残しておきたい福祉ニュース 1996〜社会福祉のニュース

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残しておきたい福祉ニュース

 2017年 
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

 2017. 4. 1 障害児の放課後デイサービスに課題 連日利用、児童に負担感も
 2017. 4. 1 72時間超の夜勤する看護師が多い病院では、離職率も高い 日看協
 2017. 4. 6 福祉人材:人手不足が深刻化 1
 2017. 4. 6 看護師の引き抜き過熱 紹介業者「祝い金30万円」も
 2017. 4. 7 日本初の盲ろう者グループホームが大阪に誕生 手話ができる職員も
 2017. 4. 7 島根・江津の土木資材会社がトマト栽培設備を増設 障害者雇用を拡大へ
 2017. 4. 9 両輪同時にブレーキ 静岡の板金設計会社が開発
 2017. 4.22 やまゆり園、横浜への仮移転完了 津久井やまゆり園芹が谷園舎で110人利用
 2017. 4.24 施設と地域、知的障害者が暮らす場は 共生社会への課題
 2017. 4.25 インカム、高齢者施設で導入 介護効率アップに期待
 2017. 4.30 特別支援学校、3400教室不足 在籍者が急増


■2017.4.1  障害児の放課後デイサービスに課題 連日利用、児童に負担感も
障害児の放課後の居場所として国が2012年度に創設した放課後等デイサービスを巡り、国は4月から事業所スタッフの資格要件を厳しくする。民間の指定事業所の急増に伴い、支援の質が一部で低下しているのが理由。一方、送迎サービスが付いて利用料の自己負担が軽いこともあって、連日夕方遅くまで預けられる例もみられ、教育現場などからは「行き過ぎた利用は、障害児の負担になる」との懸念が聞かれる。


4月から資格厳格化、突然の見直しに戸惑いも
特別支援学校などの児童生徒が下校後に集う福岡市西区の放課後等デイサービス「egg」。16日は、16人が職員6人と手芸やコマ遊びなどを楽しんだ。

放課後デイでは管理責任者を除きスタッフに資格要件の定めはなく、「テレビを見せるだけなど不適切な例がある」として4月から厳しくなる。egg運営会社の米原秀紀代表は「現状で新たな要件をクリアできている事業所は少ないのでは。保育士など資格を持つ人材の奪い合いが今後予測される」とみる。

放課後デイは全国で急増。福岡市では1日現在で139カ所を数える。同市こども発達支援課は2月、基準見直しを事業所に通知。山田哲也課長は「意思疎通の難しさなど障害児と向き合うには専門性が必要。従来の基準が甘すぎた」と語るが、突然の見直しに事業所側に戸惑いも広がる。

「疲れが見え、行きたがらない子も」
一方、利用急増で思わぬ影響も出ている。同市西区の生の松原特別支援学校。下校時前の運動場に児童生徒を迎える事業所の車が待機する。その数約40台。こうした光景は各地で見られる。福岡市立の支援学校7校では中学・高等部を含む児童生徒の約7割が放課後デイを利用。利用日数の上限を市は原則「月に25日」と定めるが、月26日以上の利用者が7%を占める。

同校小学部では100人のうち9割超が利用。校長は「月曜から土曜まで毎日利用する子も多い。帰宅は6時ごろ。疲れが見え、行きたがらない子もいる」。別の支援学校の校長経験者は「高等部は自主通学が原則だが、送迎車に自宅まで送られ、生徒の公共交通機関を使う能力が落ちている」と危惧(きぐ)する。

北九州市では利用日数の上限を、国に準じ原則「各月の日数マイナス8日」と定める。保護者の依頼で障害児25人の利用計画を作成する相談支援専門員の安武和幸さん(30)によると、上限いっぱいの利用を望む例が多いという。「親の仕事や息抜きも大切だが、本人の成長や発達にマイナスにならないことが前提。その点は嫌な顔をされても伝えています」と語る。


