残しておきたい福祉ニュース 1996〜社会福祉のニュース

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残しておきたい福祉ニュース

 2015年 
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 * * *

 2015. 6. 2 日本財団:「パラリンピックサポートセンター」設立を発表
 2015. 6. 6 介護給付費、過去最高の8.5兆円に 13年度
 2015. 6.13 介護費軽減、通帳のコピー必要に 施設の高齢者対象
 2015. 6.13 使用済み切手、仕分けます 鎌倉清和園が寄付呼びかけ
 2015. 6.13 知的障害者ら、ほとばしる独特の感性 山本寛斎さん「天性の力だ」 北青山で28日まで /東京
 2015. 6.14 裂織デニムで勝負 盛岡の施設が商品化続々  南部裂織   株式会社 幸呼来Japan
 2015. 6.16 障害者の民間雇用43万人 11年連続で最多更新
 2015. 6.17 パラリンピアンの呼びかけで生まれたプロジェクト「スポーツ・オブ・ハート」10月に開催
 2015. 6.19 障害者施設が思い込めた太宰人形焼
 2015. 6.20 東京圏の介護危機と高齢者移住
 2015. 6.20 高齢者の地方移住、自治体間連携で杉並区が先行
 2015. 6.21 障害者白書 雇用率達成企業半分に満たず
 2015. 6.21 赤ちゃんポスト:8カ国から若者13人見学 慈恵病院訪問 /熊本
 2015. 6.23 再利用折り紙:折り鶴の思いをつなぐ 障害者ら発案、発売へ /広島
 2015. 6.24 野菜直売所:取れたてを地域の人に 障害者事業所「わかば」開設 大淀で来月1日から /奈良
 2015. 6.24 介護人材の不足、2025年に37.7万人へ拡大も 厚労省最新推計
 2015. 6.25 介護保険料滞納2年以上が1万人 274億円で過去最高
 2015. 6.26 認知症の行方不明者、2年連続1万人超- 警察庁、所在未確認は168人
 2015. 6.26 老後は外国人介護士のお世話に? 慢性的な人手不足で施設が活用に力
 2015. 6.27 認知障害ある人の運転、高齢男性ドライバーの6割に
 2015. 6.27 廃校を福祉拠点に 旧向田小校庭に特養ホーム 那須烏山
 2015. 6.28 看護師885人不足…昨年  山形県
 2015. 6.28 「うちの子を殺す気か」看護師全員が一斉辞職に追い込まれた理由 特別支援学校「先進県」のはずが…
 2015. 6.28 県障害者施設開所1年遅れ 落札業者異例の辞退
 2015. 6.29 【累犯障害者】 長崎モデルの明暗(1)「もう一生出えへんのか」 弁護士に迫った精神年齢「4歳7カ月」の男 隔離で「再犯」防げるのか
 2015. 6.29 【累犯障害者】 長崎モデルの明暗(2)大声上げ、かみつく男性を馬乗り制圧、肋骨折る…「しつけ」と称した虐待23件に下った行政処分
 2015. 6.29 【累犯障害者】 長崎モデルの明暗(3)「障害者は天使みたいにかわいい」タブー視された「犯罪」 58人の父親≠フ矜恃
 2015. 6.29 【累犯障害者】 長崎モデルの明暗(4) 「社会に出るのが怖い」前科28犯をすくい上げる切れ目ない支援…罪でなく人を見る
 2015. 6.29 【累犯障害者】 長崎モデルの明暗(5) 「刑務所に入れて更生にどう役に立つ」 刑罰か福祉かを超えて…問われるのは社会の「情」


■2015.6.2  日本財団:「パラリンピックサポートセンター」設立を発表
 ◇「20年東京」に向けて競技団体支援を目的
競艇の収益金で活動する日本財団の笹川陽平会長は2日、東京都内で記者会見し、「パラリンピックサポートセンター」の設立を発表した。2020年東京パラリンピックに向けた競技団体への支援が目的で、21年末まで100億円の予算規模で事業を展開する。

目玉の事業は競技団体の組織基盤の強化。夏冬のパラリンピック競技の統括団体を対象に11月ごろから、東京都港区赤坂1の日本財団ビル(8階建て)の1フロア約1300平方メートルを事務所用地として無償提供する。経理や事務処理など専門知識を持ったスタッフの雇用など人的サポートも無償で行う。

その他、選手の練習環境の整備やパラリンピックの普及・啓発、ボランティア育成など七つの事業を掲げる。同センターの会長に就任した日本パラリンピック委員会(JPC)の山脇康委員長は「これらの活動がパラリンピックの成功につながり、20年東京大会を史上最高の大会にできると確信している」と述べた。

■2015.6.6  介護給付費、過去最高の8.5兆円に 13年度
厚生労働省は5日、2013年度の介護給付費が8兆5121億円と前年度より4.7%増えて過去最高を更新したと発表した。介護・支援が必要と認定された人が同4%増の584万人と過去最高になったためだ。高齢化の進行で、給付費は今後も増え続ける見通しだ。

介護保険制度は原則、65歳以上で市町村から要介護認定を受けた人が費用の1割を負担して利用する。厚労省がまとめた13年度の介護保険事業状況報告によると、制度が始まった2000年度と比べ給付費は2.6倍に増えた。税の負担と保険料、自己負担を合わせた費用総額は9兆1734億円と前年度比で4.8%増えた。

65歳以上の高齢者に占める介護・支援が必要な人の割合は17.8%と前年度より0.2ポイント上昇し最高を更新した。65歳以上の高齢者のうち、48%は75歳以上。介護が必要な年齢層が増えてサービスの利用が伸びている。

65歳以上に占める認定者の割合を都道府県別に見ると、長崎県(22.2%)、和歌山県(21.9%)、島根県(20.7%)が高かった。一方で、埼玉県(13.9%)や千葉県(14.4%)、茨城県(14.6%)と平均を大幅に下回った。「都道府県ごとの年齢別の人口構成の違いや、介護予防の取り組みなどが影響しているとみられる」(厚労省)

■2015.6.13  介護費軽減、通帳のコピー必要に 施設の高齢者対象
特別養護老人ホームなどの介護保険施設を利用している高齢者に、全国の自治体が預貯金通帳のコピーの提出を求める通知を出し始めた。施設での食費や居住費の負担軽減を受けている人らが対象。昨年6月の介護保険法の改正に伴い、所得だけでなく、資産が一定以下であることも軽減の要件になったためだ。自治体には、本人やケアマネジャーらから「なぜ必要なのか」「本人が認知症で、家族も近くにいない。どうしたらいいのか」といった問い合わせが相次いでいる。

厚生労働省によると、軽減の認定を受けている人は全国で約110万人(2013年度末時点)という。コピーを提出しなければ、8月から軽減は受けられなくなる。ケースによって違うが、おおむね月に数千円〜数万円程度の負担増になるとみられる。

コピーが求められるのは、施設に入っている人や、自宅暮らしでショートステイを利用している人たち。厚労省の指示に基づくもので、これまでは、世帯全員が市町村民税非課税なら受けられた軽減が、省令改正により、単身なら1千万円、夫婦の場合は計2千万円を超える資産がある人は軽減されなくなった。財政難に伴って、所得だけでなく、資産にも着目するようになった。

軽減を受けるには申請が必要で、1年ごとに更新する。軽減されている高齢者らの元には毎年、自治体から「更新申請」のための通知が届く。今年から、引き続き軽減を受けるには、申請の際に資産を証明できるものを提出するよう求められている。資産には、預貯金のほか、有価証券や投資信託、タンス預金なども含まれる。借金は差し引かれる。

さらに、申告している資産内容が正しいか確認するため、自治体が金融機関に預貯金や有価証券などの残高を照会しても構わないという「同意書」も併せて提出するよう求めている。

各自治体によると、ばらつきはあるが、早ければすでに5月ごろから、遅くとも7月には通知を送るという。6月がピークとみられる。

すでに施設利用者に通知した自治体には、問い合わせが多数寄せられている。申請があっても書類不備が続出し、送り返す事態も起きている。

厚労省によると、やむを得ないと認められれば、手続きが遅れてもさかのぼって軽減される。ただ、どのようなケースが「やむを得ない」ことにあたるかは、自治体の判断だという。介護保険計画課は「各市町村には丁寧なご説明やご対応を引き続きしていただきたい」とコメントしている。

■2015.6.13  使用済み切手、仕分けます 鎌倉清和園が寄付呼びかけ
知的障害者支援施設「鎌倉清和園」(鎌倉市関谷)が、使用済み切手の提供を呼び掛けている。集まった切手を入所者たちが種類別に仕分けして収集業者に売却し、施設運営に充ててきた。だが電話や電子メールが通信の主流になり、寄付が減りつつある。

