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 2020. 5. 9 老人ホームなどの入所系の高齢者施設で、4月末までに少なくとも550人余りが新型コロナウイルスに感染


■2020.5.9  老人ホームなどの入所系の高齢者施設で、4月末までに少なくとも550人余りが新型コロナウイルスに感染
老人ホームなどの入所系の高齢者施設で、4月末までに少なくとも550人余りが新型コロナウイルスに感染し、このうち10%にあたる60人が死亡したことが全国の自治体への取材でわかった。欧米では死者の多くを高齢者施設の入所者などが占めていて、専門家は「日本でも感染者や死者がさらに増えていくおそれがある」と指摘している。

高齢者施設関連 国内死者の15%

新型コロナウイルスの感染が先に深刻化した欧米では、死亡した人の多くを高齢者施設の入所者などが占める事態となっていて、NHKは全国の自治体に4月末時点での高齢者施設での感染状況を取材した。

その結果、特別養護老人ホームや老人保健施設、それに有料老人ホームやグループホームなど入所系の高齢者施設では、少なくとも利用者380人余り、職員およそ170人の合わせて550人余りが感染し、このうち10%にあたる利用者60人が死亡していたことがわかった。

このほか、デイサービスなどの通所系施設やショートステイなどの短期入所系施設でも利用者と職員合わせておよそ190人が感染し、このうち利用者6人が死亡していたほか、訪問介護事業所でも利用者と職員だけで合わせて30人余りが感染していた。

さらに愛知県では、デイサービスに関連して2つのクラスターが発生し、利用者と職員、それに利用者の家族や接触者などを含めて合わせて90人余りの感染が確認され、このうち20人が死亡している。
これらをすべて合わせた高齢者施設関連の死者は少なくとも86人で、国内で感染が確認され死亡した人のおよそ15%を占める。

各地の高齢者施設では5月に入ってからも利用者や職員の間で感染が広がり続けている。

▽札幌市の介護老人保健施設
集団感染が発生。新たに利用者と職員合わせて30人の感染が明らかに。

▽京都市内2つの有料老人ホーム
利用者と職員、合わせて12人の感染が確認。

▽千葉県市川市の介護老人保健施設
集団感染が発生。新たに利用者と職員合わせて3人の感染が明らかに。
(いずれも7日までの1週間)

感染者が出たことを受けて休業を余儀なくされている施設も出ています。
福島県古殿町の介護施設では、5月3日にデイサービスを利用している90代の女性の感染が確認されたため、14日まで休業する措置をとり、消毒作業を行った。

新型コロナウイルスの感染者が出た高齢者施設の消毒作業を手がけている団体が、認知症の高齢者が入居するグループホームで行った消毒作業の動画を公開し、入居者の一部が部屋にとどまったまま作業をせざるをえない高齢者施設特有の難しさを証言した。

消毒作業を手がける全国の24の企業で作る団体「コロナウィルス消毒センター」は、依頼者の許可を得て、4月13日に北海道千歳市にある認知症のある高齢者が入居するグループホームで行った消毒作業の動画をインターネットの動画投稿サイトで公開した。
3階建ての建物の中にあるこのグループホームは、1階の入居者と職員の合わせて10人が感染し、このうち入居者1人が死亡した。

センターによると、感染していない入居者は避難できる場所がないため部屋にとどまっていた。
このため、まず感染者が出た1階の消毒作業を行い、次に2階の入居者を消毒が済んだ1階に移して2階の消毒を行うといった形で、各階ごと順番に作業を進めなければならなかったという。

消毒作業は、次亜塩素系薬剤、アルコール製剤、それに抗菌剤をそれぞれ噴霧するなどして拭く三段階の方式で行い、共有スペースや入居者の個室のほか、布団などを含め部屋に置かれているすべての物を念入りに消毒した。

コロナウィルス消毒センター事務局の春日富士さんは「グループホームの運営会社の代表は、消毒を依頼する電話をかけてきた際、開口一番『助けてください』と話し、非常に切迫した様子だった。高齢者施設の場合、感染していない入居者はその場所に残るという選択肢しかなく、入居者も職員も不安を感じている。特に職員は非常に疲弊している印象を受けた」と話していた。

集団感染が発生した高齢者施設の中には、感染者が全員入院し再発防止策が取られて事態が収束に向かったと見られていたのに、再び感染者が出たケースもある。

東京 大田区の特別養護老人ホーム「たまがわ」では、4月1日に職員の感染が明らかになり、入所者79人と職員52人がPCR検査を受けた。
その結果、職員は全員陰性だったが、入所者12人の感染が確認された。
しかし、入院先はすぐに確保できず、数十キロ離れた武蔵野市や立川市などまで範囲を広げて病院を探し、ようやく1週間後に感染した入所者全員が入院できた。
それまでの間は、感染した入所者を一部の部屋に集め、医療機関で使うような防護服がない中で、簡易的な予防衣を着てゴーグルと手袋をつけて食事や排泄の介助などを続けた。

感染者が出たため、作業を委託していた清掃や給食、それに警備の会社が従業員を派遣できなくなり、施設内の清掃なども職員がやらざるを得ない状況になったという。
施設を運営する社会福祉法人池上長寿園の杉坂克彦常務理事は、「感染した入所者が入院するまで1週間もかかるとは思わなかった。感染に気をつけながら1日中入所者の介助をして、職員は精神的にも肉体的にも、かなり疲弊していた」と話した。

保健所からは、調査の結果、現段階で感染経路はわかっていないと連絡があったという。その後、施設内の消毒を行うとともに、食堂でとっていた食事を居室でとるように変更するなど、感染防止策を徹底したが、感染した入所者が全員入院してから1週間余りたち事態が収束すると思われた4月18日、新たに職員1人の感染が確認された。
さらに12日後の先月30日、今度は入所者1人の感染が確認された。