知的障害児と親でつくる「福岡市手をつなぐ育成会保護者会幼児・学齢部会」の本山悦子部会長の話

放課後デイは仕事を持つ親はもちろん、障害児以外の家族の世話や家事などに忙しい親にとっても、なくてはならない制度。週4日ほど利用する小5の息子は喜んで通い、友人との関わりなど成長にも役立っている。大切なのは、事業所の支援内容に関心を持ち(第三者の専門家である)相談支援専門員の意見を聞きながら、子どもの負担にならない利用をすることだと思う。



◆放課後等デイサービス

児童福祉法に基づき、障害児の発達支援や居場所づくりを目的に放課後や春休みなどに預かる民間施設。国は4月から施設職員(子ども10人に2人以上)について、社会福祉士の資格などを持つ児童指導員、保育士、障害福祉経験者の配置を条件とし、その半数以上を児童指導員か保育士とする基準を設ける。猶予期間は1年。利用者が個別に事業所と契約し、定員10人以下の施設で平日放課後に1人を預かると各種加算を含めて1日9千〜1万円ほどが事業所に支払われる。9割が公費、1割が利用者負担だが上限は一般世帯で月額4600円。

■2017.4.1  72時間超の夜勤する看護師が多い病院では、離職率も高い 日看協
1か月当たり72時間超の夜勤をする看護師の割合が高い施設では離職率も高い

常勤・新卒ともに、小規模病院ほど離職率が高くなる傾向にある



公益社団法人日本看護協会  2016年 病院看護実態調査
http://chachacha.rgr.jp/storage/kangokyoukai-cyosa_01c.pdf

■2017.4.6  福祉人材:人手不足が深刻化 1
介護現場を中心に、福祉業界の人材不足が深刻化している。国の試算では、団塊の世代が全て75歳以上になる2025年には、全国で介護職員が38万人不足すると見込む。京都府福知山市内も例外ではなく、すでに不足感が生じている。新卒者が新しい職場に着く時期を前にして、現状と課題を追った。

「人手はずっと足りないかな」。市内の高齢者、障害者福祉施設関係者たちの多くが口にする。

福知山市が16年度に市内の高齢者施設63事業所に聞き取り調査した結果、「人員の不足感がある数」は計105人。国の配置基準は満たすが十分ではない、との数字が含まれているものの、人材を求める現場の声は大きい。

3年未満の離職食い止めがカギ
全国的な課題の一つとして挙げられるのが、新規就労者の離職率だ。一定の改善は見られるものの、他業種に比べるとまだ高い。

公益財団法人介護労働安定センターが、全国の介護保険サービス実施事業所から無作為抽出した事業所と、そこで働く労働者を対象にした15年度アンケート調査(有効回答者数9005事業所=有効回収率51・0%、同2万1848人=有効回収率41・3%)で、正規・非正規の介護職員と訪問介護員の勤務年数と離職率の関係について調べている。

調査結果は、勤務3年未満の離職率が25%〜35%と最も高く、3年以上5年未満が18%〜28%。5年以上になると10%強程度に落ち着く。

やめた理由は「職場の人間関係に問題があった」が25%で最多。次いで「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があった」が22%、「他に良い仕事、職場があった」が19%と続く。
人間関係について悩む人が多いことへの業界内の認識は高く、「職員同士の仕事に対する考え方の食い違い」「トイレ介助など重労働を押し付けられる」などがよくいわれる。

ある施設管理者は「『なんでもきちっとしなければいけない』という人がいれば『生活の一部だから利用者がいいといえばいいでしょう』という人もいる。価値観が違う中で密接に関わり合って仕事をすれば、ぎくしゃくしやすくはなると思う」と話す。

福知山市内の事業所では、職員からの不平、不満を聞く窓口を設けたり、新入職員へのきめ細やかなフォローをする世話役を付けるチューター制度を活用して対策に努めている。

介護の業界は、「きつい、給料がやすい、汚い」の3Kイメージで敬遠されてきたが、介護職員の給料は国の処遇改善加算で増加傾向にはある。
ただ、報酬単価が下がる中で加算が恒久的に続くとの保障がないことに、給料を払う側の施設には、常に不安が付きまとう。