清和園の入所者は50人。40、50代が多い。手芸班や受注班、園芸班、リサイクル班に分かれている。

作業は平日午前10時から始まる。古いストッキングを編み込んだ万能たわし作りや、割り箸の不良品のより分け。それぞれが熱心に取り組んでいる。

使用済みの切手は国内の普通切手、記念切手、外国の切手の3種類に大別。さらに、裏面に封筒などの台紙が付いているものといないものに分ける。職員の再チェックを経て、約10キロで梱包し、収集業者に売却する。1回当たりの売り上げは数千円。施設の納涼祭や体育祭など行事の充実に使われる。

使用済み切手は主にライオンズクラブや市民、社会福祉協議会から、1カ月に段ボール1箱分ほどが寄せられている。だが担当職員の田尻英秋さん(44)は「寄付は年々少なくなっている」と寂しそうに話す。電話や電子メールの普及に押され、手紙やはがきを手にする機会が減ったためだ。企業などからの郵便物に貼られた切手も、料金後納の印に取って代わられている。

使用済み切手の業者への納品は現在、3カ月に1回程度。一度仕分けた切手を再び一まとめに戻して、入所者に作業を繰り返してもらうこともあるという。

田尻さんは、「珍しい切手でなくても構わない。同時に、施設入所者たちの活動について知ってもらえる機会になれば」と、切手の提供を呼び掛けている。

■2015.6.13  知的障害者ら、ほとばしる独特の感性 山本寛斎さん「天性の力だ」 北青山で28日まで /東京
デザイナーの山本寛斎さんも芸術性を高く評価する、知的障害者らの作品展「引きあう力」が、港区北青山2の伊藤忠青山アートスクエアで開かれている。アフリカを連想させる原色のオブジェ、幾何学模様のような文字を和紙に書き連ねた「文字絵」、藍染めの衣装、陶器など、独特の感性がほとばしる作品が展示されている。


制作したのは青梅市の社会福祉法人「友愛学園」の利用者たち。学園は約30年前からアート活動に取り組んできた。どの作品にも共通するのは発想と表現の自由さだ。

専門的芸術教育を受けていない人々のこうした作品は「アールブリュット」と呼ばれ、注目を集めている。学園には美大出身スタッフらがいるが、「教育する」のではなく、「才能を引き出す」ように指導しているという。

昨年6月に初めて学園を訪れ、作品を見た寛斎さんは「天性の力だ」と感動。作品をデザインした服を、同10月にトルコで開かれたファッションショーに登場させた。「引きあう力」の会場には、この時に使われたワンピース、ドレスなども展示されている。

同展は28日までの午前11時〜午後7時。入場無料。問い合わせは同スクエア

■2015.6.14  裂織デニムで勝負 盛岡の施設が商品化続々  南部裂織   株式会社 幸呼来Japan
盛岡市の障害者就労支援施設「幸呼来(さっこら)Japan」が、デニム生地を細く割いて織り込む「裂織(さきおり)」商品を販売している。同社によると、加工が難しいデニムの裂織商品は全国初。江戸時代に始まり東北北部で根付いた「南部裂織」は首都圏のアパレル業界が注目し、コラボ商品が続々と生まれている。石頭悦社長(49)は「東北の伝統を全国に発信したい」と意気込む。

デニム生地は大手ジーンズ会社エドウイン(東京)の縫製工場で、裁断で捨てられていた余り部分を無償で譲り受ける。約1センチ幅に細長くちぎった生地を横糸にし、縦糸と合わせ手機で織り込む。堅固で使い込むほど味わいのある風合いを醸し出す。

幸呼来社が2013年に東京であった展示会に出品した裂織デニムの試作品と、「盛岡さんさ踊り」の古浴衣を使った商品がエドウイン社の目に留まった。担当者は「現代に通用する確かな伝統技術に可能性を感じた」と評価する。

幸呼来社はデニムで携帯ケースやコースターを製作。裂織はエドウイン社が秋に発売するスタジアムジャンパーやラグマットにも使われる。

裂織は江戸時代に古着の再利用法として全国で広まった。東北では青森や岩手の農村部を中心に発展。高度成長時代に入ると手掛ける人が少なくなったが、近年は伝統工芸として価値が再評価されている。

アパレル会社とのタッグは青森でも始まった。エドウイン子会社のLeeは、十和田市の南部裂織保存会が作る裂織布をあしらったバッグを製作。6月末に全国直営店で発売する。保存会の小林輝子事務局長は「誇りを持って守ってきた伝統が認められた」と喜ぶ。

石頭さんは「全工程が手作業の裂織はコストが課題。伝統技術の継承とともに、誰もが納得する完成度やデザインを磨きたい」と抱負を語る。

■2015.6.16  障害者の民間雇用43万人 11年連続で最多更新
政府は16日、2015年版「障害者白書」を閣議決定した。民間企業の障害者の雇用者数は14年6月時点で43万1225人で、11年連続で過去最多を更新した。従業員に占める障害者の割合も1.82%で過去最高だったが、法律が義務付ける2.0%の法定雇用率を達成した企業は全体の44.7%にとどまった。

また、難病患者への医療費助成などを定めた難病医療法の対象となる疾患について、今夏までに現状の3倍の約300疾患に拡大する方針を改めて明記した。

難病医療法に基づき1月、第1次分として110疾患を助成対象とした。医療費の自己負担を3割から2割に引き下げ患者を支援する。対象疾患数を約300に拡大すると、筋ジストロフィーや色素性乾皮症なども対象となる予定だ。

20年の東京五輪・パラリンピック開催を契機に、障害の有無にかかわらず安心して暮らせる共生社会の実現を目指す重要性も強調した。

■2015.6.17  パラリンピアンの呼びかけで生まれたプロジェクト「スポーツ・オブ・ハート」10月に開催
パラリンピアンの呼びかけにより生まれたプロジェクト「スポーツ・オブ・ハート2015」が10月17日〜10月18日に開催される。東京都内で6月17日、記者会見がおこなわれた。

●スポーツ・オブ・ハートとは?
スポーツ・オブ・ハートはパラリンピアンの呼びかけにより、未来の日本のために健常者と障がい者の枠を超え、スポーツ選手、アーティスト、文化人たちが協力し合い"すべての人たちが幸せに暮らせるニッポン"を目指すプロジェクトとして発足した。2012年に第1回のイベントを開催している。

「第3回開催となる2015年は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、世の中全体がスポーツへの興味・関心が高まっている年。本イベント開催により健常者と障がい者の枠を超えた幸せな社会の実現に向けて、より多くの人々への共感・意識換気を図っていきたい」と担当者は話した。

スポーツ・オブ・ハート2015
・日時:10月17日(土)、18日(日)
・場所:国立代々木競技場 第一・第二体育館とその周辺
・共催:独立行政法人日本スポーツ振興センター

スポーツ・オブ・ハートのテーマ
・障がい者スポーツ・アートの支援を行うこと
・障がい者スポーツ・アートの認知を高め、応援の輪を広げること
・障がいのある人もない人も同じというノーマライゼーションの考えを育てること

■2015.6.19  障害者施設が思い込めた太宰人形焼
19日は太宰治をしのぶ桜桃忌。太宰が住んだ東京都三鷹市の障害者施設「わたしたちのいえ かごめかごめ」が、頬づえをつくポーズの「太宰人形焼」をつくり、市役所の売店に置かれている。

「施設の看板になる商品を作りたい」と2年がかりで準備した。デザインの基になったのは太宰の有名な写真。市が太宰の顕彰事業で作成した図案「太宰ロゴ」も用い、「作家だから」と箱を本の形にした。

商品は6個入り750円。職員が菓子作り、施設利用者が箱の組み立てなどを担当。「太宰作品のように愛され続け、施設を支えて」。人形焼には、あんと一緒にそんな思いも詰まっている。

■2015.6.20  東京圏の介護危機と高齢者移住
民間の研究機関「日本創成会議」は6月4日、東京など1都3県の介護への需要が今後10年で45%増え、施設や介護士などの不足が深刻になるとの試算を発表した。一方、すでに高齢化が進んでいる地方は介護需要の伸びが相対的に低く、介護の余力がある地域もあることから「東京圏の高齢者の移住」を対策の柱として提言した。

日本では第2次世界大戦後にベビーラッシュが起こり、1947年から49年までに最高で年間269万人の子どもが生まれた。これが、いわゆる「団塊の世代」となるが、2025年には全員が75歳を超える。75歳を超えると病弱になりやすくなるため、入院をしたり、介護が必要になったりする割合が増える。もちろん、75歳以上の人は全国で増えていくが、1都3県は現在の397万人から2025年には572万人と大幅に増えるため、介護施設の不足がとりわけ深刻化する。

