来を悲観して死のうと思い、近所の公園で首を吊る寸前までいきました。

コロナ後遺症のことが少しずつ報道され、周りの人たちが理解を示してくれるようになったのはつい最近です。症状が出た人以外、この気持ちはわかりません」(Cさん)

■無理をすれば一生残る。早めの対処が必要
BさんとCさんは、前出の平畑医師にたどり着いたことで治療に取り組むことができ、症状は少しずつ改善に向かっているという。

「慢性疲労症候群を根本から取り除く治療法というのはありません。その人に合った漢方薬とビタミン剤のほか、アミノ酸や亜鉛などの市販のサプリを使って治療しています。ただし治療の前提として、運動をしないことが非常に大切です。慢性疲労症候群は神経系のダメージからくるものだと考えられていて、運動をすると神経が刺激されて症状が悪化します。

後遺症の出始めの症状は軽くても、運動をした翌日、翌々日に悪化する人がとても多いんです。ジョギングはもちろん、散歩で悪くなる人もいる。症状が改善しても、半年は動かないことが大事で、無理をすると一生残ることもある実は恐ろしい病気なんです」(前出・平畑医師)

一方、東京女子医科大学で20年にわたり治療に関わり、日本で数少ない慢性疲労症候群の専門医のひとりである青山・まだらめクリニックの班目健夫(まだらめ・たけお)医師は、新型コロナに感染した後、慢性疲労症候群の症状が出てくることは十分考えられると話す。

「この症候群にかかる原因はよくわかっていませんが、ウイルス感染後に症状が出てくることはよくあります。おそらく新型コロナウイルスに感染後、陰性化しても身体機能が低下したためにいろいろな症状が出てくるのでしょう。ダラダラと続いてひどくなるパターンが多いので、早めの対処が必要です」

班目医師は、薬に頼らない治療が大切だと説く。

「大切なのは体を温めることと、筋肉の異常なコリをほぐすことです。そうして副交感神経の働きが高まれば血の巡りが良くなり、内臓機能が回復します。私が治療した慢性疲労症候群の患者の8割は症状が改善し、6割が完治しています。早い人なら3、4ヵ月で治るメドがつきます」

厚生労働省もコロナ後遺症の実態把握のために、回復者2000人を対象とした調査を開始。来年3月まで研究が行なわれるが、結果が出るのはまだ当分先だ。コロナが軽症や無症状だったとしても、働き盛りの世代を中心に多く見られるコロナ後遺症をなめてはいけない。そして何よりの対策は「コロナにかからないこと」だ。

■2020.12.23  手放せない酸素ボンベ 元重症患者が語る“コロナの恐怖”と後遺症
命を救う最後の砦「ECMO」による治療を受け、2か月もの間、意識がなかった男性。退院した今も、酸素ボンベが手放せず後遺症に苦しんでいました。新型コロナの重症化の恐ろしさを経験した男性が、いま伝えたいことは。

手放せない酸素ボンベ 2か月がたった今でも


新型コロナウイルスに感染し、約4か月もの間、集中治療室に入院していた元重症患者の60代の男性。 男性は10月に退院しましたが、退院から2か月がたった今でも背中のバッグの中には酸素ボンベがありました。心拍数を測定する機械も手放せない状態だといいます。

「歩いていてちょっと息苦しいなと思ったら機械で数値を測って、(数値が高ければ)これちょっと止まらないと、と。まだ数値をみながらですね。 先生たちも『早く歩くな』って。動いたら心臓と 酸素が 」

男性は、息をきらしながら話します。
「退院後スーパーに行く時、徒歩5〜6分の距離なのに25分くらいかかりました」

苦痛に「死んだほうが・・・」

男性が体に異変を感じたのは、3月のことでした。その当時のことを、次のように語ります。

「『風邪だな』と思って病院に行って、4日くらい薬を飲んでましたが、 薬がなくなり病院に行こうと思ったら、体が起き上がらなくて。 救急車を呼んで、そのまま寝込んでしまい、それから記憶がありません」