この入所者の濃厚接触者と判断された入所者3人は、症状が出ていないとしていまだにPCR検査を受けられず、施設内で隔離する対応を続けているという。

杉坂常務理事は、「通常の体制に戻そうかと考えていた矢先に、職員と入所者の感染が新たに判明し、まだ続くのかと感じた。感染防止策をさらに徹底していくが、これ以上施設内で感染を広げないためにも、防護服の確保やPCR検査の拡充を進めてもらいたい」と話していた。

国内の高齢者施設での感染状況について、高齢者の介護や施設に詳しい東洋大学の早坂聡久准教授は「現段階でも大変高い死亡率になっていると受け止めているが、欧米では死者に占める高齢者施設の入所者の割合が高いことを考えると、日本でも感染者や死者がさらに増えていくおそれがある」と指摘した。

そのうえで今後の対策について「今は医療崩壊を招かないよう病院については大変多くの対策がとられているが、介護施設はどうしても二の次になっていて、感染が広がっている中でも具体的な支援策が十分講じられていないのが現状だ。国や自治体は最低限、マスクや消毒液、防護服の確保など、感染を拡大させないための手当てをしたうえで、職員や入所者が早い段階でPCR検査を受けられるようにするとともに、施設内で集団感染が発生しても介護の質が落ちないよう職員のバックアップ体制を作る方策を早急に考えていく必要がある」と述べた。

そして「介護崩壊を起こさないよう、長期的に新型コロナウイルスがある生活の中で介護サービスを維持していく仕組みを検討していくべきだ」と話した。

人口10万人当たりの新型コロナウイルスの感染者が全国で3番目に多い富山県。
富山市の老人保健施設で発生したクラスターが、220人近くいる感染者の4分の1以上を占めている。
この施設では入所者だけでなく施設の職員の感染も相次ぎ、“介護崩壊”直前の状況になっていた。

富山市の老人保健施設「富山リハビリテーションホーム」では、4月17日に入所者の感染が初めて確認されて以降感染が広がり、これまでに入所者と職員合わせて58人が感染、このうち入所者8人が死亡している。
施設には県から、診療や感染拡大の防止にあたる医療チームが派遣されていて、このうちの1人、富山大学附属病院の山城清二教授がNHKの電話インタビューに応じた。

山城教授は4月23日と24日に施設内を視察したあと、25日から診療にあたり、入所者の健康状態を確認したうえで重症者を搬送するなどの対応をとったという。

施設で勤務している介護士や看護師にも感染が広がったため、5人程度の職員で40人余りの入所者のケアに当たっていたということで、山城教授は「非常に少ない人数で対応していてケアが行き届いていなかった。“介護崩壊”直前のぎりぎりのところでやっていて、あと1人職員が感染すれば完全に崩壊していた」と指摘した。

施設には介助が必要だったり認知機能が衰えていたりする入所者も多くいるが、深刻な人手不足のため、最低限の食事や水分をとらせるだけで、着替えをしたり体を拭いたりすることはほとんどできていなかった。

“介護崩壊”を防ぐため、富山市などが富山県内の老人介護施設でつくる協議会に対して介護士の派遣を要請した結果、今月2日以降介護士と看護師合わせて6人が応援に入り、体を拭くなどのケアをカバーできるようになって、状況は徐々に改善されているという。

一方、この施設では、入所者の間で発熱などの症状が相次いだ後も適切な対応を取らなかったことや、多くの入所者が相部屋を利用するなど感染が広がりやすい構造がクラスターを引き起こしたとみられることが市の関係者への取材で分かった。

市の関係者によると、この施設では入所者の間で発熱などの症状が相次いだあとも感染を疑わず、保健所に相談してPCR検査を受けさせるなどの適切な対応を取っていなかった。

施設で最初に感染が確認された80代の女性のケースでは、4月7日に熱が出て、10日にはしゃがれ声、13日にはせきやたんといった症状も出ていたが、症状が悪化して救急搬送された指定医療機関でPCR検査を行ったのは、発熱の9日後の16日だった。

女性と同室だった90代以上の入所者は、4月9日に熱が出て、14日にはせきやたん、しゃがれ声の症状も出ていましたが、指定医療機関に搬送されて検査を受けたのは16日だった。
この女性は翌日に死亡し、その後、感染が確認された。
さらにこの施設では、入所者の多くが相部屋で、部屋や風呂を共同で利用するなど、感染が広がりやすい構造になっていることがクラスターを引き起こしたとみられることも分かった。

感染症が専門の厚生連高岡病院の狩野惠彦医師は、高齢者が入所する施設の中で感染が広がるリスクについて「人と人との距離が近く接触度の高い生活をしているので、一度ウイルスが持ち込まれるとクラスターが発生しやすくなる。感染が収束に向かうような流れがあっても、最後の最後まで気が抜けない環境であることに変わりはない」と指摘する。

そして、施設内で感染者や疑わしい人が出た場合は、個室に移動させて隔離し対応する介護職員を限定することや、入所者や職員が食事する際、換気のいいところでなるべく離れて食べるといった対応を速やかにとることが大切だとする。

一方で、人手や施設の構造など施設ごとの事情があるとしたうえで「個室が難しければ、カーテンで仕切ってそこから出ないようするなど、感染リスクを下げるために与えられた環境で可能な対応を考えていく必要がある」と話している。

そのうえで、今後高齢者が入所する施設の中でクラスターを防ぐために必要なこととして「クラスターの発生には1つのことが理由になっていることもあれば、いくつかの事情が重なっていることもある。海外や国内で起きた事例から学んで、対策の見直しを行うことが求められる」と話す。

 

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