創成会議では「東京圏では10年後には入院患者が20%増え、介護施設の入所者も45%増加する」と見込んでいる。東京圏は特別養護老人ホームの待機者が多く、2014年の調査によると、東京都では4万3000人、神奈川県では2万9000人だが、これがさらに増えると言うことになる。また、病院のベッドに入る高齢者も増えるため、病院の入院機能がマヒし、救急車が患者をどこにも運べないという事態も起きかねない。創成会議では、ロボットの活用などで介護人材への依存度を下げたり、効率的に医療介護サービスを受けられるような体制を作ったりといった提案をしているが、最も強調しているのが東京圏の高齢者が地方に移住するための環境整備だ。

病弱になった人がそのまま、遠く離れた市町村の介護施設に入るというケースも想定されるが、今回の提言が地方移住の受け皿として想定しているのが「日本版CCRC」だ。「CCRC」とは「Continuing Care Retirement Community」の略で、継続してケアを受けることができる退職者のコミュニティーの事だ。アメリカでは、高齢者が健康な段階から介護・医療が必要となる時期までも過ごす共同体があり、これを「CCRC」と呼ぶ。

政府は人口減対策として、大都市圏からの移住の促進を掲げているが、この中に高齢者を対象にした「日本版CCRC構想」がある。高齢者向け住宅に住むことを有力な選択肢としていて、高齢者向け住宅に住むことを有力な選択肢としている。具体的には、元気なうちから高齢者向け住宅に住み、地域の社会活動にも参加するというようなイメージで、介護が必要になったら訪問介護や往診などを受けたり、施設に入ったりする。

日本創成会議は今回、41地域を介護が必要な高齢者を受け入れる「余力のある地域」として公表したが、まだピンと来ていないという自治体がほとんどではないだろうか。「余力がある」と言われても、施設に入所待ちの高齢者を抱えている自治体も多く、介護人材が不足している状況は東京圏とさほど変わらない。おすすめ地域とされた秋田市は、特別養護老人ホームの待機者が1135人に上る上、介護人材も不足している。今後10年で75歳以上の人口も増えるので、市の担当者も困惑している。

介護が必要な高齢者が大勢移住した場合、自治体にとって問題になるのが介護や医療の費用だ。実は病院や介護施設、ある種の高齢者向け住宅に入った場合、移住前の自治体が介護や医療の費用を賄うという制度がある。しかし、移住者の全てをカバーできるわけではないので、高齢者を多く引き受けた自治体は、将来、医療や介護の費用が膨らみ、保険料が上がったり、財政負担が増えたりする可能性もある。

もちろん、「消費税の地方分が増える」「将来、地域で高齢者が減った場合でも介護などの雇用が維持される」と言ったメリットもある。内閣府によると、日本版CCRC構想には、全国の自治体の1割にあたる約200の市町村が推進の意向を示している。ただ、「東京圏は将来、介護が大変だから地方に行って」という言い方になると、順番が逆なような気がする。「介護が大変だから将来、介護の心配を感じる人は地方に移住できるように選択肢を用意しますよ」というのが正しい筋道だろう。

ただし、高齢者の移住には人口減を防ぐという意味もある。将来、高齢者が東京圏にとどまれば、介護施設をある程度増やさざるを得ない。介護の人材が不足するので、地方から若い世代を引っ張ってくる施設が増える。そうなると、東京圏への若者の流出に拍車がかかり、地方の人口減も進んでしまう。

もちろん、在宅介護や在宅医療を充実させて、施設に入らないで最後まで暮らせる体制を充実させることも重要だが、東京圏の高齢者の増加の割合を見ると、劇的な変化がない限り、介護人材として地方から若者が流入するという事態を防ぐのは難しいような気がする。介護の問題も深刻だが、高齢者の移住がどのように進むのかも見守っていかなければならない。

「人口減対策は総力戦!」−国を挙げての地方創生も、今回の創成会議の提言も、根底には人口減、少子化問題がある。もちろん、住む場所を個人に強制することはできないが、自己防衛のためにも「移住」というライフスタイルを気軽に不安なしに選べるのは好ましいことではないか。限りある病院や介護施設を効率的に活用することも必要で、個人の意思や自由を尊重しながら、政府、地方行政、企業、個人個人が総力戦で人口減対策を進め、少しでも明るい未来につなげられればと思う。

■2015.6.20  高齢者の地方移住、自治体間連携で杉並区が先行
高齢者が希望に沿って地方に移住できる環境を整備すべきだ――。民間有識者で構成する日本創成会議(座長:増田寛也元総務相)が2015年6月4日に公表した「東京圏高齢化危機回避戦略」という提言に波紋が広がっている。高齢者の地方移住に実現性はあるのだろうか。

日本創成会議が焦点を当てたのは、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の高齢化問題だ。現状では慢性期医療(療養病床)や介護に関して東京都区部が周辺地域に依存し、逆に急性期医療(一般病床)に関しては周辺地域が都区部に依存している。だが、10年後には3県の方が都よりも高齢化率が高くなり、東京圏全域で医療・介護施設や人材の不足が深刻化すると分析している。

対策では、国や自治体に対し、移住費用の支援やお試し移住の導入、日本版CCRC構想の促進などに積極的に取り組むべきだと言及した。CCRCとは、米国で普及しているモデルで、健常時から要介護時まで同じ施設で暮らせる、高齢者のための複合型コミュニティーを指す。企業に対しても、定年前から勤務地を選択できる制度や、地方移住を見据えた老後生活の支援を促した。

移住先候補として、具体的に「医療・介護に余力のある41地域」を挙げた。医療・介護サービスの提供能力を、1人当たりの急性期医療密度と介護ベッド準備率の指標を使って分類し、数字の高い地域を選んだ。ただし生活の利便性から過疎地は除いている。

提言では、高齢化問題への対策として地方移住のほか、地域への集住化の促進や大規模団地の再生、空き家の有効活用などを挙げた。宅地価格の下落に備え、早期の住み替えを促進するような税制措置、公的な買い上げシステムの整備も検討課題だと指摘している。

■政府や自治体などから賛否の声
提言に対し、国や自治体などからは賛否の声が相次いだ。公表翌日の5日、塩崎恭久厚生労働相は記者会見で「基本線は地域包括ケアシステムをしっかりと整えていく」と言及するにとどめた。

9日、石破茂地方創生担当相は日本記者クラブの会見で、「地方に移住したいという希望を妨げる要因があるなら、それを除去することは政治の仕事だと考えている」と語った。さらに、「日本版CCRCの実現を検討している。要介護になってからではなく、希望があれば元気なうちから地方に行くことが今までの地方移住の考え方と違う」とも話した。

政府が設置した「まち・ひと・しごと創生本部」では2014年8月、東京在住者1200人を対象に意向調査を実施した。その結果、50代男性の51%、女性の34%が地方移住を予定または検討したいと回答した。

しかし、その調査をもとに地方移住のニーズがあると考えるのは早計かもしれない。医療・介護を意識する70代以上は調査に含まれていない。「実際に健康な高齢者が移住を希望するのだろうか」と、疑問を呈するのはサービス付き高齢者向け住宅協会の向井幸一副会長。自身も宇都宮市などで高齢者住宅を複数経営し、「都心から転居して来る高齢者もいるが、近くに家族が住んでいるケースがほとんど」と言う。

今後を占ううえで参考となるのが、東京都杉並区の例だ。杉並区は提言よりも早く、全国に先駆けて10年度から自治体間連携で特別養護老人ホーム(特養)の整備を進めている。

静岡県や同県南伊豆町と連携し、町有地に100床の特養を整備する計画だ。開設は18年1月ごろを予定している。15年3月に区と町、静岡県の3者で施設概要などについて覚書を締結し、5月から運営事業者の公募を開始した。

計画を進めるために区は2年前、区民の特養入居待機者のうち優先度の高い人に、南伊豆町の特養が開所したら入所を希望するか質問し、ニーズを探った。回答者814人のうち、「すぐにも入居を希望」が101人、「検討する」が171人いた。

得をするのは杉並区ばかりではない。「南伊豆町だけでは施設の運営が成り立たず、10年以上新設できなかった。杉並区と連携することで、100床と運営が成り立つ規模の施設整備が可能になった」と南伊豆町健康福祉課の担当者は話す。ほかにも施設が食材や日用品などを購入したり、入居者の家族が面会に来たりすることで、地元への経済効果も見込む。

自治体が連携することで施設建設が進み、複数のメリットが生まれる。いいことずくめのようだが、他の自治体が追随することは簡単ではない。「杉並区は南伊豆町と40年以上交流があり、素地があったから連携できた」と杉並区保健福祉部の森山光雄高齢者施設整備担当課長は話す。

高齢者の地方移住を進めるには、課題が山積している。提言が浮き彫りにした人口減少と超高齢社会の新たな住まい方のモデルを構築できるか、建築界に課題が突き付けられている。