搬送されたのは、重症患者を受け入れる都内の病院。 人工呼吸器を使っても呼吸ができないほど肺が弱っていたため、 命を救う“最後の砦”人工肺ECMOによる治療を受けることになりました。 一般的に2週間ほどでECMOが外れる人が多い中、男性は約2か月という長期間の装着。 その間、意識がありませんでした。そして、目覚めたときには――

「天井が真っ白で、天国にいったのかな、と思ったら横に看護師さんがいて。 『これは病院だ。私は助かったんだ』と」 「パイプがいっぱいついているし、両手両足は縛られ、しゃべれないし動けない。 意思の疎通ができない上に、栄養をとるための鼻のパイプや胸に開けた穴がすごく痛くて。毎日痛い思いをした」

会話ができるようになったのは7月、この頃も男性は、集中治療室に入院していたといいます。
「息をするのがやっと。空気が吸えないっていうのがすごく苦しかった。 ちょっと動いただけで痰がつまり、水も飲めず、会話もできなくて意思の疎通がとれないとストレスもたまり、 こんなに苦しいなら死んだ方がいいって。 」

その後、つらい治療を乗り越え、一般病棟でリハビリを開始。 約半年間という長い入院期間を終えて、ようやく退院することができました。

入院前は飲食店に勤務していた男性。仕事への復帰を望んでいますが、 深刻な後遺症に悩まされています。

「先生からは、酸素ボンベをつけておかないと酸素が少なくて倒れる可能性があると。 普通の人の肺が100%ならまだ70%くらいしか機能していない。だから歩いたりすれば呼吸は結構苦しくなる」

男性は、影響があるのは肺だけではないと語ります。

「手がしびれている。両腕ですね。足の太ももにずっと石を乗せている感じ。 あと足の裏が、歩くと骨と肉が重なってすごく痛い。 体質も変わり、頭と顔にあせをすごくかく。今までそんなことはなかったんですが。 (できないことが)いっぱい、いっぱいありますよ。 どうやって生活していったらいいのかっていう状況。 来年になって治ってくれたらいいなと」

新型コロナの重症化の恐ろしさを経験した男性が、いま、伝えたいこととは。

「マスクとうがいと手洗いを家に帰ったら必ずする。 店に入ってもうがいできる状況ならうがいをする。家に帰ったら服を着替えて除菌する。本当に一人一人が気をつけないといけない。 先生曰く、助かったのは奇跡だからと。 実際に僕みたいに後遺症が残った人じゃないとわからないと思うんですよね。 それを僕は皆さんにわかってもらいたいというか。 コロナってこんなに恐ろしいんだなって」

■2020.12.23  「コロナを甘く見ないほうがいい」元重症患者が語る壮絶闘病 感染3か月後も"リハビリ生活"
新型コロナウイルスに感染し一時、人工肺装置エクモを使用するなど、生死の境をさまよった男性が取材に応じました。3か月近くたった今も入院しリハビリを行う男性が経験した新型コロナの真実とは?

北海道札幌市豊平区のKKR札幌医療センターです。新型コロナウイルスに感染した患者を受け入れています。
札幌に住む60代の男性です。約3か月前に新型コロナウイルスに感染。1週間ほど前に陰性が確認されました。

医師の許可を得て話を聞くことができました。

入院患者(60代):「救急車に乗っているときは苦しくなかった。そこまでは記憶があるが、目が覚めたらECMO(エクモ・人工肺装置)の治療を受けていた」
生死の境をさまよった男性が語る衝撃の闘病生活。それは決して他人事ではありません。

新型コロナ感染症の恐怖とは?
救急搬送後、目覚めたらECMOで治療を

札幌・豊平区のKKR札幌医療センター。新型コロナウイルスに感染した60代の男性が入院しています。
1週間ほど前に陰性が確認され、医師の許可を得て話を聞くことができました。

入院患者(60代):「救急車に乗っている時は苦しくなくて、だるさがあった。そこまでは記憶があるが、目が覚めたらECMO(エクモ・人工肺装置)の治療を受けていた。3カ月間入院。2〜3週間で退院と思っていたが、こんなに長くなって…」

男性が新型コロナウイルスに感染したのは、約3か月前のことでした。
病状が急激に悪化し、札幌医大附属病院に入院。
自力で呼吸をすることができず、重症患者への最後の切り札、ECMO(エクモ・人工肺装置)を使って治療を受けました。

2か月に渡って寝たきりの状態が続いたといいます。
入院患者(60代):「声が出なくてびっくりした。何で声が出ないんだろうと思って。気管に挿管しているから、なかなか寝られなかった。寝られない」

Qいろいろ心配事が?

