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残しておきたい福祉ニュース

 2016年 
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 2016.12. 2 保育園が開園できない負の連鎖 知らない子の声はノイズか  「子供の遊ぶ声がうるさい」「地価が下がる」といった住民の反対
 2016.12. 4 入所者の全遺産、施設が相続 特別縁故者に認定  社会福祉法人九頭竜厚生事業団
 2016.12. 4 滋賀の縁創造実践センターが実施した「津久井やまゆり園事件緊急アンケート調査」
 2016.12.16 平成27年度都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)
 2016.12.21 高齢者施設の避難計画作成など義務化へ
 2016.12.24 旧日本軍、視覚障害者も戦地へ 兵士をマッサージ
 2016.12.24 障害者への理解、絵本で深めて 京都府の鳥・オオミズナギドリ主人公に制作 絵本「ぬーたんがとぶ日」
 2016.12.27 津久井やまゆり園で「箝口令」 地域との絆無視した対応に疑問
 2016.12.28 「特養カット」はイヤ! 介護施設に赴く訪問理美容、高齢化で市場広がる
 2016.12.29 地域の絆で死者ゼロ=介護施設、勧告前に避難 近所同士、声掛け合う・糸魚川大火


■2016.12.2  保育園が開園できない負の連鎖 知らない子の声はノイズか  「子供の遊ぶ声がうるさい」「地価が下がる」といった住民の反対
2年前に首都圏で起きた事件が保育園関係者を震え上がらせた。男が近所に住む保育園児の父親をオノで脅して逮捕されたのだ。

捕まった40代の無職の男は、頻繁に役所や保育園に「園児の声がうるさい。親のマナーが悪い」と電話でクレームを入れ、事件前日には「対応しないなら園児の首を切る」と脅した。
自治体は、警備員を数カ月、保育園に常駐させたほか、警察関係者も立ち会う保護者説明会を開催。防犯カメラも設置し、門やフェンスもかさ上げした。

こうした例は極端にしても、「子供の遊ぶ声がうるさい」「地価が下がる」といった住民の反対により、東京都杉並区や千葉県市川市などで保育園開園の断念や延期が相次いだ。連鎖は首都圏にとどまらない。


名古屋市中川区のアパート跡地。ここでも、来年4月に予定された保育園開園が取りやめとなった。
「どうも業者(社会福祉法人)が『地元の反対はなかった』と区役所に話を持っていったようなんです。すると、近隣から『初耳だ』と抗議の声が上がった」。40代の男性は話す。

社会福祉法人側は8月から住民説明会を開き、園舎の位置を変えたり、駐車場を離れた場所に設けて送迎は徒歩にしたりするなど譲歩案を出したが、最後まで平行線のままだった。
男性によると、強硬に反対していたのは、古くからの地元住民よりも新興住宅に住む子持ちの家庭が多かったという。「古い住民には騒音なんてお互いさまですが、これだけ反対の声が大きくなると、賛成とはいいにくい…」

東京都杉並区で保育園を運営するNPO法人「フローレンス」(東京都千代田区)の代表理事、駒崎弘樹さん(37)は、反対運動が近年目立ってきた背景に、立地条件が厳しくなっていることを挙げる。
駒崎さんは、保育所の平均定員108人、建築平均面積674平方メートルを確保できる物件がいくつあるかを検索したが、23区内でもほとんど見つからなかった。
「これまで保育所がなかったエリアに造らざるを得ない。住民とのコンタクトポイント(接触地)が増えているのではないか」


それにしても、地域や国の未来を担う子供らの声を“ノイズ”と受け止める大人の心理とは何か。「知っている子はかわいいが、知らない子の声は騒音になる。それだけ人間関係が遮断されている。開園断念の報道に接し、自分も反対していいのだと同調する心理もあるのでは」と木下勇・千葉大大学院教授は話す。
保育所などの騒音対策として厚生労働省は27年度補正予算で、防音壁設置の補助金9億円を計上した。無論、それだけでは根本解決にはならない。

