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 2019. 8.21 台風で入所者9人死亡、遺族と高齢者施設が和解 岩手
 2019. 8.21 介護職員への賞与定期支給は7割、支給額57.6万円   離職率は改善傾向、介護労働安定センター調査
 2019. 8.21 EPAの看護師候補者、不合格でも介護職で滞在可能 厚労省検討
 2019. 8.22 「保育士はPC使えなくていい」「資料はFAXで送って」―業界の風潮に違和感 保育園が「Box」導入しペーパーレス化
 2019. 8.23 自宅の古民家拠点に福祉美容室開業へ 南相馬移住の和田川さん
 2019. 8.23 台風で入所者9人死亡、遺族と高齢者施設が和解 岩手
 2019. 8.26 企業型保育所 安心して利用できない
 2019. 8.26 老人ホーム倒産過去最多 入居時のお金戻らず 被害防ぐ手立ては?
 2019. 8.28 九州北部大雨 87万人に一時避難指示 2人死亡、病院孤立も
 2019. 8.28 順天堂病院 冠水し孤立 患者・職員ら201人 水道止まり支援要請
 2019. 8.29 患者ら孤立の順天堂病院、ボートで看護師ら運ぶ
 2019. 8.29 <佐賀豪雨>「命助かってよかった」順天堂病院周辺で救助作業
 2019. 8.29 <佐賀豪雨>大町の順天堂病院、孤立続く 武雄市で新たに1人死亡、県内犠牲者2人に


■2019.8.21  台風で入所者9人死亡、遺族と高齢者施設が和解 岩手
2016年夏の台風10号の豪雨災害で、入所者9人全員が犠牲になった岩手県岩泉町の高齢者施設に対し、入所者6人の遺族17人が計1億1145万円の損害賠償を求めた訴訟は20日、盛岡地裁(中村恭裁判長)で和解が成立した。施設側が責任を認め、損害賠償金(金額は非公表)を遺族に支払う内容だという。

訴えられていたのは、高齢者グループホーム「楽ん楽ん(らんらん)」を運営していた社団医療法人「緑川会」。遺族側・施設側の双方によると、施設側が入所者を避難させる義務を怠り死亡させたことを認め、遺族に対して今年8月末までに損害賠償金を支払うなどの内容で和解したという。母親の八重樫チヤさん(当時95)を失った信之さん(75)は「納得できる結果がでた」と話した。

台風10号は16年8月30日、観測史上初めて東北地方に直接上陸した後、北海道に向かい、岩手県や北海道などに大きな被害をもたらした。暴風雨の影響で岩泉町の小本川が氾濫(はんらん)し、「楽ん楽ん」が濁流に襲われた。遺族の一部が「適切に避難させなかった」として、施設側を相手取り提訴していた。

■2019.8.21  介護職員への賞与定期支給は7割、支給額57.6万円   離職率は改善傾向、介護労働安定センター調査
介護労働安定センターが実施した介護労働実態調査によると、2018年度の介護職員(正規職員、月給制)に対する賞与支給額は平均57万6014円で、17年度と比べて7560円増えた。訪問介護員では40万3円だった。正規職員に対して賞与を「定期的に支給している」と回答した介護事業所は69.6%で、経営状況に応じて支払わない場合がある事業所などを含むと91.2%に達した。離職率は15.4%で過去5年間に1.2ポイント改善した。

同調査では、全国の9102事業所から回答を得た。労働者を訪問介護事業所で働き、生活援助や身体介護を行う「訪問介護員」と、それ以外の「介護職員」に分類してアンケートを実施した。

それによると、所定内賃金は訪問介護員(正規職員、月給制)で21万1732円(17年度比7097円増)、介護職員が21万7465円(同2614円増)だった。非正規職員で時間給の職員を比較すると訪問介護員は1293円で、介護職員の989円を上回った。

賞与の支給状況については、正規職員に対して「定期的に賞与を支給している」と回答した事業所が69.6%、「制度はあるが、経営状況に応じて支払わない場合がある」が12.2%、「制度はないが、経営状況に応じて支給している」が9.4%、「賞与制度もなく支給していない」は7.0%、無回答が1.8%だった。非正規職員では、「定期的に賞与を支給している」事業所が40.4%で、「賞与制度もなく支給していない」は24.3%だった。