入院患者(60代):「そういうのもあるが、寝返りも打てないし、手を縛られたりして。入院後、テレビで感染者数じゃなく、死亡者数を見るようになった。現実的にそうなってもおかしくなかった」

つらい闘病生活を支えたのは、会うことのできない家族が折った千羽鶴でした。
必死の治療のかいがあって、回復の兆しが見えたのは入院から1か月以上後のことでした。

入院患者(60代):「声が出たことで光が差した。目に見えて前進しているんだとわかってきた」
その後、徐々に回復し中等症や軽症の患者を受け入れるKKR札幌医療センターに転院しました。
現在、陰性が確認されていますが、リハビリのため入院が続いています。

入院患者(60代):「きょうから食事の練習がある。3か月ぶりに口からものを入れる。病院には感謝している」

「新型コロナを甘く見ない方が良い」
懸命の治療によって死の淵から生還した男性。

しかし、医療態勢が今ひっ迫しています。
こちらの病院には、新型コロナウイルス患者20人あまりが入院しています。
医師や看護師など40人ほどで治療にあたっていますが、人手は足りません。
KKR札幌医療センター 磯部 宏 病院長:「患者に高齢者が多くなり、いつ重症化するかわからない緊張感がある。介護度の高い人が入院しているので人手不足になる」

出口の見えない状況に現場からは悲鳴も。
KKR札幌医療センター 磯部 宏 病院長:「患者の中でススキノ行ってきたとか、遠くに旅行して感染したという人がいると、(スタッフは)悔しい気持ちになる」

年末年始は医療態勢が脆弱になります。医療崩壊を防ぐにはまさに今が重要です。

KKR札幌医療センター 磯部 宏 病院長:「(年末年始)全ての患者を受け入れられるか心配している。今がラストチャンスと思う。(油断しなければ)年末年始に医療崩壊や病院の機能が損なわれず、乗り切れると思うし、そう期待している」

3か月にわたり新型コロナと闘った60代の男性。自身の感染経路はわかっていません。こう警鐘を鳴らします。

入院患者(60代):「私も当初は警戒してマスクやアルコール消毒、指先とかもやっていたが感染した。新型コロナを甘く見ない方がいい」

■2020.12.23  軽症だった女性が苦しみ続ける“コロナ後遺症”「説明できない味…」退院からは4か月
新型コロナウイルスに感染した人のうち『約半数に後遺症がある』ということが、和歌山県の調査でわかりました。「味覚と嗅覚が戻らない」と訴える大阪の女性を取材しました。

■「味覚と嗅覚」半分も感覚戻らず■
大阪府内に住む30代の女性Aさん。8月に新型コロナウイルスへの感染が判明、軽症と診断されました。入院は約1週間でしたが、当初から味覚と嗅覚が完全に失われ、退院から4か月が経った今も、半分も感覚が戻っていないといいます。

(8月に感染した30代の女性Aさん)
「お米の甘味とかは、そんなないですね。」

この日の食事は肉やエビフライでしたが…。

(Aさん)
「(肉は)全部本来と違う味がして、その味は全て同じ。何と言ったらいいのか、本当に説明できない味ですね。まずいです。リンゴは“甘い”っていうことしかわからないですね。リンゴの味っていうのがしないですね。」
味噌汁の濃さや薄さはだいたい感じ取れますが、味噌や具材の味は分からないことが多いといいます。さらに“におい”についても…。

(Aさん)
「コーヒーはおいしそうなにおいではないですね。なんか独特なにおい。すごく苦味が強そうなにおいみたいな…。」
食欲がないわけではないものの、味覚と嗅覚がないからか食は進まず、この日も半分以上を残しました。

(Aさん)
「(耳鼻科で)『もしかすると前の味覚が戻らないかもしれない』というふうに言われたときは、不安が大きくなってしまって…。こうやって長引いて治らないんだったら、それは果たして軽症なのか。」