東京都足立区の「バンビ保育園」では今年3月、近隣の苦情を受けて高さ3メートルほどの防音壁を設置した。
「ただの防音壁では殺風景」。園長の鈴木圭子さん(69)は壁面緑化の業者に依頼し、パンジーやシクラメンの花で壁一面を飾った。すると近所の人から「きれいね」と声をかけられることが増えた。

保育園は、行事への地域住民の参加も呼びかけている。「交流がなければ子供の声は騒音ですが、顔を知っていれば『◯◯ちゃん』になる。一緒に考えることが大切では」と鈴木さん。
向かいにあるコンビニエンスストアでは、毎朝のように立って、登園する子供たちを見守るお年寄りが現れた。「その方は全員の園児の名前と顔を覚えています」。当然、クリスマス会にも卒園式にも、その男性のほほ笑む姿があった。

「大きくなったわね」
フィンランドの首都、ヘルシンキ郊外の子育て支援施設。保健師のピリオ・ラングドンさん(52)は、赤ちゃんの体重を量り終えると、見守る母親のパウラ・ルアマネンさん(35)にほほ笑んだ。

「疲れてない?」
ルアマネンさんには6歳の長男を筆頭に長女(4)、次男(1)と3人の子供がいる。子供の眠りが浅い、食事を拒む…。子育ての相談は、ラングドンさんにずっとしてきた。
フィンランドでは、妊娠期から子供の就学まで、1人の保健師が母親やその家族に寄り添う。「実の親よりも信頼できる」とルアマネンさんは笑う。
「ネウボラ(助言の場)」−。フィンランドにはそう呼ばれる子育て支援施設が約850カ所ある。

日本では、妊婦健診は産科、産後の乳児健診や予防接種は小児科と分散されているが、フィンランドではネウボラに一元化。妊娠の兆候が分かると病院ではなくネウボラへ行く。保健師を基点に医師や保育士、行政職員らが連携する。

「心配せずに子供を産んでいいんだという『安心感』が社会にある」。同国で出産経験のある50代の日本人女性は話す。対話に重きを置いた支援が母親の孤立化を防ぎ、虐待などの問題は起こりにくいという。

ネウボラと母親をつなぐために国は、ベビー服や哺乳瓶、布おむつなど約50点を詰め合わせた“プレゼント”も用意する。妊婦健診の受診を受け取りの条件にしており、受診率は99%超。それを入り口に支援を行き渡らせ、「産みやすい社会」を実現している。

世界銀行によると、フィンランドの女性が生涯に産む子供の数の平均(合計特殊出生率)は2014年時点で1・75。先進国の中で高水準を維持している。
「希望出生率1・8を実現する」。昨年9月、自民党本部。安倍晋三首相は子育て支援の目標を表明した。希望出生率とは、子供を欲しいと考える夫婦の希望が全てかなうと実現できる水準。だが、日本の合計特殊出生率(平成26年)は1・42にとどまっている。

「現実」と「希望」の乖離(かいり)。待機児童問題や家計の負担など子育てへの不安から、2人目や3人目を諦める夫婦は少なくない。

「大きい家族に憧れていた」。フランス・パリで、9〜15歳の子供3人を育てる団体職員、アビガエル・ベローさん(47)は話す。同国は1990年代半ばに1・73まで落ち込んだ合計特殊出生率を2014年には1・99とV字回復させた西欧一の出産大国だ。

育児関連の手当や補助は30種以上。年収710万円以下で20歳未満の子供が2人いる世帯には月129ユーロ(約1万6千円)、3人だと同295ユーロ(約3万5600円)。小学生から高校生まで子供に年363〜396ユーロ(約4万4千〜4万8千円)を支給。子供3人以上の家族では、国鉄料金が最大75%引き、電気料金やプール、美術館入場料など割引制度もめじろ押しだ。

政府は産後女性に「産前と同等のポストと報酬」を保証するよう企業に義務づけ、職場復帰を促す。ベローさんは部下8人を抱える労務責任者。「産後3カ月以内に職場復帰してきたが、3人目からが大変だった」。家族手当や保母費用補助に助けられたという。