訪問介護員と介護職員の1年間(17年10月ー18年9月)の離職率は15.4%(前回調査比0.8ポイント減)で、近年減少傾向にある=グラフ=。また、在籍者数に対する採用者数の割合(採用率)も減少傾向にあり、介護労働安定センターは「人材の定着が図られてきている」としている。1年間に採用した職員の人数や質の評価(選択式)では、「人数・質ともに確保できている」と回答した事業所が14.8%、「人数は確保できているが、質には満足していない」が25.0%、「質には満足だが、人数は確保できていない」が23.5%、「人数・質ともに確保できていない」が31.7%だった。

早期離職防止や定着促進を図るための方策(選択式、複数回答)については、「本人の希望に応じた勤務体制にする等の労働条件の改善に取り組んでいる」(69.9%)、「残業を少なくする、有給休暇を取りやすくする等の労働条件の改善に取り組んでいる」(56.5%)、「職場内の仕事上のコミュニケーションの円滑化を図っている(定期的なミーティング、意見交換会、チームケア等)」(55.3%)、「非正規職員から正規職員への転換の機会を設けている」(51.6%)と回答した事業所が過半数あった。

■2019.8.21  EPAの看護師候補者、不合格でも介護職で滞在可能 厚労省検討
EPA(経済連携協定)の枠組みで看護師を目指して来日した外国人について、厚生労働省は、国家試験に合格できなくても介護職員として日本で働いていけるようにすることを検討している。

今年4月に創設された新たな在留資格「特定技能」への移行を認めることを、省内の関係部局、法務省などと協議している。担当者は「まだ調整中の段階。確定ではない」と話した。

EPAの看護師候補者は現在、最長で4年以内に国試に合格できないと帰国を余儀なくされる。昨年度までに来日したのは、インドネシア、フィリピン、ベトナムの3ヵ国で1300人。合格者は413人にとどまっている。

厚労省は既に、国試に合格できなかったEPAの介護福祉士候補者が「特定技能」に移ることを今年5月に認めた。直近の国試で合格基準点の5割以上を取ることなどが条件。深刻な人手不足の解消につなげる狙いで、看護師候補者についても同様の対応がとれないか検討している。政府は向こう5年で、およそ6万人の外国人を介護の「特定技能」で受け入れる計画。

■2019.8.22  「保育士はPC使えなくていい」「資料はFAXで送って」―業界の風潮に違和感 保育園が「Box」導入しペーパーレス化
「紙ベースの作業が異常に多い」――そんな保育士の労働環境を変えようと、業務改善に取り組んでいる保育園がある。千葉県内で10カ所の認可保育園を運営するハイフライヤーズ(千葉市)は、各園の書類管理のためにクラウドストレージ「Box」を導入。社員に社用のiPhoneも貸し出し、電子化した書類をチェックしやすくしている。対象は、7月時点では一部の職員とマネジャークラスに限定しているが、今後は全職員に広げる計画だ。

このほどBox Japanが開いたイベント「Box World Tour Tokyo 2019」で、ハイフライヤーズの石崎順帆さん(施設開発部長)が「前例に捉われない保育園を作りたい」と思いを語った。


「異常な量の紙ベースの作業」 保育業界の悩み

2019年7月現在、同社が10カ所の保育園で抱える園児数は合計約450人。これとは別に、週に2〜3日だけ預かる「一時預かり保育」の利用者数は、年間延べ8000人(19年度)を見込んでいる。石崎さんは「15年に1カ所目の認可保育園を設立して以来、かなりのスピード感で事業を拡大してきた」と話す。従業員数は直近5年間で、5人(15年)から100人(19年)と20倍になった。

そうした中、課題になっていたのが、異常な量の紙ベースの作業だった。保育業界では、「メールだと容量が多くて気付きにくいので、(資料などを)FAXで送った方が効率的」「保育士は子どもと接する仕事がメインだから、PCを使えなくてもいい」といった考えを持つ人も少なからずおり、紙ベースでの作業がかなり多いという。

そうした風潮を変えるため、同社は17年ごろにペーパーレス化を決意。保護者に子どもの様子を知らせる「おたより手帳」を電子化し、スマートフォンアプリを通じて提供する取り組みを始めた。

当初は「手書きでないと保護者に温かみが伝わらない。保育士のやりがいでもある」などの反対意見も出ていたが、利便性の高さもあって徐々に浸透。「ピーマンを全部食べられた」「きょうはこんな遊びをした」などの園児の様子を写真付きで報告できるため、保護者からは好評を得ているという。


