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 2016. 7. 6 自治体が運営先を公募する特別養護老人ホーム  職員不足を理由に辞退するケースが相次いでいる
 2016. 7. 6 ハンセン病差別撤廃 ローマ教皇を動かした日本人の「直訴」  日本財団会長笹川陽平


■2016.7.6  自治体が運営先を公募する特別養護老人ホーム  職員不足を理由に辞退するケースが相次いでいる
自治体が運営先を公募する特別養護老人ホーム(特養)を巡り、選定された事業者が職員不足を理由に辞退するケースが相次いでいる。毎日新聞が調べたところ、近畿では少なくとも大阪府豊中市と京都市であった。参院選では介護の受け皿作りも論点となっているが、深刻な人材不足をどう解消するかが課題となりそうだ。

豊中市では、特養(定員29人)とショートステイ(同11人)などの複合施設の公募が3回頓挫した。

まず、2014年度に選定した事業者が資金不足を理由に辞退。再度公募したが、応募した事業者の財務状況に不安があり選定できなかった。3回目で別の事業者を選んだものの、今年3月に「職員確保の見通しが不透明」などと辞退された。市は現在、4回目の公募を行っているが、開設は当初の予定より2年遅れる見通しだという。

15年度に公募した京都市は、特養(同29人)とグループホーム(同18人)の建設計画を示した社会福祉法人を選んだ。しかし、直後に辞退の申し出を受けた。この社福法人は取材に「建設予定地の近くに団地があり、職員が集まると見込んでいたが、住民の高齢化が進んで人材確保が難しかった」と明かした。市は改めて17年度までに事業者を決める方針だ。

厚生労働省などによると、介護職員は毎年30万人が就職するが、22万人が離職する。「収入が少ない」「職場の人間関係がしんどい」などが主な退職理由だ。介護職員の有効求人倍率(5月)は2・71倍で全産業の1・11倍をはるかに上回る。20年代初頭には25万人の職員が不足するとみられている。

紹介、引き抜き 飛び交う現金

慢性的な人員不足にあえぐ社会福祉法人には、あっせん業者から頻繁に売り込みが届く。

大阪市の社福法人事務長によると、2年前に1人20万〜30万円だった紹介料が、今は50万〜60万円。引き抜きも起き、勧誘した職員と応じた人にそれぞれ現金3万円を渡す法人もあるという。

職員を定着させるための取り組みに力を入れる施設もみられる。

京都市南区の特養「ビハーラ十条」では、先輩職員が新人に3カ月寄り添って指導する。訪ねると、80代女性の食事を介助していた新人の佐藤友希(ゆき)さん(25)に、6年目の高橋欣大(やすひろ)さん(28)が「もっと水分を多めにあげて」などと声を掛けていた。高橋さんは「そばでアドバイスをしたり、悩みを聞いたりすることで誰もが感じる不安を解消してあげたい」と話す。

政府は5月、全産業に比べて9万円程度低い介護職員の月給を2017年度から1万円引き上げるプランを発表した。ビハーラ十条の岡本康宏施設長(38)は「介護職はやりがいが大事。仕事に誇りが持てるよう、介護職の地位確立に向けた議論を各党に期待したい」と話す。

■2016.7.6  ハンセン病差別撤廃 ローマ教皇を動かした日本人の「直訴」  日本財団会長笹川陽平
カトリックの総本山、バチカンのサン・ピエトロ広場の遠近で、順繰りに拍手と歓声があがる。いくらか時間が過ぎて、陽射しがうっすらと見えてきた頃、大聖堂前の私のまわりでも、2日間を一緒に過ごしてきたハンセン病回復者の皆さんが総立ちになり、歓喜の表情で握手やハグをくり返した。

6月12日午前、バチカンで一般ミサが開かれた。世界中からつめかけた人びとの前で、フランシスコ教皇がこのように述べたのである。

「9日、10日の両日、ハンセン病をめぐって、ローマ教皇庁で初めて国際シンポジウムが開催されました。私は成功を祈りつづけていました。この病に対する闘いに、実り多い取り組みがなされることを期待します」

シンポジウムのタイトルは「ハンセン病患者・回復者の尊厳の尊重とホリスティックケアに向けて」。日本財団と教皇庁保健従事者評議会の共催で行われた。仕掛けたのは、いま目の前で回復者たちと握手を交わす日本財団会長の笹川陽平。