経済協力開発機構(OECD)によると、13年の日本の子育て支援など家族向け社会保障支出は対国内総生産(GDP)比で1・3%。フィンランドは3・2%、フランスは2・9%と日本の倍以上。その数字は、国家が子供に向けるまなざしを反映している。

日本では親から連鎖する「子供の貧困」も問題だ。日本財団の試算によると、現在15歳の子供1学年だけでも貧困対策を怠れば、社会が被る経済的損失は約2兆9千億円に上る。

フィンランドの人口は約540万人、フランスは約6600万人。1億人を超す日本に比べ、国を支える一人一人の役割は重く、人を育てる意識も高い。国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの砂田薫主幹研究員(社会情報学)は語る。「日本も意識の高い国の長所を学び取り、人に投資すべきだ。将来の国力の鍵を握るのは、子供たちなのだから」=「にっぽん再構築」おわり

■2016.12.4  入所者の全遺産、施設が相続 特別縁故者に認定  社会福祉法人九頭竜厚生事業団
福井県の障害者支援施設に35年間入所し、68歳で亡くなった身寄りのない男性の遺産をめぐり、施設を運営する社会福祉法人が特別縁故者への認定を求めた即時抗告審で、名古屋高裁金沢支部(内藤正之裁判長)は訴えを却下した福井家裁の決定を取り消し、施設に全ての相続を認める決定を出したことが3日、分かった。

相続財産管理人の佐藤辰弥弁護士によると、施設側が特別縁故者に認定されるのは全国でも珍しい。「入所年数や施設のきめ細かなサービスが認定につながった。親身な介護を高裁が認めたことは、重労働の介護職の人の希望になる」と話した。

男性には相続人がいないため、遺産の約2200万円は通常、国庫に収納される。佐藤弁護士の助言もあり、社会福祉法人「九頭竜厚生事業団」が申し立てていた。

決定は、男性の財産形成は施設利用料の安さが大きく影響したと指摘。さらに、専用リフト購入や、葬儀や永代供養などのサービスが「人間としての尊厳を保ち、快適に暮らせるよう配慮されており、通常期待されるレベルを超えていた。近親者に匹敵、あるいはそれ以上」だとした。

男性は施設に昭和55年に入所。知的障害があり、歩行困難な状態だった。数年前からは寝たきりで、平成27年2月に施設で死亡した。
施設の牧野敏孝副所長は「利用者に質の高い生活を提供するために使いたい」と話している。
福井家裁への申し立てでは「施設と利用者の関係を超える特別なものではなかった」と却下されていた。

◇特別縁故者
亡くなった人に相続人がいない場合、生計を同じくしていた人や療養看護した人、施設などに特別の縁故があったと家庭裁判所が認めると、遺産の一部または全部が分与されると民法が規定している。特別縁故者がいない場合は遺産は国庫に収納される。

■2016.12.4  滋賀の縁創造実践センターが実施した「津久井やまゆり園事件緊急アンケート調査」
津久井やまゆり園事件緊急アンケート調査結果

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http://social-welfare.rgr.jp/storage/Questionnaire&survey01.pdf


20%で利用者「不安」 相模原事件の影響
7月に相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で19人が刺殺され27人が負傷した事件を受け、県内770カ所の障害福祉サービス事業所を対象に実施された緊急アンケート調査(195施設が回答)の結果が25日、公表された。事件の影響で20%の施設の利用者が「夜がこわい」「障害者はいらない(存在な)のか」などと不安や悩みを抱き、46%の施設が職員を対象に有事の行動などについての説明や議論をしたという。

アンケートは県内の福祉分野の法人などで作る「滋賀の縁(えにし)創造実践センター」が8月15〜31日、各施設に書面を送付し、回答を冊子形式にまとめた。この日、栗東市で開かれた「しが地域福祉フォーラム」(県社会福祉協議会など主催)で配布した。