社用のiPhoneを配布、リアルタイムで情報共有

まず保護者とのやりとりをペーパーレス化し、社内の意識を改革したところで、同社が次に着手したのが園内の情報共有の仕組みづくりだった。従来、同社が運営する10カ所の保育園では、それぞれの園長が園児が登園・降園した時間などを紙に記録し、1カ所の保育園に集めて報告をしていた。10カ所の保育園から保育士が集まる会議では、書記が紙のノートに議事録を取り、会議後に共有していた。

しかし、紙ベースの資料を共有するために、保育園を移動するのは職員の負担になっていたという。資料には、園児の名前や顔写真、緊急連絡先などの情報も含まれるため、流出した際のリスクも高かった。議事録を手作業で記録するのは、内容をリアルタイムに把握できない他、書記に負荷がかかる課題があった。

こうした課題を改善するため、同社はBoxと社用のiPhoneを導入し、園児の様子をまとめた書類をクラウド上で共有・閲覧できるようにした。会議を効率化するために、オンラインで複数のメンバーがリアルタイムで文書を編集できる機能「Box Notes」を活用。10カ所から集まった保育士が、会議中に議事録を確認・編集できるようにし、効率を高めた。

石崎さんは「紙で全てを管理していたときとは比べようもないほど改善した。各園の園長が、1カ所の保育園に資料を持っていく作業などが不要になった」と話す。

「当社は若い職員が多く、20代の園長もいる。10カ所も保育園があれば、それぞれでいろんな出来事が起きるので、(教育の)ノウハウを(全ての保育園で)共有できれば、職員の成長につながる」と、社員教育の面でも手応えを得ているという。


園児のけがなどもBoxで共有へ

今後は、iPhoneの配布対象を全職員に拡大し、Boxのアプリを使って「子どもがけがをした」「保護者からこんなクレームがあった」などの情報をリアルタイムで共有できる仕組みづくりも目指す。

石崎さんは「デスクワークをしている会社員とは違って、保育士は園児の世話をしているときはPCを扱えない」と業界特有の課題を指摘。「全員がiPhoneを首から提げ、エプロンにしまっておけば、子どもにもぶつからない」とし、導入後は保育士が効率よくBoxアプリを使用できると説いた。

将来は「施設数を10カ所から30カ所に拡大し、1000人の園児を預かりたい」と石崎さんは意気込む。「現段階でも(1人の職員が1日では)回り切れないほどの施設数になっている。ここから30カ所へと広げるには、クラウドサービスを使った情報共有がより必要になる。既存のイメージに捉われることなく、新しい保育園を作っていきたい」

■2019.8.23  自宅の古民家拠点に福祉美容室開業へ 南相馬移住の和田川さん
今年4月、神奈川県葉山町から南相馬市原町区に移住した、福祉美容師和田川久美子さん(54)は9月30日まで、自宅の古民家を改修し、車いすで利用できる美容室の開業を目指して、あぶくま信用金庫の提携先のクラウドファンディング企業「READYFOR」を活用したインターネットによる資金募集を行っている。

和田川さんは会津若松市出身で管理美容師、介護福祉士、1級訪問美容師の資格を持つ。神奈川県内でNPO理美容福祉協会を設立し、病院や老人施設などで訪問美容を専門とした福祉美容師として活動していた。

東日本大震災と原発事故後の古里福島の姿に心を痛めた和田川さん。「福島の今を共に生きたい。福祉美容の知識を福島で役立てたい」と南相馬市原町区の住民が避難し空き家となった古民家を買い取り、4月に長女(25)と共に移住した。

今回の募集では、入り口に車いす用のスロープを設けるバリアフリーなどの改修費用の一部100万円が目標。「仁坂の森の福祉美容室」として来年3月のオープンを目指す。

和田川さんは「美容室に行きたいけれど、行けない。そんな人たちの力になりたい」と話し、来店できない人のための出張施術も計画している。詳細は「レディーフォー 南相馬 福祉美容室」で検索してほしいとしている。

■2019.8.23  台風で入所者9人死亡、遺族と高齢者施設が和解 岩手
2016年夏の台風10号の豪雨災害で、入所者9人全員が犠牲になった岩手県岩泉町の高齢者施設に対し、入所者6人の遺族17人が計1億1145万円の損害賠償を求めた訴訟は20日、盛岡地裁(中村恭裁判長)で和解が成立した。施設側が責任を認め、損害賠償金(金額は非公表)を遺族に支払う内容だという。