複数の法人幹部が漏らす。「賞与の算定基準になる基本給に乗せれば最善なのだろうが、難しい。もし加算がなくなった時に一度上げたものを下げるということはできない」
福祉施策の流れが、施設入所型から在宅支援型へと移行し始めているが、デイサービスなど日中のみの勤務はパート、それも女性が占める割合が高い。

日中のみ働く30歳代の女性は「人手不足感がある。独身男性が家庭を持ちたいと展望を持てる給料であれば、きっと人は増える」と訴える。施設側は「正職員を雇うと赤字は避けられない。国は施設に内部留保があるというが、どこにあるのか。もう少し実情に即した対策がほしい」と語る。

■2017.4.6  看護師の引き抜き過熱 紹介業者「祝い金30万円」も
看護師を病院に紹介する「有料職業紹介ビジネス」が過熱している。看護師不足が深刻化する中、看護師に短期間での転職を促したり、転職支援金で勧誘したりするケースもある。紹介手数料の市場規模が約329億円に膨らみ、病院関係者は「行きすぎた転職勧奨で、医療現場に支障が出ている」と指摘。政府も職業安定法を改正するなど対策に乗り出した。

「雇ったばかりの看護師が次々に辞めていく」。東京都内の医療グループの理事長は憤る。4年ほど前、都内の紹介業者を通じて採用した看護師7人のうち6人が1カ月から1年で相次いで転職した。

辞めた1人は「転職をあっせんしてくれた業者から『もっと好条件の病院がある』と誘われ、転職祝い金30万円の提供を約束された」と明かした。理事長は「看護師が定着しないと患者が不安がり、安定した医療提供にも支障が出る」と訴える。

病院関係者によると、業者が病院から得る紹介手数料の相場は看護師の年収の20%程度。年収500万円なら100万円が業者に入る計算だ。看護師が早期離職した場合、業者の多くが病院に手数料を返金。返還率は勤めた期間の長さで異なり、採用1カ月で辞めれば手数料の8割、3カ月で3〜5割、6カ月で1割と下がっていくのが一般的だ。

公益社団法人「全日本病院協会」(東京・千代田)が3年前に行った病院調査でも「半年サイクルで退職を奨励する業者があり、紹介会社から看護師に一時金が出ている」「紹介会社から10人程度採用して1年後に1人しか残っていない」などの意見が寄せられた。

「転職支援金35万円プレゼント」「転職成功で最大12万円」。看護師転職支援サイトにもこうした誘い文句が躍る。

紹介ビジネスが過熱する背景にあるのが深刻な看護師不足だ。2006年の診療報酬改定で、国は入院患者7人に対し看護師1人を配置する「7対1」の新基準を設定。従来の「10対1」より診療報酬が大幅に引き上げられ、看護師争奪戦が激化した。

日本看護協会などが運営するナースセンターの求人倍率は3.17倍(15年度)。「病院は看護師の退職で基準を外れるのが一番怖い。求人広告を出す体力がない中小病院は業者を頼らざるをえない」(医療グループ理事長)という。

日本医師会総合政策研究機構の坂口一樹主任研究員は「高齢化が進む日本では看護師不足が今後も深刻化する可能性が高い。政府は業界の適正化に向けた対策を急ぐべきだ」と話している。

■2017.4.7  日本初の盲ろう者グループホームが大阪に誕生 手話ができる職員も
視覚と聴覚の両方に障害のある盲ろう者が暮らす障害者グループホーム「ミッキーハウス」が3月1日、大阪市内にオープンした。運営するNPO法人視聴覚二重障害者福祉センターすまいる(門川紳一郎理事長)にとっては1999年の発足以来の悲願だ。石塚由美子事務局長は「盲ろう者に特化したグループホーム(GH)は日本初と言われている」と話す。