「(利用者や家族で)不安や悩みができ、日常生活が変化した人はいるか」との問いでは「いる」との回答が利用者で20%、家族で18%あった。「(津久井やまゆり園の事件の)容疑者が、元職員ということで職員に対する不安感を持つ方もいた」などの記述があった。
「事業所(施設)として何かしらアクションを起こしたか」との問いには、利用者に対してが27%、家族に対しては28%が「起こした」と回答。「機関紙で思いを発信した」「保護者会で話をした」などの取り組みが並んだ。
「防犯体制や管理上の見直しをしたか」との問いでは33%が「した」とし、「宿直部屋の場所を建物中央に変更した」などの回答があった。

アンケートの内容は今後、同センターのホームページなどで公表する予定。問い合わせは同センター事務局の県社会福祉協議会

■2016.12.16  平成27年度都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)
平成27年4月1日から平成28年3月31日調査


平成27年度都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000145882.html


平成27年度都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12203000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Shougaifukushika/0000145877.pdf


平成27年度 障害者虐待対応状況調査〈障害者福祉施設従事者等による虐待〉
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12203000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Shougaifukushika/0000145879.pdf


平成27年度 障害者虐待防止法対応状況調査報告書
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12203000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Shougaifukushika/0000145880.pdf

■2016.12.21  高齢者施設の避難計画作成など義務化へ
ことし8月の台風10号による大雨で、岩手県で川が氾濫して、高齢者施設に入所していたお年寄り9人が死亡したことなどを受けて、国土交通省は、専門家などによる検討会の答申をふまえ、洪水などの危険性のある全国の高齢者施設に対し、避難計画作りや定期的な避難訓練の実施を義務づける方針を固めた。

ことし8月の台風10号などによる大雨では、北海道や東北の中小の河川で氾濫や堤防の決壊が相次ぎ、このうち岩手県岩泉町では高齢者のグループホームが浸水して9人が死亡するなど、各地で大きな被害が出た。

これを受けて開かれていた国の検討会は、20日整備が進んでいない中小河川の具体的な対策を盛り込んだ答申を取りまとめた。この中では、過去の浸水範囲をあらかじめ公表したうえで、簡易型の水位計や雨量の情報を使って洪水の危険性を知らせることや自然の地形を活用した宅地を囲う堤防や、宅地のかさ上げなど、通常よりも費用を抑えた対策の検討なども必要だとしている。そのうえで、高齢者施設や障害者施設などについては、洪水を想定した避難計画の促進や避難訓練の徹底を求めた。

これを受けて国土交通省は、洪水や土砂災害の危険性の高い高齢者施設や障害者施設などについて、避難計画作りや定期的な避難訓練の実施を新たに義務づける方針を固めた。来年の通常国会に水防法など、関係する法律の改正案を提出することにする。

検討会の座長を務める東京大学大学院の小池俊雄教授は「今後は関係するほかの省庁や機関と協力して避難計画作りなどを進めていくことが重要だ」と話す。

■2016.12.24  旧日本軍、視覚障害者も戦地へ 兵士をマッサージ
太平洋戦争下、旧日本軍に属し、戦地や基地に赴いた視覚障害者たちがいた。航空隊員らの疲れを癒やすためにマッサージをする「海軍技療手」。弱視の近藤昭二さん(89)=明石市大蔵町=は福岡県の旧築城(ついき)海軍航空隊に配属された。障害者が「戦力にならない」とみなされ、肩身の狭い思いをしていた時代。近藤さんは「愛国心から志願したが、戦争だけはするもんじゃない」と振り返る。(藤村有希子)


近藤さんは1927(昭和2)年、兵庫県育波村(現淡路市)生まれ。幼い頃から右目が見えず、左目は視力0・3。明石市に転居し、県立盲学校(現県立視覚特別支援学校、神戸市垂水区)の中等部、研究科に通った。
戦時は国を挙げた総力戦となり、視覚障害者も協力した。鍼灸(しんきゅう)マッサージ師は工場で働く人らに施術したほか、障害者自身が軍需工場に動員されることもあった。