訴えられていたのは、高齢者グループホーム「楽ん楽ん(らんらん)」を運営していた社団医療法人「緑川会」。遺族側・施設側の双方によると、施設側が入所者を避難させる義務を怠り死亡させたことを認め、遺族に対して今年8月末までに損害賠償金を支払うなどの内容で和解したという。母親の八重樫チヤさん(当時95)を失った信之さん(75)は「納得できる結果がでた」と話した。

台風10号は16年8月30日、観測史上初めて東北地方に直接上陸した後、北海道に向かい、岩手県や北海道などに大きな被害をもたらした。暴風雨の影響で岩泉町の小本川が氾濫(はんらん)し、「楽ん楽ん」が濁流に襲われた。遺族の一部が「適切に避難させなかった」として、施設側を相手取り提訴していた。



2016年8月の台風10号による豪雨災害で岩手県岩泉町の高齢者施設で犠牲となった入所者の遺族が施設の運営法人に損害賠償を求めた裁判で20日和解が成立した。

訴えを起こしていたのは、岩泉町の高齢者グループホーム「楽ん楽ん」に入所していて犠牲となった9人のうち6人の遺族17人。
訴えによると2016年の8月30日、台風10号による豪雨で小本川が氾濫し避難準備情報が出されたあとも施設は避難をさせず、建物の天井付近まで浸水し入所者9人全員が死亡した。

遺族は当時施設を運営していた「緑川会」を相手取り約1億1150万円の損害賠償を求めていたが、盛岡地裁で和解が成立した。内容は施設側が過失を認めた上で「謝罪すると共に今後利用者の安全確保を第一とした施設運営に努めること。また原告に対し今月末までに損害賠償金を支払うこと」などで和解した。運営法人は訴えを起こしていない犠牲者3人の遺族に対しても今回の和解金に準じた賠償金を支払う予定。

■2019.8.26  企業型保育所 安心して利用できない
企業主導型保育所に問題が多発している。待機児童対策の「切り札」といわれたが、施設数拡大を急ぐあまり、保育の「質」が置き去りになっている。とても安心して子どもたちを預けられない。

待機児童の解消をはじめ子育て支援の充実は安倍晋三政権の重要な政策だが、どうも対応のちぐはぐさが目立つ。

十月から始まる幼児教育・保育の無償化も首相が打ち出した。当初、認可外施設は対象外としたため批判が出た。いまだに一部施設は対象になっていない。
迅速な問題解決にはさまざまな対策があっていいが、首相の意向を重視するあまりの拙速な制度整備だとしたら改めるべきだ。

企業型保育事業は二〇一六年度から始まった。企業が主に従業員向けに整備したり、保育事業者が企業向けに設置する施設だ。地域の子どもたちも一定割合で利用できる。
運営基準は一定の保育の質を確保した認可施設より緩い認可外施設になるが、政府は認可施設並みの手厚い助成金で整備の促進を図っている。

今年三月現在で約三千八百施設、定員約八万六千人分の助成が決定、二〇年度末までに計十一万人分の整備を目標としている。
この急激な拡大路線がさまざまな問題を生んでいる。
自治体が施設整備に関与できないため地域のニーズに合わないケースがあり、定員割れする施設が出ている。経営難に陥り開設から短期間での閉鎖や事業から撤退する動きも出始めた。

助成金を巡る不正も相次いでいる。約五億円をだまし取ったとして、開設手続きなどを請け負っていたコンサルタント会社社長らが詐欺罪で起訴された。
開設の審査は政府の責任だが、実際は公益財団法人が担っている。だが、人材不足で審査が追いつかないようだ。運営能力に疑問符が付くような事業者にも助成金が交付されていた可能性がある。審査が甘いと言わざるを得ない。

不適切な事業者の参入を許さぬよう早急な審査体制の見直しが必要だ。
事業を所管する内閣府は審査を担う実施機関を新たに公募する。事業の実施状況のチェック体制も強化する。本来なら事業開始当初から考えるべき対応だった。
保育所は子どもたちが日中の大半を過ごす場所だ。混乱のしわ寄せは利用する子どもたちに来ることを忘れてほしくない。