GHは5階建てで2階から4階に10人が入居できる。部屋はすべて個室で家賃は光熱水費、管理費込みで月6万5000円(一部7万5000円)。食事は別途実費が必要だが希望すれば一日3食提供される。40〜60代の5人が入居した。

「盲ろう者は親と一緒に住んでも思うようにコミュニケーションを取ることができませんが、同じ障害を持つ仲間となら気兼ねせず暮らせるのでは」と石塚さん。総工費1億4000万円を用意するため、盲ろう者が先頭に立って募金活動を続けてきたという。

盲ろう者向けGHの特徴として手話などのできる職員を配置したほか、居室に点字や浮き出し文字を取り付けた。床には誘導ブロックも設けた。盲ろう者に振動、音、光などで通報するシステムも各部屋に配備した。

GHに入居する盲ろう者の中には、日中は徒歩2分で通える同法人の就労継続B型事業所に通い、和太鼓やダンスのクラブ活動、年に1度のボウリング大会など生活を楽しむことに貪欲な人もいる。

その一人、栗本養二さん(58)は「これまで自宅で母と暮らしていましたが、母は高齢で食事の準備もままならない時がありました。GHでは栄養バランスを考えた食事が用意され、何より同じ盲ろうの仲間がいます。大好きなパソコンを夜遅くまでやっても誰にも怒られないので快適です」と話している。

■2017.4.7  島根・江津の土木資材会社がトマト栽培設備を増設 障害者雇用を拡大へ
高糖度のトマト栽培を手がける島根県江津市の「江津コンクリート工業」が、同市内に栽培施設を新しく整備した。従来取り組んできた障害者雇用を、さらに拡大させる方針。既存施設の生産と合わせ、年間で1億円の売り上げを目指す。

土木資材製造が主事業の同社は、長期的な公共事業の減少を受けて新規事業の開拓を進め、平成26年から農業に参画。これまで農業用ハウス3棟(1035平方メートル)を整備し、トマト栽培に取り組んでいる。

このトマトが市場で好評を博していることから、事業の拡大を目指し、新たに7棟を連ねた1施設(1512平方メートル)を新設。完成を機に見学会を開き、関係者や住民らに公開した。

生産しているのは、大玉とミニトマトの中間のミディトマトに分類される「フルティカ」という品種で、糖度が高いのが特徴。特殊なフィルムを敷いた上に1〜2センチの土の層を作って栽培するため、細菌などの混入を防げる上、トマトは水や養分を得ようとして毛細根を多く発生させることなどから糖度がアップする。こうした厳しい環境に置いて育てることから、「スパルタ生まれの笑ちゃん」と名付けて販売している。

同社では、創業当初から障害者雇用に取り組んでおり、農業については現在7人の障害者が勤務。今回の施設整備に伴い、さらに数人程度増やす。現在年間6トンの生産態勢で、新施設が本格稼働すれば計17トンとなる見込み。「本業の土木資材製造に次ぐ主要事業に成長させたい」としている。

同社産トマトを扱う地元スーパーの担当者は「甘くて味が良く、消費者からも好評。県内の他産地は大玉が中心で競合せず、今後も期待できる」と太鼓判を押している。

■2017.4.9  両輪同時にブレーキ 静岡の板金設計会社が開発
静岡県函南町肥田の板金設計業「KS設計工業」(小柴重喜社長)が、車椅子の左右両輪に同時にかけられるブレーキ「ドラム式連動ブレーキ」の開発に成功した。従来は左右二つのブレーキを別々にかける必要があり、かけ忘れによる転倒事故多発や半身不随の人の利用の難しさから、介護現場から改善の要望があった。車椅子の安全性向上や介護士の負担軽減が期待される。