書籍「視覚障害教育百年のあゆみ」(第一法規出版)などによると、海軍技療手は42(昭和17)年、東京都鍼按(しんあん)師会が希望者を募って訓練したのが始まりだった。やがて旧海軍省直轄になり、全国的に募集され、7期441人が養成された。

近藤さんは新聞で技療手の活動を知り、「国の役に立ちたい」として、44(同19)年4月、4期生として東京・神田の訓練所に入った。前線への派遣を想定し、兵士さながらの落下傘訓練や、夜通しの山登りなどが課せられた。食事はおかゆか、雑炊のみ。10キロやせた。
志願とはいえ「晩になるとつらくて涙が出た」。だが故郷をたつ時、知人らが見送ってくれた。「逃げて帰るわけにいかんかった」
同年7月、福岡県八津田村(現築上町)の旧築城海軍航空隊に配属。航空隊員らの首や肩を20〜30分間もみほぐす。「施術中、話はほとんどせん。疲れて寝てしまう人が多くて」。上官からチップを渡されたこともあった。
「曳火(えいか)高性能爆弾恐るるに足らづ」。45(昭和20)年8月6日、航空隊の黒板にそう記された。広島に原爆が投下されたと知った。

戦後は鍼灸マッサージ業で生計を立て、兵庫県鍼灸マッサージ師会の常務理事などを務めた。3人の子と、6人の孫に恵まれた。
訓練所時代の同期生たちはフィリピンなどで戦死した。「彼らが浮かばれん。なんぼ考えても。こうして体験を話すために、私は生かされたのか」。今も朝晩、仲間の供養を続ける。

■2016.12.24  障害者への理解、絵本で深めて 京都府の鳥・オオミズナギドリ主人公に制作 絵本「ぬーたんがとぶ日」
舞鶴の社福法人みずなぎ学園

障害者への理解を深めてもらおうと、社会福祉法人みずなぎ学園(舞鶴市鹿原)が絵本「ぬーたんがとぶ日」を制作した。府の鳥・オオミズナギドリの「ぬーたん」を主人公に飛び立つのが苦手でも、助けがあれば飛べることを表現した。同園の鈴木令子園長は「『ぬーたん』と(登場人物の)少年から支え合うことの大切さを感じてほしい」などと話している。

同学園では、知的障害者ら約250人が通所施設や入所施設を利用。「ぬーたん」は利用者の30代の女性が描いた鳥のキャラクター。利用者が刺繍(ししゅう)などをつくる度に「これ縫(ぬ)うたんや」などと話していることにちなみ、キャラクターを「ぬーたん」と命名した。

オオミズナギドリは舞鶴市沖の国の天然記念物・冠島に生息。地面から飛び立つことができず、斜面を走ったり、高い場所から飛び降りたりしないと飛ぶことができないとされる。
絵本では、ハンディキャップのある人を「ぬーたん」に投影。うまく飛べない「ぬーたん」を少年が後押しすることで飛び立つ姿を描く。
職員が物語を考え、利用者が作った刺繍など手芸品の写真を絵本の背景に取り入れた。今年3月ごろに制作を始めたが、今年7月、相模原市で多くの障害者が殺傷される事件が発生。障害者への理解を求めることの重要性を再認識し、制作を急いだという。

絵本はカラー刷りの正方形(縦横21センチ)で1万部を発行。市内の小中学校や幼稚園、保育所などに配布するほか、1部650円で販売する。

問い合わせは同学園(電)0773-63-5030

■2016.12.27  津久井やまゆり園で「箝口令」 地域との絆無視した対応に疑問
「津久井で大変なことが起きた。死者が多数いるようだ」。7月26日午前5時ごろ、先輩記者の電話で飛び起きた。すぐさま車に乗り込み、向かった先は相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」。当時は夏の高校野球県大会の最中で、事件取材から離れていたこともあり、現場に近づくにつれて大きな緊張が襲ってきたことを覚えている。