■2015.6.21  障害者白書 雇用率達成企業半分に満たず
政府は16日の閣議でことしの「障害者白書」を決定し、民間企業で働く障害のある人はおよそ34万4000人余りと最も多くなる一方、法律で定められた雇用率を達成している企業は半分に満たず、雇用対策の充実を図る必要があると指摘しています。

閣議決定された「障害者白書」によりますと、去年6月の時点で民間企業で働く障害者は34万4000人余りで、前の年より2万1000人ほど増え、統計を取り始めた昭和52年以降、最も多くなりました。
一方、法律で定められた障害のある人の雇用率2%を達成した企業の割合は44.7%で、前の年より2ポイント上昇したものの、依然として半分以上の企業が達成できていませんでした。

これについて、白書は「障害のある人が地域社会で自立していきいきと暮らせるよう、障害者雇用対策の一層の充実を図る必要がある」と指摘しています。
また、白書では2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、空港や駅、道路などのバリアフリー化を進めるとともに、メインスタジアムとなる国立競技場に車いすの専用席を120席設置する方針などを盛り込んでいます。

■2015.6.21  赤ちゃんポスト:8カ国から若者13人見学 慈恵病院訪問 /熊本
ノルウェーやオランダ、米国など8カ国の若者13人が18日、親が育てられない子供を受け入れる赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)を設置する熊本市西区の慈恵病院を訪れ、施設を見学した後に蓮田太二理事長(79)と意見交換した。

外国人の若者を日本に招いて交流・学習ツアーをするNPO法人「ワールドキャンパスインターナショナル」(荒尾市)が主催するプログラムの一環。13人は10〜20代の学生や会社員らの男女で、8、28日に県内や福岡、長崎でホームステイや大学生との交流などをする予定という。

意見交換会で、参加者は「日本の福祉が充実したら子供の預け入れは少なくなると思うか」「障害のある子供はどのくらい預け入れられているのか」「子供を引き取る場合に父親が連絡してくることはあるか」など活発に質問し、蓮田理事長が丁寧に答えていた。

スイスのチューリヒから来日したという会社員のフィリップ・マーンさん(23)は、ゆりかごについて「匿名性の確保は重要で、素晴らしいシステムだと思う。同様のシステムが各国のニーズに合うように導入されていけばいい」と話していた。

■2015.6.23  再利用折り紙:折り鶴の思いをつなぐ 障害者ら発案、発売へ /広島
平和記念公園(中区)に寄せられる折り鶴の思いをつなげようと、社会福祉法人「はぐくみの里」(東区)は7月から、折り鶴から加工した再生紙の折り紙「ずっと折り鶴、ずっと折り紙」を発売する。障害者が1羽ずつ丁寧に解体し、仕分けした折り鶴が新たに生まれ変わり、再び平和への願いをつなぐ。


公園の「原爆の子の像」には年間1000万羽の折り鶴が寄せられ、市は2012年から再利用などの取り組みに配布している。同法人が運営する施設「ワークプラザひがし」では、障害者の自立支援として、同年から再生紙加工用に折り鶴をほどく手作業をしてきた。ほどいた折り紙に平和を願うメッセージが書かれていることもあり、昨年12月、障害者らが「メッセージを次世代につなぎたい」と発案した。製紙工場などの協力も得て、今春、折り紙への加工が実現した。

折り鶴から薄い色の紙を仕分けし、製紙工場が加工した後、障害者らが包装作業も担う。施設に通う木下亜土(あど)さん(41)は「生まれ変わった折り紙で、たくさんの人とつながっていきたい」と話した。無地とカラー(各24枚入り)、デザイン柄(5枚入り)があり、それぞれ価格は400円(税別)。広島市現代美術館や広島市植物公園などで販売される。

■2015.6.24  野菜直売所:取れたてを地域の人に 障害者事業所「わかば」開設 大淀で来月1日から /奈良
野菜の栽培などを通じて障害者の社会参加を支援する多機能型事業所「わかば」(下市町阿知賀)が7月1日から、大淀町今木で野菜直売所の営業を始める。事業所の利用者が販売スタッフにもなる予定で、わかばの関係者は「地域の人たちとの関わりを通じて、利用者が社会に出ていくきっかけになれば」と期待を寄せている。

社会福祉法人「ひまわり」が運営するわかばには、知的障害などがある10〜40代の男女約10人が就労訓練を受けている。野菜の栽培は約5年前に訓練の一環として、施設の周辺にある畑で始まり、職員の指導を受けながら日々作業している。休耕田や耕作放棄地を借りるなどして徐々に面積は増え、現在では約4000平方メートルに達する。品種は20種以上。夏はキュウリやナス、ズッキーニ、冬はタマネギやジャガイモなどが取れる。

わかばの野菜の特長は、農薬を使わずに手間をかけて育てている点だ。施設長の植田洋子さん(66)は「野菜づくりは虫との闘い」と苦笑いするが、「一生懸命作っているからおいしい」と太鼓判を押す。価格もスーパーマーケットなどに比べて比較的安く、購入した人からの評判は上々という。

野菜はこれまで黒滝村の道の駅などに卸してきたが、「利用者がもっと地域の人と触れ合う機会をつくりたい」と、空き店舗を借りて直売所を開くことを決めた。販売スタッフは職員と利用者が交代で担当し、消費者と直接やり取りをすることで就労訓練も兼ねる。

職員の岡本美憂さん(22)は「施設にこもりがちな利用者が外に出ていろいろな人と接する大切な場になる。自分たちが作った野菜が実際に買ってもらえる瞬間を見るのは励みになると思うし、成長にもつながる」と力を込める。

直売所には取れたての野菜を直送し、近くの農家も納入する予定で多彩な品揃えになる。下市町の特産品の割り箸なども販売するという。植田さんは「地元の人たちの協力で支えられている。少しでも地域の役に立てたらうれしい」と話した。

7月1日を除く水曜定休で、午前9時〜午後4時。問い合わせは直売所

■2015.6.24  介護人材の不足、2025年に37.7万人へ拡大も 厚労省最新推計
団塊の世代が75歳を上回り、高齢化が一段と進行する2025年には、介護職員の不足がおよそ37.7万人にのぼる恐れがあることが、厚生労働省の最新の推計で明らかになった。

この推計は、各都道府県からの報告を積み上げてまとめたもの。厚労省は今年2月、2025年には約250万人の介護職員が必要になる一方で、このままいけば約220万人しか確保できないという暫定値を公表し、「需給ギャップは約30万人」との見通しを示していた。


2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について  6月24日
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000088998.html

2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)(都道府県別)
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12004000-Shakaiengokyoku-Shakai-Fukushikibanka/270624houdou.pdf_1.pdf


2025年に向けた介護人材にかかる需給推計については、今年2月に暫定値を公表しましたが、今般、都道府県で介護保険事業支援計画が策定されたことに伴い、確定値が取りまとまりましたので、公表いたします。

需要見込みは、市町村により第6期介護保険事業計画に位置付けられたサービス見込み量等に基づくものです。

供給見込みは、平成27年度以降に取り組む新たな施策の効果を見込まず、近年の入職・離職等の動向に将来の生産年齢人口の減少等の人口動態を反映した「現状推移シナリオ」に基づくものです。

■2015.6.25  介護保険料滞納2年以上が1万人 274億円で過去最高
介護保険料を2年以上滞納したペナルティーとして、基本1割のサービス利用者負担を3割に引き上げられた高齢者が、2013年度に全国で1万335人いたことが25日、厚生労働省への取材で分かった。右肩上がりの保険料上昇が一因とみられ、介護保険制度が始まった00年度に25億円だった滞納額も、過去最高の274億円に上った。

生活が困窮して滞納した上、負担割合が高まることでサービス利用を控えざるを得ない人もいるとみられる。厚労省の担当者は「なるべく滞納しないよう、自治体が分納や減免に応じることも必要だ」と指摘する。

■2015.6.26  認知症の行方不明者、2年連続1万人超- 警察庁、所在未確認は168人
警察庁は25日、昨年、届け出があった行方不明者のうち、認知症の人は1万人余りいたと発表した。認知症の行方不明者が1万人を超えるのは一昨年に続き2年連続。また、行方不明のまま所在が確認できない認知症の人は、昨年末段階で168人いることも発表された。

警察庁によると、昨年中に行方不明として届け出があった人は8万1193人。このうち、認知症の人は1万783人で、一昨年と比べて461人増加した。男女別では男性が6130人、女性が4653人だった。

■昨年、死亡した認知症の行方不明者は429人

一方、昨年中に所在が確認された認知症の行方不明者は、一昨年以前に届け出があった人も含めると1万848人いた。確認された経緯では、警察による発見が6427人、自分で帰宅するなどした人が3610人、その他が382人だった。死亡していた人は429人だった。