■2019.8.26  老人ホーム倒産過去最多 入居時のお金戻らず 被害防ぐ手立ては?
大金を預けて入った老人ホームが突然、閉鎖されたとしたら……。お金は戻らず行く当てもなく、途方に暮れるばかり。こんなことが実際起きている。老人福祉・介護事業の倒産件数は2019年上半期で過去最多。ずさんな経営や人手不足もあって行き詰まる施設がたくさんある。いま老人ホームが危ない。

老人福祉・介護業界の関係者を驚かせた大型倒産が今年あった。関東地方の37カ所で老人ホームを運営していた「未来設計」(東京)が1月、東京地裁に民事再生法の適用を申請したのだ。負債総額は約54億円で、民間調査会社の東京商工リサーチによると、有料老人ホーム経営会社としては過去2番目の規模となる。負債のなかには利用者が入居時に支払った「預かり金」も含まれており、その対象は約1500人、約34億円に上った。

未来設計は、福岡市の社会福祉法人のグループ会社創生事業団の傘下で再生を目指している。関係者によると、前オーナーのもとで実態は大幅赤字だったのに粉飾決算が行われていた。前オーナーへの年間2億円を超すような高額報酬や、前オーナー関連会社への不適切な支払いなどもあったという。創生事業団は前オーナーらを詐欺容疑で刑事告訴するとともに、損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

老人ホームの運営会社が粉飾決算をし、実態が伝わらないまま倒産したとなれば入居者は浮かばれない。今回の倒産では、創生事業団が経営を引き継いだこともあって、入居者が追い出されることはなかった。創生事業団側の弁護士事務所の担当者によると、「退去する人も一部にいたが、多くの入居者が以前と同じ条件で残っていただいている」という。

しかし、預かり金の大部分が戻ってこない可能性がある。入居時に支払った額は1人当たり単純平均で200万円強になる。

「公益社団法人・全国有料老人ホーム協会」が、いざという時に500万円まで肩代わりする入居者生活保証制度もあるが、今回の倒産事例では適用になる可能性は低い。創生事業団が経営を引き継ぎ入居を続ける人が多いため、「施設の全入居者が退去せざるを得なくなり、入居契約が解除された場合」という条件に該当しないためだと、協会は説明する。預かり金が消える入居者にとっては、そう言われても釈然としないだろう。

経営難で老人ホームを退去せざるを得なくなったケースもある。福岡県行橋市の社会福祉法人「友愛会」は6月、福岡地裁行橋支部に自己破産を申し立て、手続きが開始された。負債総額は約6億8千万円。昨秋には職員への給与が滞納状態となり、昨年11月末にはパートを含む26人の職員のうち8人が辞めた。水道料金も払えない状況で、運営が厳しくなっていた。28人いた入居者全員は、別の複数の施設に移ったり、家族に引き取られたりした。

経営破綻したのは、市内のほかの施設との競争が激しく、入居者が定員割れしていたことが大きい。友愛会では介護支援専門員の勤務実態の偽装なども行われていた。運営を監視してきたはずの行橋市役所は、経営悪化を早い段階で察知し食い止めることができなかった。市は昨年末に介護保険法や社会福祉法に基づき改善命令を出したが、友愛会は改善の報告をしないまま自己破産を選んだ。

財務状況の実態はいまもわからない部分があり、市の担当者は、「預かり金を払った入居者以外にもいろいろな債権者がいる」と話す。預かり金の大半が回収できない可能性がある。

東京商工リサーチによると、これら2件を含めて、今年1〜6月の上半期に倒産した老人福祉・介護事業は55件。前年同期に比べ10件増え、上半期としては過去最多となった。倒産件数は増加傾向だ。

「小規模事業者の人手不足が深刻さを増し、経営環境が一層厳しくなっている」(東京商工リサーチ情報部の後藤賢治さん)

業種別では訪問介護事業が32件、有料老人ホームが5件となっている。有料老人ホームは件数そのものは訪問介護事業より少ないが、経営規模が大きいところが目立ち、影響を受ける入居者は多い。

老人福祉・介護事業は、高齢化で市場が拡大し、大手から中小まで多数の業者が参入している。入居者の獲得競争は激しく、施設の職員の人手不足も深刻だ。

全国ホームヘルパー協議会が昨秋、事業者に対して実施したアンケートでは、人手不足に悩む実態が浮き彫りになった。課題をたずねたところ(三つまで回答可)、「募集をしても応募がない」(88.0%)、「給与が低い」(30.5%)、「効果的な募集方法がわからない」(24.0%)といった回答が並ぶ。