施設の元職員、植松聖(さとし)容疑者(26)=鑑定留置中=が入居者と施設職員を次々と刃物で刺し殺すなどした事件。死者19人は単独犯としては戦後最悪レベルで、さらに27人が重軽傷を負うという、まさに未曽有の惨事だった。山あいの静かな地域にある施設には多くの警察官と報道陣が集まり、上空をひっきりなしにヘリコプターが舞った。

施設内で何が起きたのか。周辺の住民らに声をかけても、正確な情報はなかなか集まらなかった。施設を出入りする職員らしき人物はいずれも取材に応じず、足早に立ち去った。
後日分かったことだが、複数の関係者によると、施設側は当時、職員らに“箝口(かんこう)令”を敷いていた。マスコミはおろか、入居者の家族や知人も対象とされ、「友人は生きていますか」という切実な問い合わせにも、「お答えできません」と応じなかったという。

こうした対応はしばらく続いた。施設前に設置された献花台に花をたむけたあと、「誰が亡くなったのかも分からない。確認するすべもない」と涙する人にも出くわした。

「悲しみ共有させて」
取材を通じて感じたのは、やまゆり園と地域住民との絆の深さだ。
施設での夏祭りには地域の人々が足を運び、入居者らと一緒に楽しんだ。ある日、散歩に出かけた入居者の1人がいなくなったときは、「何か手伝えないか」と職員とともに夜通し捜索。翌朝、散歩コースから遠く離れた相模川の川べりにうずくまっている入居者を見つけたのは、地域住民だった。

それゆえ、あのとき何が起こったのか、誰が亡くなったのか、できるだけ早く知りたかったという。「毎日あいさつを交わしていたあの子はどうなった?」「夏祭りで一緒に焼きそばを食べたあの人は?」。園近くに住む男性は「悲しみを共有させてほしい」とつぶやいた。
「個人情報」を旗印に、現在も園の対応は何ら変わっていない。家族らは、定期的に開かれる家族会などで互いに知り合い、情報収集をしている。家族以外の人々はいまだ、近況を把握できない状況が続く。

過剰とも思える情報規制の意図は今も分からない。
「息子たちのため」
「障害者なんていなくなってしまえばいい」「障害者は生きている意味がない」。捜査関係者によると、植松容疑者は逮捕後、一貫してこう、障害者への差別的な供述を続けたという。
入居者家族らはこの言動をどう感じているのか。疑問が募ったときに出会ったのが、尾野剛志さん(73)とチキ子さん(75)夫妻だった。
息子の一矢さん(43)は、事件で一時意識不明の重体に陥った。孫ほど年が離れている自分に夫妻は、今の心境、息子と園との生活など、ありのままを語ってくれた。
「犯人は絶対に許せない。息子や入居者家族のために、私たちは声を上げていく」。事件発生から5カ月が過ぎた。いまだ命を奪われた19人の遺族の声を自分は聞き取れていない。

真相を伝える方法において、当事者の生の声に勝るものはない。県警が示した事件内容を伝える広報文には、「死者」の欄に「A子さん」「B子さん」などと記載されていた。
やるべきことは残されている。埋もれている怒りや悲しみを社会に伝える取材である。


相模原殺傷事件
7月26日未明、相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」で、元職員の植松聖容疑者(26)=殺人容疑で再逮捕=が入居者19人を刺殺、職員を含む27人に重軽傷を負わせた事件。「障害者はいなくなればいい」などの差別的な発言が波紋を呼んだ。事件を受け、県は園の建て替えを正式決定。費用は約60億〜80億円と試算され、建て替えが終わる平成32年まで入居者らは、横浜市港南区の県立障害者施設「ひばりが丘学園」に仮入居する。