タイヤ脇のレバーを引くとドラム(円盤)に巻き付けたワイヤを通じ力が伝わり、左右両輪のブレーキが同時に作動する仕組み。当初はレバーとワイヤを直接つないだが、ワイヤにたるみが生じ力が左右不均衡となり、ブレーキがうまくかからなかった。そこでワイヤを円盤に巻き付け、たるまないよう工夫。6回の試作を重ね1年かけ開発した。受注生産で1台7万円(税抜き)。

ブレーキ開発は、三島市松本の特別養護老人ホーム「いづテラス」が、三島商工会議所の主導でファルマバレーセンターなども加わる産学官連携の異業種交流会「医看工連携・ミシマ」に要望し、同社が応じたもの。

いづテラスは1〜3月、実地試験をした。及川ゆりこ施設長(54)は「今まで狭いトイレで利用者の体を支えながら左右のレバーを引くのが大変だった。非常に便利だと職員に好評。連動ブレーキが車椅子のスタンダードになれば」と期待を寄せる。

小柴社長(58)は「利用者は不便さを諦めていたが、自動車のサイドブレーキだって左右一緒。現時点では高価だが、将来的には既存商品に組み込むなどで、安全で使いやすい連動ブレーキが世の中に広がれば」と話している。問い合わせはKS設計工業(055・978・3913)。

■2017.4.22  やまゆり園、横浜への仮移転完了 津久井やまゆり園芹が谷園舎で110人利用
19人が刺殺されるなどした相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」の利用者約40人が21日、横浜市港南区の施設に転居し、取り壊しに向けた園の仮移転が完了した。

神奈川県によると、仮移転先の「津久井やまゆり園芹が谷園舎」には既に約60人が入居。事件後に別の施設に移った約10人を含む計約110人が約4年間、芹が谷園舎の利用を予定している。

入倉かおる園長は「目標は4年後に相模原に帰って、新しい園をつくることだ」と述べ、現地での建て替えを求めた。

■2017.4.24  施設と地域、知的障害者が暮らす場は 共生社会への課題
人里離れた山あいにある施設に集団で生活する障害者。昨年7月に相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた殺傷事件は、こうした実像を浮き彫りにした。障害者が暮らす場を施設から地域へ移す流れは、どうなっているのか。

施設を離れられず 地域での受け入れに壁
大阪府南部にある富田林市の近鉄富田林駅から自動車で20分ほど走ると、金剛山をのぞむ山林に囲まれた広大な敷地が広がる。面積は約82万平方メートル。東京ディズニーランドの1・6倍にあたる。

敷地内に点在する7棟の施設に、42人の子どもを含む408人の知的障害者らが暮らしている。職員が「最寄りのコンビニまで約3キロ」と言う場所にあるのが、「こんごう福祉センター」だ。

3月末、敷地の大半を占める居住区域である「大阪府立金剛コロニー」が閉鎖された。代わりに今月1日、コロニーを運営してきた大阪府障害者福祉事業団が、介護の必要性の高い高齢者に対応した施設「にじょう」を60人の定員で開所した。48人はコロニーから移り、地域での生活が難しくなった高齢の障害者も新たに入所してきた。

昼下がり、「にじょう」の一室から高倉健の「唐獅子牡丹(ぼたん)」など1960〜70年代の流行歌が聞こえてきた。昭和歌謡が好きな男性(73)が集めたCDだ。
男性には知的障害がある。若い頃は自動車やねじの工場で働いていたが、78年、34歳の時に失業した。それを機に、両親に代わって面倒をみていた親類が金剛コロニーへの入所を依頼。それ以来、39年にわたって暮らしている。
「これな、妹と住んでた家やねん」。男性は壁に貼られた絵を指さした。平屋建ての建物と2人の人物が描かれている。ただ、今は「ここがええ」という。

金剛コロニーは大阪府吹田市で万博が開かれた70年に開所され、当時は定員850人で国内最大規模。「北の万博、南のコロニー」と呼ぶ人もいた。

介護を担う家族の負担を解消し、「親亡き後」も子の安心した暮らしを願う親の思いに応えるのがコロニーだった。70年代には都道府県が各地に作り、全国でコロニーブームが起きた。