都道府県別の届け出数では、最も多かったのは大阪の1921人。兵庫の1207人がこれに次ぎ、以下は愛知(894人)、京都(444人)、福岡(396人)などの順となった。東京は253人だった。

行方不明となる認知症の人が増え続けている状況を受け、警察庁では、関係機関や関連団体との相互連携による行方不明者の早期発見・保護に、さらに力を注ぐとしている。また、関係機関に対しては、認知症の人の身元を特定しやすいよう、衣服や靴に名前を書くなどの取り組みを進めるよう働き掛ける方針という。


平成2 6年中における行方不明者の状況  警察庁
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/fumei/H26yukuehumeisha.pdf

■2015.6.26  老後は外国人介護士のお世話に? 慢性的な人手不足で施設が活用に力
福井県敦賀市の特別養護老人ホームで、経済連携協定(EPA)に基づく来日外国人として県内で初めて、介護福祉士国家試験に合格したフィリピン人女性が活躍している。施設が外国人活用に力を入れる背景にあるのは、介護分野の慢性的な人手不足。県も外国人活用の検討会を立ち上げた。老後は外国人のお世話になるケースが今後県内でも増えるかもしれない。

◆一発合格

「ひじは痛みませんか」「眼鏡がずれてますよ」。同市の特養第2渓山荘ぽっぽで、フィリピン人のランドカン・エミリ・ヴォンさん(27)が、少したどたどしさは残るものの十分な日本語で、入所する高齢者に声を掛けていた。小柄な体からは想像できないほどエネルギッシュでいつも笑顔。顔なじみの入所者にも笑顔が広がった。

ランドカンさんは母国の大学で看護師資格を取得した後、ロータリークラブ(RC)の留学制度で当時の敦賀短大に留学。2013年度からEPAに基づく介護福祉士候補者として、同施設で実務経験を積んできた。

勤務の傍ら受験勉強に励み15年3月、来日外国人の合格率44・8%の国家試験に一発合格。今は夜勤もこなし「入所者に喜んでもらえると自分も頑張れる。仕事をしているときが一番楽しい」と充実感いっぱいだ。

◆相当な戦力

同施設はランドカンさんの実務研修中、日本人職員と同じ給与を払い、介護技術や知識も指導。住居も提供してきた。「それらを負担しても候補者を受け入れた理由は日本人の求人難」。施設長で、運営する社会福祉法人「敬仁会」の櫻井誓行常務理事は説明する。

同法人は職員約250人で16事業所を展開する県内でも規模の大きな事業者。「職員は若い女性が多く産休、育休で毎年15人ほど欠員がでる。復職しても多くがパート勤務を希望する」。昨秋新たに始める予定だったデイサービスとショートステイの事業所は、職員が確保できず1年延期せざるを得なかったという。

櫻井常務理事は県老人福祉施設協議会の元会長。「EPA候補者は看護の知識を持ち一定の日本語能力もあるなど、非常に優秀。試験に合格するレベルなら言葉の不足感はない」と言う。同施設はランドカンさんとともにもう一人フィリピン人女性を受け入れており、本年度中に受験する予定。

櫻井常務理事は「2人がうまくいけば受け入れを拡大したい。毎年2人なら5年で10人。相当な戦力」と期待する。さらに今春は、同施設で3年間実務経験を積んできた韓国人女性2人も試験に合格した。

◆1800人不足

県内の介護職員は、介護福祉士や訪問介護員ら計1万人余。厚生労働省が24日公表した推計では、現状の増員ペースのままだと団塊の世代が後期高齢者となる25年には、約1800人不足する。県が対策の一つに掲げるのが、外国人の活用促進。23日には介護人材確保対策協議会にワーキンググループを立ち上げ、検討を始めた。

EPAに基づく介護福祉士候補者を受け入ている施設は県内では現在、同施設のみ。県長寿福祉課は「県内でも合格者が出たことで、受け入れ施設が増えてくれれば」と期待を寄せている。

■2015.6.27  認知障害ある人の運転、高齢男性ドライバーの6割に
国立長寿医療研究センター調べ
超高齢化は社会にさまざまな影響をもたらしているが、交通社会もその一つだろう。国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の島田裕之部長(予防老年学研究部)らは、6月12〜14日に横浜市で開かれた日本老年医学会の会合で、男性ドライバーでは65歳以上の6割以上が中等度の認知障害を抱えていることが分かった。ただ、認知障害があることが即、交通事故につながるかは不明で、島田部長は認知機能の低下した高齢者と交通事故の関係を検討する調査の必要性を強調している。


高齢者1万人を調査

警察庁によると、2014年の全国の交通事故件数は57万3,842件で前年比8.8%減、ピークだった2004年(95万2,709件)から毎年減っている。一方で、事故件数全体のうち65歳以上の高齢ドライバーが起こす割合は増え続けており、2014年は18.7%。2004年の10.5%から8.2ポイントも増加している。

その原因として、社会全体が高齢化していることはもちろんのこと、高齢化による認知機能の低下の影響が指摘されている。また、地方などでは公共交通の廃止が相次ぎ、移動手段が自家用車に限られてきていることも要因の一つだろう。

島田部長らは今回、65歳以上の高齢者約1万人(平均年齢73.2歳)を対象に、運転や認知機能などについての調査を実施。認知機能については質問式のテスト(MMSE)を行い、30点満点中21〜26点だった人を軽度認知障害(MCI)、10〜20点だった人を中等度認知障害と分類した。なお、脳卒中、認知症、パーキンソン病、うつ病にかかったことがある人は除外している。


85歳以上男性の45%が運転

その結果、男女とも年齢が高くなるに従って運転する割合は減っていったが、女性と比べて男性は運転する割合が高く、85歳以上でも45%が運転していた(女性は7%)。

認知機能で見ると、MMSEの得点が低いほど運転する割合が減っていった。しかし、MMSEが10〜20点の中等度認知障害を抱えている運転者は、女性で16%、男性では61%に上っていたという。

島田部長らは「MMSEで中等度の認知障害が疑われる高齢者でも、運転している実態が明らかになった。今後、さらに調査を行い、認知機能が低下した高齢者が事故を起こす可能性が高いのかどうかを調べていく必要がある」とコメントしている。

■2015.6.27  廃校を福祉拠点に 旧向田小校庭に特養ホーム 那須烏山
廃校となった向田小の校庭に特別養護老人ホーム「こぶしの丘」が7月1日、オープンする。入居者と地域住民の交流スペースを設けるなど、開放的な造りが特長。同小の校舎は既に高齢者の自立支援・地域交流施設「向田ふれあいの里」として活用されており、元小学校は新たな福祉拠点として生まれ変わる。廃校の老人ホームへの活用は東小に続き市内2例目。

向田小は児童数減少により2007年、烏山小に統合。市は11年に校舎を活用して向田ふれあいの里を開設、地元住民がボランティアで運営している。

こぶしの丘は市内で児童養護施設「明和園」を運営する社会福祉法人「明和会」が建設し運営。延べ床面積約2700平方メートル、鉄骨造り2階建て。入居定員は60人、総工費約6億8千万円。土地は市から無償貸与された。

明和園の子どもたちや地域住民が定期訪問できるよう、入居者と地域住民の交流にも重点を置いた。

スタッフはケアマネージャー、生活相談員、栄養士が各1人。看護職3人と介護職員35人が24時間体制で対応する。27日午前9時半からは一般の見学会も行う。

■2015.6.28  看護師885人不足…昨年  山形県
全国的に看護師不足が叫ばれる中、県内で働く看護師の数が、2010年の1万3976人から、昨年には1万4761人と785人増えたことが分かった。吉村知事が26日、県議会の一般質問で明らかにした。ただ、需要数に比べ、依然として885人が不足しており、さらなる人材確保が求められている。

県は2012年から「看護師等生涯サポートプログラム」を実施し、学生確保と定着、キャリアアップ、離職防止、再就業促進の四つの柱で看護師確保を進めてきた。2010年の不足数は1338人で、プログラムでは今年、449人にまで減らすことを目標としていたが、実態とはまだ差がある。

県内の看護師養成施設では1学年につき約470人いるが、県内で就職するのは例年約6割にとどまり、県は全国平均の7割に引き上げるよう努めている。その一環として、県立保健医療大は今年度の入試から、卒業後に県内で看護師として働くことを条件とした「地域枠」(10人)を設けた。

吉村知事は、「高齢化の進展を踏まえ、看護師の需要動向を取り巻く環境は大きく変化することが見込まれる。将来の需要動向を的確に把握しながら、看護師確保対策をより一層推進していく」と述べた。