■2016.12.28  「特養カット」はイヤ! 介護施設に赴く訪問理美容、高齢化で市場広がる
急速な高齢化を背景に、お年寄りの暮らす自宅や介護施設に赴いて髪を切る「訪問理美容」の市場が拡大している。理美容師は予約が入った時だけ出張するため、美容室などで毎日フルタイムで働く必要がない。結婚や出産で退職した女性美容師らの復職の受け皿としても注目されている。

「根もとの白髪が目立たないように」。大阪市港区の有料老人ホームで、入居女性(91)が注文を付けた。
相手はトミーズ・スター社(東京)が週2回派遣している訪問理美容の美容師、中村勇貴さん(27)だ。中村さんは「笑顔になってもらえるのでやりがいを感じる」と語る。ホームを運営するオリックス・リビングは「入所前の生活と同じように好きな髪形で生活してもらいたい」との考えから、プロの美容師を招いている。

福祉施設では従来、ボランティアが高齢者の散髪をすることが多く、定番の短い髪形は“特養カット”と呼ばれた。しかし、高度成長期やバブル期を経験した世代は、生活の質を重視する考え方が強い。お金を払ってでも美容師にカットしてほしい人が多いという。

近畿2府4県などで訪問理美容を手がける「ジェイアンドシー」(大阪市福島区)の吉末栄子取締役は「ここ5年で訪問理美容の需要が確実に拡大している」と指摘する。2012年に参入した日本介護システム(同市中央区)の大友俊雄社長も「売り上げは毎年5割増のペース」と話す。

調査会社の矢野経済研究所によると、15年度の理美容市場は前年度比0・5%減の2兆1658億円だった。16年度も縮小し、5年前と比べ3・8%減の見通しだ。そんな中、訪問理美容は貴重な成長分野で、市場規模が100億円に達したとの見方もある。

訪問理美容は働きやすい職場としても関心を集めている。美容室では1日に十数時間働くことも珍しくないが、店舗で待機する必要がない。結婚や出産を機に離職した美容師や理容師も仕事と家庭を両立しやすく、復職のハードルが低い。

リクルートジョブズ・ジョブズリサーチセンターの宇佐川邦子氏は「きれいになりたいお年寄りの要望をかなえる訪問理美容は、美容師に大きな『やりがい』を提供している。予約がある時だけ働くことも可能で、理容師や美容師を確保しやすく、今後も市場が拡大するだろう」と話している。

■2016.12.29  地域の絆で死者ゼロ=介護施設、勧告前に避難 近所同士、声掛け合う・糸魚川大火
商店街約4万平方メートルを焼いた新潟県糸魚川市の大規模火災は死者ゼロだった。

近くの介護施設は延焼が広がる中、避難勧告の前に入所者全員が施設を離れた。住民が地域の絆で互いに声を掛け、助け合った実態が浮かび上がった。
火災が発生した22日午前、介護施設の職員土田陽子さん(43)は休日で、自宅から駆け付けた。16人の入所者は70〜90歳代で全員が車いす。
「(施設の)社長の奥さんに連絡したら、避難のタクシーを用意してくれた」と話す。タクシーは消防車が消火中で近づけず、約100メートル先に止まった。職員とタクシーまで車いすを押していると、周囲の住民が手を貸してくれた。

「どこに誰がいて、お年寄りがいるか、近所同士が分かる関係。取引業者も来てくれた」。市の避難勧告は午後0時20分に出たが、午前11時半ごろには全員が避難先に向かった。土田さんは「寝たきりの入所者もいる。判断が遅かったらと思うとぞっとする」と振り返った。

自宅アパートが全焼した金子洋子さん(72)は足が不自由でヘルパーを利用。当日は訪問日でなかったが、「急いで逃げて」とヘルパーから電話を受けた。金子さんは「そういう付き合いがあったから、何とか逃げられた」と感謝した。

地区の区長を務める白沢賢二さん(75)によると、この地域は昭和に経験した大火の経験から、「南風が吹いたら気を付けろ」という言い伝えがあるという。今回の火災では声を掛け合って避難する姿があり、「ここは狭い地域だから、親戚や友人を皆心配する。福祉施設の対応も適切だった」と話した。

 

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