「早朝や夜間の人材が不足している」ことや、「高齢化が深刻で数年後が不安」と若い職員の不足を訴える事業者もいる。「人材の確保・育成・定着のための資金がない」といった声もあった。

 資金力のある一部の大手は人材を確保できても、多くの事業者は人手不足を解消しにくい。介護業界の関係者はこう指摘する。

「介護現場ではサービスの質が求められています。人材育成を含めて一定の投資が必要。大手ならローテーションを組んで職員を研修に参加させることもできますが、小規模な事業所ほど人のやり繰りは難しくなります。資金力のない事業者は経営環境がますます厳しくなります」

さて、私たち入居者にできることは何か。老人ホームの淘汰はますます進んでいく。監視するはずの行政も頼りにならない。大金を払って終(つい)のすみかを決めるときには、納得できるまで業者側に説明を求める。いったん入居しても、サービスが低下するなど問題があれば、すぐに家族や専門家に相談する。

有料老人ホームの選び方について、東京都福祉保健局はこうアドバイスする。

家族や友人らが訪ねやすいか、近くに商店街などが整っているか、立地に注意する。入居率やスタッフの平均勤務年数なども確認し、複数のホームで比較。赤字が膨らんでいないかどうかなど、経営状況も自らチェックしよう。不利な情報でもきちんと情報を開示するところが望ましい。

いまは老人ホームがいつ閉鎖されてもおかしくない時代。最後まで自分のことは自分で守るという姿勢が求められている。(本誌・浅井秀樹)

■2019.8.28  九州北部大雨 87万人に一時避難指示 2人死亡、病院孤立も
九州北部は28日、前線の影響で発達した雨雲が次々に流れ込み、記録的な大雨となった。気象庁は28日午前5時50分、佐賀、福岡、長崎3県に最も警戒が必要な「警戒レベル5」に相当する大雨特別警報を発表した。車が水に流されるなどして佐賀、福岡両県で2人が死亡、1人が意識不明の重体。避難指示は一時約87万人に上った。佐賀県の順天堂病院で患者ら201人が孤立状態となっている。特別警報は午後2時55分に解除されたが、九州北部は29日にかけて再び雨が強まり、大雨となる見込み。気象庁は引き続き厳重な警戒を呼びかけている。

佐賀県武雄市武雄町では28日午前5時15分ごろ、武雄川近くの市道で車が水に流されたと110番があった。軽乗用車は近くの水田で見つかり、車内から50代の男性が救助されたが、搬送先で死亡が確認された。市道は当時冠水していた。


福岡県八女市立花町山崎では28日午前8時10分ごろ、「男性が車に閉じ込められ水路に流されている」と119番があった。県警などによると、男性(84)は車外に出たが途中で溺れた。近くで心肺停止の状態で見つかり、その後死亡が確認された。

佐賀市水ケ江でも28日午前9時25分ごろ、「水路に車が落ちた」と通報があった。佐賀県警によると、運転席から70代の女性が心肺停止の状態で救出された。その後呼吸は戻ったが意識不明の重体という。武雄市では住民の50代女性と連絡が取れなくなっており、県警などが捜索している。

佐賀市中心部や武雄市、同県大町町などでは広範囲に浸水が広がった。「身動きが取れない」などの119番が相次ぎ、ボートやヘリなどによる救出が実施された。武雄市役所は28日の窓口業務を停止。佐賀県の山口祥義知事は28日、陸上自衛隊に災害派遣要請した。県内の伊万里市を流れる松浦川と、小城市や多久市を流れる牛津川では一時氾濫が確認された。

佐賀県によると、大町町の順天堂病院は周囲が冠水し、午後8時時点で患者ら201人が孤立状態となっている。町内の鉄工所から流出した大量の油が到達して院内に入り始めており、患者らは2階に避難している。

交通網も乱れた。JR九州は博多と長崎、大分を結ぶ特急の一部を運休。29日も特急や普通列車の一部を始発から運休する。高速道路も長崎道や九州道などの一部が通行止めに。長崎道では武雄ジャンクション―武雄北方インターチェンジ間で路面が隆起し通行止めとなり、復旧のめどは立っていない。