■半数近くが「何らかの後遺症」■
和歌山県が退院から2週間以上が経過した163人を対象に調査したところ、半数近くの46%が「何らかの後遺症がある」と回答。症状は嗅覚障害が最も多く30人、倦怠感が26人、味覚障害が20人、呼吸困難感が20人でした。また、記憶障害を訴える人もいました。

(和歌山県福祉保健部 野尻孝子技監)
「コロナというのは侮れないなというふうに思いました。若い人が軽症で経過するけれど、後遺症の問題があるので、予防は大事ですよというメッセージを発したかった。」

■後遺症のある患者の現状に警鐘■
 “コロナ後遺症”の相談を1日50件ほど受けている「ヒラハタクリニック」(東京・渋谷区)の院長は、後遺症のある患者が精神的に追い詰められているといいます。

(ヒラハタクリニック 平畑光一院長)
「職場に行っても『PCR検査で陰性になったから働けるだろ』と言われてしまうことがある。本人としては、『こんなにつらいのにどうしたらいいんだ』となってしまって、非常に孤独感を抱く。今の状況は非常に危険だと思います。」

■2020.12.24  感染対策「東京が一番やっていない」 時短強化を渋る都 専門家がいらだつ理由とは
「東京が一番やっていない」。感染症の専門家らが、新型コロナウイルスの感染者数が突出する東京都で対策が進まないことにいら立っている。感染原因の多くは会食とみて飲食店のさらなる営業時間短縮を求めるが、都は慎重だ。感染力が強いとされる海外の変異ウイルスが流入すれば、都心部を中心に流行する懸念もあり、専門家は危機感を募らせる。

「大阪は午後9時。(大阪よりも)感染レベルが高いところは午後10時よりも早く、というのが当然じゃないか」。23日に開かれた政府の有識者会議「新型コロナウイルス感染症対策分科会」の会合後の記者会見。尾身茂会長は東京都が実施する飲食店の営業時間短縮について、現行の午後10時よりも前倒しするよう求めた。

分科会が作った感染状況の分類で、都は4段階で上から2番目の「感染急増段階」にある。都は11月に酒を出す飲食店に対して午後10時までの営業時間短縮を要請し、来年1月11日まで続ける方針だ。

だが、これまでの結果は芳しくない。今月17日に都内の1日あたりの新規感染者数は最高の821人を記録し、今も増加傾向が続いている。分科会は、こうした地域では営業時間を午後8時まで短縮するよう提言しているが、都は応じてこなかった。

■2020.12.26  若い世代でも倦怠感・記憶障害のコロナ後遺症
茨城県入院調整本部の安田貢・県医療統括監(水戸医療センター救命救急センター長)は25日、記者会見を開き、新型コロナウイルスに感染した若い世代でも倦怠(けんたい)感や記憶障害などの後遺症に悩まされる事例があると明らかにした。気の緩みに警鐘を鳴らし、「自分自身のために感染対策を」と呼びかけた。

安田氏によると、日本人を主な調査対象とした10月の論文では、患者の19%は発症時の嗅覚障害が60日後にも続いていた。呼吸困難は18%、倦怠感は16%。感染した後、しばらくして脱毛の症状が出た患者も24%に上った。

安田氏は、年末年始や成人式で人の移動が増えた場合、感染者が増える可能性があると指摘。「大人数で大声で長時間集まるのは避けてもらいたい」と注意喚起した。

■2020.12.26  東京、最多の949人感染 増加歯止めかからず、新型コロナ
東京都は26日、新型コロナウイルスの感染者が新たに949人報告されたと明らかにした。900人台は初めて。3日連続で800人以上となった。これまでの最多は24日の888人だった。直近7日間の平均は1日当たり711.4人となり、感染拡大に歯止めがかからない。

都によると、入院中の重症患者は前日と同じ81人だった。新規感染者の年代別では20代の277人が最多。重症者化しやすい65歳以上は113人だった。累計は5万5851人。
都は医療提供体制に関する警戒度の指標を4段階で最も高い「逼迫している」に引き上げ、不要不急の外出自粛などを求めている。

 

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