だが、地域から隔離される施設のあり方への疑問はあった。81年の国際障害者年を機に障害者も地域で暮らす「ノーマライゼーション」の考えが広がると、「施設から地域へ」という動きが出てきた。

事業団は2003年度から、高齢者向けも含め障害者が少人数で共同生活するグループホームを地域に本格的に整備。16年度までに491人が移った。

別の高齢者棟で暮らす石賀良三さん(68)は6年前、グループホームに移りたいと希望したが、障害が重くて受け入れられなかった。5年前に急性膵炎を患い、視力や聴力は衰え、のみ込みも難しくなってきた。

妹の池田隆子さん(65)は、こう語る。「地域に出て元気でなくなった時、ずっといられるわけではない。高齢者施設も病院も障害者を受け入れてくれるかわからない。家族も高齢でみられない。より安心な場が施設と考える家族は多いのではないでしょうか」

施設を出た障害者は08〜12年には全国に5千人前後いたが、13年以降は2千人台にとどまる。厚生労働省の担当者は「地域移行を進めた結果、障害が重度だったり高齢だったりする人が施設に残った。新たに地域移行できる人は近年、減っている」と分析する。

とりわけ地域移行の流れから取り残されがちなのが高齢者だ。金剛コロニーの高齢化率は06年に約6%だったが、今年3月時点では約30%に。高齢者対応の「にじょう」ができた背景には、そんな事情がある。

事業団の久保田全孝理事長(62)は「地域移行は進めるが、入所者の高齢化や地域に移った人が高齢になって再入所する現実への対策が必要。地域と連携し、一時的な利用など地域生活を支える安全網の役割を果たす施設をめざす」と話す。

■市街地で共同生活 行動広がる
在宅生活は難しいが、施設ではなく地域で生活したい障害者の住まいとしてカギを握るのは、グループホームだ。1989年に国が新たな住まいの選択肢として制度化した。日本グループホーム学会によると、全国に約2万カ所あり、昨年12月時点で10万7千人ほどの障害者が生活している。

重症心身障害児者向けの施設を運営する社会福祉法人びわこ学園が1年前に整備した滋賀県野洲市のグループホーム「えまい」。平日の午後4時すぎ、電動車いすに乗った寺田美智夫さん(51)が、作業所から送迎バスで帰ってきた。木造平屋建てでリビングを囲んで個室があり、8人の仲間と暮らす。

重度の知的障害と身体障害がある寺田さんは父を亡くしてから10年以上を施設で過ごしたが、外出できるのは年に数回程度だった。昨年6月に「えまい」に移った。今は、週に2日は学園の施設に通い、3日は別法人の作業所でペットボトルのふたを仕分ける仕事をする。生まれて初めて賃金やボーナスをもらった。

「朝起きて昼は外で活動し、夜はホームで過ごす。生活にメリハリや自由がある」と寺田さん。夜のトイレ介助のタイミングや焼酎を飲む日、ネット通販の注文などを自分の意思で決められるようになった。

我が子の将来を考えた親たちがグループホームを立ち上げたケースもある。東京都練馬区のグループホーム「とぅもろう」だ。

当初は区に整備を求めたが実現しなかったため、7千万円の補助を受け、資金を借り入れてNPOを設立。昨年4月から運営を始めた。今は20〜30代を中心に重い知的障害と身体障害を併せ持つ9人が利用。夜勤の看護師を置き、医療的ケアにも対応する。

設立に関わった飛田悦子施設長(55)は「都内では施設も不足しており、将来、遠く離れた県の施設に入ることになるのではないか、という心配が親たちにあった」と解説する。

課題は介護人材の確保だ。びわこ学園の職員、南方孝弘さん(51)は「重い障害のある人を支えるには手厚い態勢が必要。そのために報酬が増える仕組みを整えてほしい」と訴える。