アジア、アメリカ、南米、アフリカから集まった回復者たち。それに医療・福祉・人権問題従事者のほか、ローマ・カトリック、イスラム、ヒンズー、ユダヤ、仏教の宗教指導者たち計230名が45ヵ国から参加したこのシンポジウムでは、「ハンセン病差別の撤廃」「病者とその家族への支援」「回復者の社会復帰」の3つをテーマに意見が交わされ、世界に向けて画期的な「結論と勧告」が採択されたのだ。


1.ハンセン病に対する偏見と差別の闘いにおいては、回復者が主役となるようサポートする。
2.レパー(leper)という差別用語を使わない。また、ハンセン病を悪い喩えに使わない。
3.宗教は教育や行動につながる活動に取り組み、重要な役割を果たす。
4.各国政府は2010年に国連総会で採択された差別撤廃決議を実行しなければならない。
5.差別的法律は廃止しなければならない。
6.新たな患者を生まないためにも、新しい診断等、科学的な研究を進める。


2の「レパー」とはハンセン病患者を指す言葉で、英語の聖書にも出てくる。黒人を「ニガー」などと蔑む目的で言うのに等しい。4の「国連総会の差別撤廃決議」は、笹川陽平が年月をかけて実現にこぎつけたもの。5の「差別的法律」というのは、たとえば公共交通機関やホテル、レストランの利用を禁止する条例が今も生きている国があるということ。世界は日本ほど穏やかではない。

なぜこのようなシンポが開催されたのかというと、教皇フランシスコが差別的発言をしたことが発端なのである。

2013年6月、「出世主義はハンセン病だ。出世主義はやめましょう」。バチカンの聖職者にはびこる出世第一主義を、改革者たらんとする教皇は戒めたわけだが、ハンセン病を悪い喩えに使ってしまった。半世紀近く同病の制圧活動と差別撤廃のための活動を続けてきた笹川陽平は、すぐさま教皇庁に抗議書を送り、同病の現状と深刻な差別の問題をめぐってシンポを開かせてほしいと申し入れたのだ。

でも、その後も教皇からは同病差別の発言が続き、そのたびに笹川陽平は同様の抗議をしたが、なんの返答も来なかった。

ところが今年1月下旬になって、教皇庁からシンポ開催の要請が届いた。教皇は昨年冬の初めから今年晩秋にかけての期間を、数十年に一度の「慈しみの特別聖年」としている。罪を犯した者は懺悔して特別に許しを得られるのだという。

私などには、「許し」を得たいのは教皇自身ではないかと思われて、なんだか急に親しみがわいてきた。

聖書には、ハンセン病差別を煽る記述が数多く出てくる。病者たちはそのために、2000年以上にわたって呪われた者と見做され、人間扱いされてこなかった。キリスト教のみならずこの日本でも、ひとたび同病に罹れば戸籍から抜かれ、強制隔離の悲しみに沈まねばならなかった。

シンポでもっとも熱い拍手で迎えられたのは、日本から招待された石田雅男さん(79歳、長島愛生園自治会副会長)であったかもしれない。「人間らしく生きたい」と石田さんは言い、ミサ終了後、感想を尋ねてみると、次のような答えが返ってきた。


「私はプロテスタントですが、キリスト教徒として、このような場所に立ちあえて本当にうれしいです。ハンセン病に関する国際的な会合に参加するのは初めてでしたが、海外の若い世代の回復者と交流ができてよかった。まだまだ私もやらなければならないことがあると、勇気がわきました」

ミサより4日前の8日午前、笹川陽平は謁見ミサに参列し、炎天下で待つこと2時間半、やっと面前にやって来た教皇に“直訴”している。若い頃、ヨハネ・パウロ2世に謁見したさいの写真を手にして、自己紹介しながら、日本人通訳にイタリア語にしてもらった1通の文書を見せたのだ。

「ハンセン病をどうか悪い喩えに使わないでください。世界に伝えてください」

この人の情熱は、どこから来るのだろうか。

善意や善行から正しい世の中が生まれるとは限らない。なにかの間違いが、このようにビッグバンを起こす場合があるのだ。12億人のカトリック世界に、「結論と勧告」が早急に伝えられる。他の宗教も無視できまい。聖書の記述や解釈にも大転換が起こるかもしれない。

 

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