28日午後5時現在の毎日新聞のまとめでは、佐賀、福岡、長崎の3県で計約36万7500世帯約87万5800人に避難指示が出された。

28日未明から朝にかけ、佐賀市などでは1時間に100ミリ以上の雨が繰り返し観測され、記録的短時間大雨情報の発表が相次いだ。26日午前0時の降り始めから28日午後10時までの雨量は長崎県平戸市527ミリ▽佐賀市458ミリ▽福岡県久留米市399ミリ――など。平戸市と佐賀市、久留米市では平年の8月の1カ月分の2倍を超えた。

気象庁によると、西日本から東日本に延びる前線に向かって非常に湿った空気が流れ込み、28日未明から積乱雲が次々と発生する「線状降水帯」となって大雨を降らせた。29日にかけて線状降水帯が再び発生し非常に激しい雨が同じ地域で数時間続く恐れがあり、再び大雨特別警報を発表する可能性があるという。30日午前0時までの24時間の予想雨量は多いところで、佐賀、福岡、長崎、山口県150ミリ、大分県120ミリ、熊本県100ミリ。

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■2019.8.28  順天堂病院 冠水し孤立 患者・職員ら201人 水道止まり支援要請
九州北部を襲った記録的な大雨で、佐賀県大町町の順天堂病院が28日午後2時半ごろに冠水し、患者や職員ら201人が孤立状態となっている。病院には人工呼吸器を付けた重症患者も多く、別の病院などへの避難は難しいことから、県は自衛隊などと連携して支援策を検討している。

県医務課によると、病院の職員は通常の半数しか出勤しておらず、病院からは「看護師や応援スタッフを自衛隊のボートで送れないか」と県に要請があったという。電気とガスに問題はないが、水道が止まっている。上水はタンクに1・5日分残っているという。

敷地内には2階建ての老人保健施設と3階建ての病院があり、28日朝までに1階にいた入院患者は2階に移った。大雨の影響で約1キロ離れた「佐賀鉄工所」のタンクが冠水し、最大で約8万リットルの油が近くの六角川などに流出したが、病院1階にも油が混じったような水が浸水しているとの情報が県に寄せられている。

■2019.8.29  患者ら孤立の順天堂病院、ボートで看護師ら運ぶ
停滞した前線の影響で、九州北部では29日も激しい雨が降り続いた。30日にかけて、断続的に激しい雨が続くと予想され、気象庁は土砂災害や河川の氾濫への警戒を呼びかけている。
同庁によると、26日の降り始めから29日午前10時までの総雨量は長崎県平戸市で625・5ミリ、佐賀県唐津市で531・5ミリなどとなっている。

佐賀県警によると、29日午前4時半頃、佐賀県武雄市北方町の2階建て住宅の1階居間で、一人暮らしの女性(96)が意識不明で見つかり、その後死亡が確認された。28日の大雨でこの住宅は床上浸水しており、死因は水死。大雨による死者は佐賀県2人、福岡県1人となった。佐賀県では1人が重体、1人が行方不明になっている。

大規模な冠水被害が出た佐賀県大町おおまち町では、一部で浸水が続いている。入院患者ら200人余りがとどまる順天堂病院(3階建て、115床)と関連施設には、町などがボートで看護師らを運んだ。同病院に避難していた住民も救助された。

同病院の西約1キロにある佐賀鉄工所からは大量の油が流れ出ており、町や派遣要請を受けた海上自衛隊などが回収作業を続けている。県などによると、流出した油は鉄製ボルトの冷却用で、流出量は約5万リットルとみられる。

読売新聞のまとめでは、29日午前10時現在、福岡、佐賀、長崎県で、計約27万3000世帯の約63万7000人に避難指示が発令され、佐賀、福岡両県などで、約2400人が避難所に身を寄せている。床上・床下浸水は両県を中心に約400棟に上る。

JR九州などによると、佐賀、長崎、山口県内の在来線は一部区間で運転を見合わせ、博多―佐世保間の特急も始発から運休。長崎自動車道や山陽自動車道などの一部では通行止めとなっている。

気象庁は、対馬海峡にある前線が今後南下し、30日夕方にかけて非常に激しい雨が降ると予想。30日正午までの24時間に熊本県で150ミリ、福岡、佐賀、長崎、大分各県では100ミリの雨が降る恐れがある。