津久井やまゆり園の事件後、神奈川県は施設の建て替えを決めたが、障害者団体などは地域移行に逆行するとして反対している。

知的障害者と家族らでつくる「全国手をつなぐ育成会連合会」の久保厚子会長は「障害がある人が望む地域での暮らし方は様々。グループホームの整備は急務だが、障害のない人たちと生活するシェアハウスなど多様な選択肢を増やすことも重要だ」と提案する。

大阪府立大の三田優子・准教授(障害者福祉)は施設の役割を「一時的に専門職が関わる拠点」と評価しつつ、こう指摘する。「障害のある人も地域で当たり前に暮らすのが本来の姿。障害のある人の魅力を発見して交流が生まれ、障害のない人も支えられる。こうした実践を積み重ねることが、やまゆり園の事件に象徴される障害者を抹殺するような考えをなくし、共生社会につながるはずだ」

■2017.4.25  インカム、高齢者施設で導入 介護効率アップに期待
静岡県内の高齢者施設で、職員同士の連絡にイヤホンマイク付き携帯無線機(インカム)を導入する取り組みが始まっている。職員間の連絡を速やかに行い、業務を効率化するのが狙い。職員の負担減や不安感解消にも効果があり、施設側は「働きやすい施設にし、不足する人材の確保につなげたい」と期待する。

浜松市浜北区の介護老人保健施設「きらりの森」は2016年7月、県外施設の例を参考に、インカム20台を約40万円で購入した。3階建ての施設内で働く介護士や看護師、事務職員がほぼ全員、勤務中は身に着ける。「○号室からコール。対応できますか」「排せつ対応中。着替えを持ってきてほしい」。介護や見守りで人手が必要な場合は、インカムを通じて一斉に呼び掛ける。

当初はコードなどが作業の邪魔になると違和感を訴える声もあったが、次第に「連絡がスムーズ」と好意的に受け止められるようになった。松島浩司介護士長(56)は「認知症の方を介助中に応援を呼ぶ場合など、その場を離れられない時に便利」と語る。川根敏子看護師長(59)も「これまでは大声で職員を呼んでいた。少しは静かな環境になったのでは」と入所者への配慮も強調する。

静岡市葵区の特別養護老人ホーム「竜爪園」は、16年10月から取り入れた。現場の介護職だけでなく、生活相談員も装着し、介護職員が入所者家族から質問を受けた場合にも対応する。斉藤文彦園長(48)は「介護職員はどこも取り合い。わずかでも負担を減らし、職場として選んでもらうことになれば」と願う。

県福祉指導課によると、両施設以外に県内数カ所で導入例があり、「職員の少ない夜間に、迅速な連絡が可能になるなど、効果があると聞いている」と普及を見守っている。

■2017.4.30  特別支援学校、3400教室不足 在籍者が急増
障害が比較的重い子どもが通う「特別支援学校」で深刻な教室不足が続き、2016年10月現在、3430教室が足りないことが文部科学省の調べでわかった。特別支援学校の在籍者が近年急増し、教室数が追いついていない。同省は教育に支障が出るおそれがあるとして、教育委員会に補助金の活用などによる教室不足の解消を求めている。

特別支援学校小、中学部の1学級は6人が上限で、重複障害の場合は3人。幼稚部から高等部までの在籍者は15年に13万8千人で、10年で1・36倍になった。特に知的障害のある子が増え、全体の9割を占める。比較的障害が軽い子が通う小中学校の特別支援学級の在籍者も15年に20万1千人で、10年で約2倍になった。

背景には、障害の診断が普及したことがある。障害があると診断されると、支援が得やすい教育を望む保護者が増えたとみられ、「特別支援教育への理解が深まった」(文科省担当者)との見方がある。

一方、支援が必要な子に対応できていない小中学校の課題を指摘する声もある。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」(東京)によると、通常の学級を希望した知的障害児や発達障害児の保護者が、教育委員会や学校から「(通常学級では)いじめられるかもしれない」「高学年になると勉強が難しくなる」などとして特別支援教育を提案されるケースがあるという。

 

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