■2015.6.28  「うちの子を殺す気か」看護師全員が一斉辞職に追い込まれた理由 特別支援学校「先進県」のはずが…
鳥取県立鳥取養護学校(鳥取市)で看護師6人全員が5月下旬に一斉辞職し、医療的ケアが必要な児童・生徒の一部が一時、登校できなくなる事態が起きた。県教委などによると、保護者からケアの遅れに対し繰り返し批判を受けたことが理由で、「うちの子を殺す気か」などと強い調子で迫られることもあったという。背景には要員不足の事情があり、県教委も人員配置や学校側のフォロー体制の不備を認め、改善に乗り出したが、保護者との和解はできていない。児童・生徒を積極的に受け入れ、特別支援学校の体制が「全国でも先進的」と胸を張る同県だが、思わぬトラブルで現場のあり方が見直されることとなった。

登校できない

県教委などによると、同校の30〜50代の女性の看護師6人全員が5月22日までに、一斉に辞職を申し出た。6人はいずれも非常勤で、後に復職を申し出た1人を除き、その後は出勤していない。

同校は小学部〜高等部に児童・生徒76人が在籍。うち、33人がチューブでの栄養補給やたんの吸引などの医療的ケアを必要とする。学校側は週明けの25日を臨時休校としたが、その後は付き添いの保護者がいる子供を除く10人程度が登校できない事態になった。

同校では、1日あたり看護師5人が専用ルームでケアを担当していた。看護師の人数や配置については国などによる明確な基準はなく、学校側がケアが必要な児童・生徒数に対し適正とみられる人数を配置してきた。

ところが、ケアが必要な児童・生徒は平成23年度が18人だったのに対し、今年度は1・8倍に増加。看護師の業務量が増えたことでケアを行う時間が遅れるなどし、4月ごろから一部の保護者から不満の声が上がるようになった。


県議会でも問題に

この問題は6月8日の県議会総務教育常任委員会でも取り上げられた。県教委の説明によると、子供へのケアが7、8分遅れたとして、保護者から厳しい指摘を受けたことがあったという。

また看護師から事情を聴いたという県議は「保護者にもかなり問題があるように受け取らざるを得ないような発言、生命にかかわるような言い方があった」と指摘。例えば点滴の位置が低いなど看護師に同じようなことを繰り返し言ったり、「何でこんなことするの」「うちの子、殺す気」といって迫るケースもあったという。

県議によると、こうした事態にもかかわらず、看護師側は非常勤であることから言いたいこともいいにくい状況だったという。

これに対し山本仁志教育長は「必要な看護師は確保しているつもりだが、チームで働ける体制になっていたかなど課題があったと認識しており、それらを解決するような体制をつくっていきたい。保護者に対しても納得が得られるよう努力していきたい」などと答えた。


学校側も体制の不備認める

県教委などによると、同校の場合、看護師は1日あたり6時間勤務2人、5時間2人、3時間1人のシフトをとっていた。業務はケア以外にもケアの準備や洗浄などがあり、学校の会議などに出て意見を言う時間はなかった。

一方、学校側も今回のトラブルを受け、看護師の代わりに保護者からの苦情を受ける体制がきちんとできていなかったと認めた。

看護師の一斉辞職は、保護者からの厳しい指摘を繰り返し受け続け、思い詰めた結果だとして改善策を検討。保護者からの要望を受け止める窓口を設ける▽看護師が会議に参加できるようにし、職務上の意見を聞く窓口を明確化する−など、環境整備を実施することを明らかにした。



医療的ケア先進県のはずが…

同県は「医療的ケアの必要な子供を通学させたい」という保護者の要望に応え、平成12年度から養護学校など特別支援学校に看護師を配置し、在宅だった重度の肢体不自由の子供らを受け入れてきた。こうした取り組みは他県からも「先駆的といわれる」(県教委特別支援教育課)。現在、特別支援学校は県内に4校あり、看護師の1日の稼働人数は辞職者を出すまでは全体で13人を確保していた。

同校では6月11日、隣接する県立中央病院など3機関から看護師計4人の派遣を受け、1日あたり3人体制で医療的ケアを再開。15日には辞職を申し出ていた看護師1人が体制改革を確認の上、復職した。

しかしケアの体制はなお不十分。当面は6月末をめどに看護師を6人にするのが目標で、月内にはもう1人採用する見込みという。1日あたりの体制も従来の5人から6人に強化することを検討している。野坂尚史校長は「学校独自でも努力し、縁者を頼るなどあらゆる手をつくして看護師を探したい」と話す。

児童・生徒は現在ほぼ通学を再開しているが、一部の保護者と学校側の和解はまだという。県教委は学校から状況について聞き取りを進め、保護者会などで運営について理解を求める考えだ。


全国的な傾向

文科省特別支援教育課によると、全国の公立特別支援学校で日常的に医療的ケアを必要とする幼児・児童・生徒は平成18年度以降増加傾向にある。26年度の調査では通学と訪問教育を合わせ7774人。全在籍者の5・9%にあたり、18年度に比べ1873人(31・7%)増えた。

1人で複数のケアが必要な人も多く、延べ件数は2万3396件。内容別では、たんの吸引など呼吸器関係が69%、経管栄養など栄養関係が24・1%など。こうした状況に伴い、看護師も1450人と、18年の707人の2倍以上に増加した。

同省は23年、特別支援学校などでの医療的ケアに関する今後の対応について都道府県に通知した。その中で、最近の傾向としてケアの内容がより熟練を要し複雑化しており、「児童・生徒の状況に応じて一定数の看護師の配置が適切に行われることが重要」と指摘。一方、保護者との関係では、看護師らの対応には限りがあるとして「相互に連携協力することが必要」としている。

■2015.6.28  県障害者施設開所1年遅れ 落札業者異例の辞退
県が岡崎市で建設を進めている心身障害児者施設「三河青い鳥医療療育センター」で、入札不調と落札辞退が相次ぎ、開所時期が予定より1年遅れ来年4月にずれ込むことになった。入札不調の背景にあるのが、建設資材と人件費の高騰で、工事費は当初より3億5900万円高くなる見通しだ。入所を待つ親たちからは早期の開所を求める声が上がっている。

■入札不調

センターは、第二青い鳥学園(岡崎市)の老朽化に伴い、総事業費44億2000万円をかけて岡崎中央総合公園内の2万平方メートルの敷地に建設される。センターには「肢体不自由児者」50人に加え、新たに知的障害と肢体不自由を併せ持つ「重症心身障害児者」90人が入所できる計画だ。

施設建物の入札は2013年10月に行われたが不調に終わった。14年1月の再度の入札で、38億2000万円で落札されたが、開所予定は今年4月から来年1月に延期された。建物の建設費は、建設資材の高騰などに合わせた価格の見直しで、当初の36億1000万円から38億2000万円に上がった。

■「採算取れず」

さらに、今年4月になり、駐車場や排水など施設の周辺工事を2億1500万円で落札した岡崎市の業者が「採算が取れず、工期も間に合わない」として、落札を辞退した。業者が一度、落札した工事を辞退するのは異例で、この業者は県に2150万円の違約金を支払うとともに、2か月の指名停止処分を受けた。県の担当者は「辞退は想定外だった」と話す。

この辞退で入札がやり直されたことで、周辺工事は来年3月までかかることになり、開所は来年4月に再度、延期されることになった。周辺工事は当初の2億4000万円から3億8900万円に上がった。

■入所待つ親

開所の遅れに最も影響を受けるのは、入所を待っている人たちだ。「岡崎肢体不自由児・者 父母の会」の荻野義昭会長(58)は開設の遅れについて、「またかという思いで大変残念だ」と困惑する。

三河地区には現在、重症心身障害児者を受け入れる施設はなく、県境を越え、静岡県の施設に入所する障害者もいる。同会に所属する30人程度が、入所を希望しているという。近年は障害のある子どもが40歳代、50歳代になるにつれ、高齢の親が家で世話をするのが困難になるケースも増えているという。荻野会長は「一刻も早く入所したい人もおり、早く施設が完成してほしい」と話している。

■2015.6.29  【累犯障害者】 長崎モデルの明暗(1)「もう一生出えへんのか」 弁護士に迫った精神年齢「4歳7カ月」の男 隔離で「再犯」防げるのか
着古した青い半纏(はんてん)姿の男=当時(37)=は、小柄な体をかがめ、傍聴席を見回した。威嚇するような目つきは、おびえの裏返しだったのか。それとも、刑務所へと続くレールに乗せられたことに抵抗していたのか。


「せめてひと言」

整備工場から中古車を盗んだとして常習累犯窃盗罪に問われた男に、京都地裁は2月24日、懲役1年10月の実刑判決を言い渡した。

男には重度の知的障害があり、精神年齢は「4歳7カ月」と鑑定されている。後藤真知子裁判官は、善悪の判断や行動の制御ができると結論づけたものの、弁護側が「争点」に位置づけた再犯防止策には言及しなかった。