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■2019.8.29  <佐賀豪雨>「命助かってよかった」順天堂病院周辺で救助作業
一帯が冠水した順天堂病院(佐賀県杵島郡大町町)周辺では、29日朝から住民の救出作業が行われた。近くの佐賀鉄工所大町工場から流出した真っ黒な油が混じった泥水の中、海上自衛隊佐世保警備隊の隊員がボートで救出。住民は恐怖の一夜からようやく解放され、ほっとした表情を浮かべていた。

「命が助かってよかった」。8歳の男の子と一緒に救出された母親(41)。前夜は2階に身を寄せて一夜を過ごした。濁った水が徐々に水位を上げて迫ってきて「まるで別世界のよう。本当に恐ろしかった」。流出した油が混ざってにおいが鼻をつき、頭が痛くなったという。男児は「トイレにも行けずに我慢するしかなかった」と振り返った。

下潟地区の福田廣子さん(84)は着の身着のままでボートに乗り、隊員に抱え上げられながら陸地にたどり着いた。「腰の高さまで水が来た。助かりました。本当にありがたい」と手を合わせて涙した。

大町町では、JR大町駅南側の下潟地区などで深刻な浸水被害が広がっており、油のにおいが立ちこめる中、警察などが住民の救助に当たった。

県が佐賀鉄工所に問い合わせたところ、工場内には油の入った槽が八つあり、一つに最大1万2千リットル入るが、流出前は約9万リットルが保管されており、そのうち約5万リットルの油が流出したとみられるという。油は家屋などにも付着しており、住民からは避難の長期化や稲作への被害を心配する声が上がっている。

今回の大雨による住家などの被害は、佐賀県によると小城市で全壊が1棟、杵島郡大町町で床上浸水が38棟。床下浸水は124棟で、大町町で114棟、伊万里市で9棟、神埼市で1棟。冠水範囲が広い武雄市は現在も全体の状況が把握できておらず、被害はさらに膨らむ見通し。



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■2019.8.29  <佐賀豪雨>大町の順天堂病院、孤立続く 武雄市で新たに1人死亡、県内犠牲者2人に
佐賀県など九州北部を襲った記録的な大雨から一夜明けた29日、杵島郡大町町では広範囲にわたる冠水が解消されず、同町の順天堂病院と併設する老人保健施設では孤立した状況が続いた。水が引いた武雄市では浸水した住宅の1階から女性の遺体が見つかり、一連の大雨による県内の犠牲者は2人となった。

県によると、順天堂病院と施設には28日夜、入院・入所者179人と医師や看護師など31人、自主的に避難した近隣住民5人の計215人が取り残されていたという。29日には看護師などの交代や増員を行ったほか、午後には自衛隊がボートで飲料水や食料を病院内に運び入れた。現在のところ体調不良を訴える人は出ていないという。また、国交省などがポンプ車で排水作業を実施しており、県によると、30日中の孤立解消を目指すとしている。

県警などは、武雄市北方町志久の住宅で29日午前4時35分ごろ、浸水した1階部分から高齢女性の遺体が見つかったと発表した。遺体はこの家に住む96歳の女性で、検視の結果、死因は溺死と判明。28日に武雄市で西松浦郡有田町内の50代男性が死亡しており、県内の死者は2人となった。このほか、28日から行方不明となっている武雄市内の50代女性については、同市の武雄川で女性の車が発見されたが、ガラスが割れており、車内に女性の姿はなかったという。

佐賀県の山口祥義知事は29日、被害状況などを確認するために武雄市や大町町などを視察。山口知事は「避難所ではこれから(自宅へ)戻る時の心配やその後についての不安の意見が聞かれた。県として寄り添って対応しないといけない」と話した。

県によると、29日午後8時半現在で避難指示が出ているのは、武雄市と大町町で2万2051世帯5万5909人。避難勧告は4市4町で3万8089世帯10万1890人に出されている。同日午後8時半現在の避難所は14市町87カ所で開設され、274世帯493人が避難している。

また、県がまとめた家屋などの被害状況は、小城市で全壊が1棟あり、県内の床上浸水は69棟、床下浸水は171棟。多久市や武雄市では多数の家屋が床上、床下浸水となっており、多くの市町で状況把握が困難な状況が続いている。

列車の運休や運転見合わせが続く中、JR九州は30日、筑肥線の山本駅―伊万里駅間でバスによる代行輸送を実施すると発表した。唐津駅から伊万里駅までを結び、上り9本、下り8本を運行する。

 

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