「せめて説諭でも、社会へ戻るときに本人や福祉関係者の支えとなるひと言があれば…」。弁護人の西田祐馬弁護士(京都弁護士会)は悔しがった。

西田弁護士は控訴し、2審大阪高裁の初公判が今月19日から始まった。

一方、前回の常習累犯窃盗事件はすでに有罪判決で決着した。1審京都地裁は平成25年8月、重度の知的障害を理由に男を無罪としたが、26年8月の2審大阪高裁判決は懲役2年の逆転有罪を宣告。最高裁が今年3月、西田弁護士の上告を棄却、確定したのだ。

最高裁の通知書は拘置所にいた男の元にも届き、男は西田弁護士にこう尋ねたという。

「あれ、何なん?」

西田弁護士が「刑務所に入らないといけないんですよ」とかんで含めるように諭すと、男は「いつ出られるんや」「もう一生出えへんのか」とたたみかけた。


車への執着

「もう車に乗らん。だから許してくれ。頼むから、無罪で出してほしい」
今回の公判で、男は後藤裁判官に「無罪」を繰り返し訴えていた。一方で西田弁護士には、盗んだ車の写真が掲載された裁判資料や中古車情報誌を差し入れするようしきりにせがんだ。

男は拘置所内で、購入できるカップ麺などの物品を全部買って手持ちの金を使い果たしたり、ずぶぬれの雑巾で畳を拭いて腐らせたりもしているという。
車への執着を募らせる男を、レールに乗せて社会から隔離するだけで、問題行動は収まるのか。

被害者側も、必ずしも強い処罰感情があるわけではない。車を盗まれた自動車販売会社の女性従業員(36)は「本人、福祉、司法のどれが悪くて犯罪が繰り返されるのかはよく分からない。けれども、私たち地域に協力できることはある」と語る。


全国から脚光

男のように再犯を重ねる知的障害者、いわゆる「累犯障害者」を地域社会に戻そうとする試みは、18年に始まった。先鞭(せんべん)をつけたのは、京都の西約560キロにある長崎県雲仙市の社会福祉法人だ。

「南高愛隣会」。海と山に囲まれた環境で、生活訓練施設や更生保護施設など51事業所を運営し、累犯障害者ら約2千人の自立と社会復帰を支援している。

その取り組みは「長崎モデル」と呼ばれるほど画期的なものだった。まず、出所した累犯障害者が福祉サービスを受けられるよう調整する仕組みを整備。これは厚生労働省の「地域生活定着支援センター」として制度化され、23年度までに全都道府県に設置された。

さらに、検察官や弁護人と協力する委員会組織を作り、刑務所と福祉施設のどちらで更生させるのが適切かを司法の場で判断できるようにした。

だが、長崎県は2月26日、南高愛隣会への行政処分に踏み切った。施設を利用する障害者らへの虐待が23件あったというのだ。福祉関係者のみならず法務・検察当局からも脚光を浴びてきた先駆者が、初めて見せた暗部だった。


累犯障害者が犯罪を繰り返す負の連鎖をどう断ち切ればいいのか。長崎モデルからヒントを探る。

■2015.6.29  【累犯障害者】 長崎モデルの明暗(2)大声上げ、かみつく男性を馬乗り制圧、肋骨折る…「しつけ」と称した虐待23件に下った行政処分
「虐待はあってはならない行為。職員たちの職業倫理が不徹底だったと痛感している」

2月26日、長崎市内で記者会見した社会福祉法人「南高愛隣会」(長崎県雲仙市)の田島光浩理事長(40)は、深々と頭を下げた。これが、計23件の虐待があったとして県から行政処分を受けたことへの反省の弁だった。

再犯を重ねる「累犯障害者」を受け入れ始めた平成18(2006)年から、職員たちは虐待に手を染めていた。グループホームで、興奮状態になった知的障害者の男性を押さえつけ、肋骨(ろっこつ)を折るけがをさせた事案が最初とみられている。

県はこの施設を含む4施設に対して1年〜3カ月間、新規利用者の受け入れを禁じた。担当者は「けがの程度などを考慮し、重い処分にした」と明かす。
累犯障害者の更生と社会復帰に関しては先駆者と評価されていた南高愛隣会で、なぜ虐待が起きたのか。南高愛隣会が県に提出した報告書には、にわかに信じがたい記述がある。

「しつけとして手をあげることを許す雰囲気が、法人全体にあった」


強度行動障害

「おなかが痛い」。肋骨を骨折した男性は当時、グループホームで火災訓練が行われているさなかに、そう訴えたという。

知的障害者は、自分の身体感覚をつかむことが苦手とされ、中には実際に痛みを感じにくい人もいる。利用者の健康状態を毎朝確認している担当職員は、男性が骨折した理由に心当たりがなかったと主張したが、あるとすれば1週間前、馬乗りになって男性を押さえつけたときだと申告した。

男性は知的障害とは別に「強度行動障害」を抱えていた。他人に危害を加えたり自分で自分を傷つけたりする行為を、通常では考えられない形で頻繁に起こしてしまう障害で、昭和63(1988)年に初めて研究報告された比較的新しい概念だ。

その強度行動障害によって、男性は突然大声を上げたり、職員にかみついたりする行為を繰り返していた。力の強い成人が子供のように暴れだしたら、止めるのは容易ではない。

田島理事長の父で南高愛隣会を創設した当時の責任者、良昭前理事長(70)は口頭で注意しただけで、現場に対応を一任してしまった。このとき虐待を疑っていれば内部処分の対象になり得たのだが、真相はうやむやにされた。


「体で止めろ」

県は平成25(2013)年1月に虐待の疑いがあるという通報を受け、以降、法律に基づく特別監査で実態を調べてきた。その過程で18年に男性が骨折した事案が発覚すると、長崎県警も関心を示し捜査に乗り出したという。

立件こそ見送られたが、男性は今も同じグループホームで暮らし、けがをさせた職員も支援を続けている。実は、職員の対応は虐待でもしつけでもないとみている人々が外部にいる。他の利用者の安全を守るためには、やむを得ない対応だったという考え方だ。ある弁護士は、処分取り消しを求める行政訴訟を起こそうと持ちかけたという。

良昭前理事長は、長い年月をかけて築いた県との信頼関係を考慮し「南高愛隣会の名誉を回復しても、利用者には何のメリットもない」と提訴を断った。
良昭前理事長が職員に説いてきたのは「暴れてかみつかれて傷だらけになっても、抱きしめて自分の体で止めろ」という「情」の福祉だった。内部事情に詳しい男性弁護士は明かす。

「利用者にどんな障害があり、専門家としてどう対応すべきなのか。『情』を過信するあまり、必要な情報を共有してこなかった」

■2015.6.29  【累犯障害者】 長崎モデルの明暗(3)「障害者は天使みたいにかわいい」タブー視された「犯罪」 58人の父親≠フ矜恃
「ろうそくのように身を焦がし、日の当たらない障害者に光を届けたい」

社会福祉法人「南高愛隣会」(長崎県雲仙市)の前身に当たる福祉施設「コロニー雲仙」は、田島良昭前理事長(70)がそんな信念のもとに開設した。昭和53(1978)年、33歳のときだ。
小学生の頃から障害者福祉に関心を持ち、厚生大臣(当時)になることを夢見ていた。政治家の秘書にもなったが、政治よりも現場の方が志を遂げられると決断したという。

開設までには3年8カ月を要した。地域住民から「障害者は危ない」などと猛反対されたからだ。特別支援学級の教師を主人公にした映画の上映会を開き、「障害者は天使みたいにかわいい。犯罪者はいない」と必死に理解を求めた。

もちろん、それは建前だった。健常者と同様、障害者にも犯罪を繰り返す者はいる。当時はそんな「累犯障害者」を黙って受け入れるのが全国の福祉関係者の矜持(きょうじ)であり、口にすることはタブーだったという。

処遇が難しい障害者のそばにずっといられるよう、施設で寝泊まりし、身寄りがなければ保護者になった。現在は58人の父親≠セ。「愛情や奉仕といった『情』で救ってあげようと思っていた」と田島前理事長は振り返る。


「獄窓記」の衝撃

「収容者たちが抱える障害は、実に様々(さまざま)だった」。秘書給与詐取事件で1年2カ月間、獄中で過ごした元衆院議員、山本譲司氏(52)は平成15年、著書「獄窓記」(ポプラ社)で刑務所の実態を明かした。

これに衝撃を受けたのが、田島前理事長だった。累犯障害者をひそかに受け入れてきた現場感覚で、刑務所にあふれているとまでは思えなかったからだ。

試しにある刑務所に問い合わせると「障害者は一人もいない」と回答された。真偽を確かめるべく、翌16年に勉強会を発足させた。

18年に厚生労働省の科学研究費を得て本格調査を進めると、法務省が受刑者410人に知的障害の疑いがあると初めて公表した。中でも問題は、療育手帳の所持者がわずか26人(6%)という現実だった。
「94%はいわば『幽霊』。このまま社会に出れば、パスポートなしで入国するようなものだ」。事態の深刻さを理解した田島前理事長は、以後、累犯障害者を積極的に受け入れていく。「情」の福祉の真骨頂だった。


負担増加の果て

検察や弁護士らと連携する「長崎モデル」の礎はこうして築かれた。一方で「情」に溺れた結末が、県が認定した計23件の虐待行為ではなかったか。

確実に増していた職員の負担。5年ほど前から「南高愛隣会は仕事が厳しい」という風評が立ち、就職希望者が減っていた。長男の光浩理事長(40)は「若い職員は『身を焦がせ』というお父さんの言葉を理解できない。1日8時間労働の中で支援すべきだ」と苦言を呈していた。

田島前理事長は言う。 「一生懸命『情』を尽くせばだれにでも福祉はできる、という幻想がまかり通っていた。理性や知性で対応する福祉に変えることは、私にはできなかった」

新規利用者の受け入れ停止を命じた行政処分の後、施設を利用している障害者の家族らは「追い出されるのか」と不安を募らせ、福祉関係者には「南高愛隣会で受け入れられない障害者は、うちには無理だ」というあきらめが渦巻いた。

それでも、問題の責任を取る形で、田島前理事長は法人の理事と福祉施設の全役職を辞任した。

福祉にとって、本当に「情」は不必要なのか。

■2015.6.29  【累犯障害者】 長崎モデルの明暗(4) 「社会に出るのが怖い」前科28犯をすくい上げる切れ目ない支援…罪でなく人を見る
前科28犯と聞けば、どんな凶悪犯を思い浮かべるだろうか。

更生保護施設「雲仙・虹」(長崎県雲仙市)が平成23(2011)年に受け入れた60代の男性。刑務所を出所するたびに食料品などの万引を28回繰り返していた。「社会に出るのが怖い」という動機だったという。

男性は軽度の知的障害がある「累犯障害者」。軽微な犯罪だからこそ、1回当たりの刑期は短い。「罪ではなく人を見て、対等に向き合おう」。前田康弘施設長(59)は決意した。

更生保護施設は、法務省の機関である保護観察所から、刑務所を出た元受刑者や、保護観察付き執行猶予判決を受けた元被告の保護を委託されている。原則半年の入所期間中に自立に向けた準備をする。

雲仙・虹は全国103カ所のうち唯一、社会福祉法人が作った更生保護施設だ。運営するのは「南高愛隣会」。約20人の入所者は、退所後も51事業所の福祉サービスを受けられる利点がある。男性もそうめん工場で職を見つけ、現在は県外の福祉施設で平穏に暮らしている。


矯正教育を担う

いわば刑罰の領域に足を踏み入れた南高愛隣会の取り組みは、これにとどまらない。19年には、従来の福祉サービスになかった矯正教育を始めた。障害の特性や程度を見極め、一人一人と向き合うことは、福祉が最も得意とするところであり、矯正教育にも応用できると判断したためだ。

担当するトレーニングセンター「あいりん」の福塚進事業所長(50)は言う。「累犯障害者には、一般の人とは異なる専用のプログラムが必要だ」

教育内容は、家畜の世話を通じて命の大切さを学ぶなどする基本訓練と、犯罪防止学習や対人関係のスキルを身につける特別訓練。

何をすれば犯罪になるかを教える自作のテキストには、すべての漢字にルビを振り、視覚で理解できるようイラストを多用した。刑務所を見学させて入りたくないという意識を植え付けたり、償いに代わる奉仕活動をさせたりもする。

累犯障害者の多くは雲仙・虹に入所した直後からあいりんに通い、別の福祉施設に生活の拠点を移してからも、継続して矯正教育を受けるという。


信頼で誘惑断つ

「植木のことは君に任せるのが一番安心だね」。福塚事業所長に褒められると、軽度の知的障害がある男性は、はにかんだ。

男性は長年、植木職人として働いていたが、25年に長崎市内のショッピングモールで缶ビールや食料品を盗んだとして逮捕された。懲役10月、保護観察付き執行猶予3年の有罪判決が確定。それまでもパチンコで借金を重ねては、万引を繰り返していた。

雲仙・虹で生活した後でグループホームに移り、日中は引き続きあいりんに通っている。地鶏の飼育や犯罪防止学習に加え、敷地内の樹木の手入れを任されたことが、男性の自信になった。あるときは、マツの根を見て「もうすぐ枯れる」といい当てたという。

南高愛隣会の職員たちは、自立への第一歩は「他者との信頼関係」だと考えている。少なくとも犯罪に手を染めそうになったときに「助けて」と呼んでもらえれば、飛んでいって再犯を防げるかもしれない。

雲仙・虹の前田施設長は言う。「刑務所に入るために生まれてきた人はいない。罪を忘れず、孤立せずに生きてほしい」

男性は今夏、同県諫早市の別の施設へ移る。刑罰と福祉のはざまにこぼれ落ちた累犯障害者をすくい上げるのは、「情」の精神ならではの切れ目ない支援なのかもしれない。

■2015.6.29  【累犯障害者】 長崎モデルの明暗(5) 「刑務所に入れて更生にどう役に立つ」 刑罰か福祉かを超えて…問われるのは社会の「情」
社会福祉法人「南高愛隣会」(長崎県雲仙市)の取り組みには、法務・検察当局も注目する。長崎地検の幹部がこう打ち明けた。

「刑罰が理解できるのか、刑務所に入れて更生にどう役に立つのか。疑問を持たざるを得ない容疑者や被告はいる」

「累犯障害者」を司法手続きのレールに乗せるだけで、再犯は防げるのか。刑務所以外での処遇を模索する法務・検察当局の意識もまた、長崎から芽生えた。

地検が重視するのは、福祉施設で刑務所に代わる適切な矯正教育が行われているかどうかという点だ。南高愛隣会の施設見学や担当者との協議を繰り返し、知的障害のある容疑者や被告を起訴猶予としたり、執行猶予付きの判決を求刑したりする体制を、平成24年までに整えたという。

軽微な犯罪で、被害が回復され、被害者が処罰を望んでいない、という条件は付ける。弁護人には更生に向けた支援計画書の提出を求め、本人にも計画を守ることを書面で確約させている。地検幹部は「南高愛隣会のおかげで『長崎モデル』は機能している。逆に言えば、しっかりした福祉施設が増えないと全国には広がらない」と話す。


南高愛隣会の外へ

「いつか家に帰って今まで通りの生活に戻りたい」。軽度の知的障害を持つ20代の男性は、再出発への希望を口にした。

男性は24年、バスの車内で酒に酔って女性の体を触り、長崎県警に逮捕された。不起訴になり、南高愛隣会が運営する更生保護施設「雲仙・虹」で生活しながら、トレーニングセンター「あいりん」で罪と向き合う矯正教育を受けた。

昨年8月、別の社会福祉法人「山陰(やまかげ)会」(同県南島原市)のグループホームに移ってきた。現在は共同生活を送りつつ、農作業などの職業訓練を受けている。

男性は、山陰会が南高愛隣会の依頼で受け入れを始めた最初の累犯障害者だ。その背景を、施設管理者の本田崇一郎さん(35)は、図らずも「情」の福祉に通じる言葉で説明した。

「再犯のリスクや他の利用者への悪影響ばかり心配すると、行き場がなくなる。手を差し伸べる気持ちが本人に届けばいい」

南高愛隣会も支援を後押しする。職員は男性に「いつ戻ってきてもいい」と声をかけ、本田さんにも「何か問題が起きれば、すぐ行きます」と約束している。


計り知れない影響

最長2年間、社会から隔離して生活させる国立「のぞみの園」(群馬県高崎市)や、民間の視点で独自の自立訓練を行う刑務所「播磨社会復帰促進センター」(兵庫県加古川市)、そして長崎地検と山陰会。南高愛隣会が福祉関係者や法務・検察当局に与えた影響は計り知れない。

それは、累犯障害者の再犯防止と社会復帰を、もはや刑罰か福祉かという二者択一で考える時代でなくなったことも意味している。

精神年齢が4歳7カ月と鑑定された京都市内の男(38)。自動車盗を繰り返して10代のころから計7回服役しても、福祉の支援を受け続けても、車に乗りたいという欲求を抑えることはできなかった。

7月10日に控訴審の判決が言い渡される常習累犯窃盗事件で、1審通り懲役1年10月の実刑が確定すれば、前回事件の確定判決(懲役2年)と合わせ、刑期は3年10月。拘置所での勾留日数が差し引かれると、3年以内に社会に戻ってくる計算だ。

そのとき、刑罰や福祉に任せ切りにするのでなく、社会で生きるだれもが男に手を差し伸べることは、できるだろうか。問われるのは、私たちの「情」なのかもしれない。

 

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