残しておきたい福祉ニュース 1996〜社会福祉のニュース

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残しておきたい福祉ニュース

 2017年 
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 2017. 7. 1 虐待根絶へ山口県知的障害者福祉協会と弁護士会 <包括協定>
 2017. 7. 2 障害者栽培のブルーベリー農園 広島・福山に3日オープン
 2017. 7. 3 医師の死亡診断、遠隔で可能に スマホで看護師から報告
 2017. 7. 3 看護師、スマホで医師にデータ送信...遠隔での死亡診断が可能に
 2017. 7.16 障害者「幸せ奪う存在」=トランプ氏演説契機に―手紙で植松被告・相模原施設襲撃
 2017. 7.20 相模原殺傷事件1年 知的障害者、入所25年以上43% 高齢・重度化が進む 大規模施設・毎日新聞調査
 2017. 7.20 相模原殺傷事件1年 高い地価・住民反対、障害者の地域移行停滞 都外施設に3000人
 2017. 7.20 やまゆり園、小規模で再建 県部会が提言骨子案
 2017. 7.20 殺傷事件の知的障害者施設 検討部会が分散整備案まとめる
 2017. 7.20 いきてたらあかんのか やまゆり事件後、障害者自ら放送


■2017.7.1  虐待根絶へ山口県知的障害者福祉協会と弁護士会 <包括協定>
山口県知的障害者福祉協会と県弁護士会が、障害者施設での虐待防止を目的に包括協定を結ぶことが29日、決まった。2015年に発覚した同県下関市の知的障害者福祉施設「大藤園」での虐待事件を検証してきた同協会の最終報告書がまとまり、「虐待はどの施設でも起こり得る」として、外部の目を入れる必要性を提言した。弁護士が施設の職員や利用者の相談に応じたり、職員研修のため講師を派遣したりする。

下関の事件は15年5月、複数の職員が利用者を平手打ちしたり暴言を吐いたりする動画が報道されて表面化。協会は原因究明と再発防止のため、大藤園の職員・利用者からの聞き取り▽協会加盟の県内約100施設の職員の意識調査−−などを実施し、最終報告書にまとめた。それによると、施設には当時、社会福祉の国家資格保有者がおらず、専門性に欠けていた。また利用者の作業場所は密室性が高く、職員による「支配的な対応が強まった」などと指摘した。

一方、会員施設の全従業員の69%に当たる約1700人が回答した意識調査で、約4割が「不適切な行為を見たり聞いたりした」、約3分の1が「無意識のうちに不適切行為をしてしまう」と答えており、報告書は、事件は「ひとごとではなく、どの施設でも起こり得る」と結論付けた。

報告書は改善策として、県弁護士会との連携の必要性を提言。弁護士会側が29日に応じることを決め、7月にも包括協定を締結することになった。知的障害者福祉団体と弁護士会の協定は全国初の試み。

協会の古川英希会長は「山口県だけでなく全国の施設の虐待根絶に役立つことを期待している」と話した。

■2017.7.2  障害者栽培のブルーベリー農園 広島・福山に3日オープン
障害者の生活、就労を支援する広島県福山市神辺町徳田のNPO法人「あいあい広場」は、ブルーベリーの観光農園(同所)を3日にオープンする。2011年から開設に向け栽培に取り組んでおり、利用者は「頑張ってきた成果を見てもらいたい」と心待ちにしている。8月10日までの平日開園する。

農園は、あいあい広場が運営する作業所近くにあり、広さ約10アール。暑さに強く、香りの良い「ウッダード」など5品種約300本を利用者11人と職員が育てている。元々は神辺町新道上にあった農園で11年から約50本の栽培を始め、挿し木などで増やしてきた。15年に地元住民から借りた現在地に移転した。

「初心者が簡単に栽培でき、福山で珍しい作物に挑戦したかった」と農園責任者の横山尚充主任(41)。利用者らは草取りや防鳥ネット設置など年間を通じて管理に励み、16年の収穫量は200キロを超えた。同年7月には1日限定の収穫体験会を開き、地元住民らに好評を得たことから本格オープンを決めた。

3日にはオープニングセレモニーを現地で行い、利用者の合唱などで開園を祝う。利用者の女性(53)=福山市=は「おいしいブルーベリーができた。当日は笑顔でお客さんを迎えたい」と意気込んでいる。

月、火、金曜は午前10時半から、木曜は午後1時半からそれぞれ1時間開園する。水曜は午前10時半と午後1時半から各1時間。30分食べ放題で中学生以上1人800円、3歳〜小学生同500円、3歳未満無料。団体(10人以上)は前日正午までに予約が必要で、1人100円引き。収穫した実や苗木、特製クッキーの販売もある。荒天時中止。問い合わせは、あいあい広場(084―962―3452)。

■2017.7.3  医師の死亡診断、遠隔で可能に スマホで看護師から報告
医師による対面が原則の死亡診断について、厚生労働省は今年度内に規制を緩める。医師がすぐに駆けつけることができない場合に、スマートフォンなどを通じて患者の状況を把握することなどを条件に死亡診断書をだせるようにする。高齢化に伴い死亡者が増える多死時代を迎えるなか、自宅や介護施設、離島などでのみとりがしやすくなる。

医師法は、死亡診断書の交付に医師の診察を義務づける。埋葬や火葬にも死亡診断書が要る。現状では、医師の診察を受けられない患者は、亡くなる直前に救急搬送されたり、死亡後に「異状死」として届け出て遺族らが警察に事情を聴かれたりすることがある。

こうした現状を改善する運用の流れは、自宅療養する患者宅などを看護師が訪問し、心停止や呼吸の停止、瞳孔の開きを間隔をおいて2回確認。外傷の有無なども観察し、スマートフォンやタブレット端末で遺体の写真などとともに医師に送る。医師は「死亡」と確認すれば、看護師に死亡診断書の代筆を指示し、医師はテレビ電話などを通じて遺族に口頭で説明する。

代筆を指示できるのは、患者が死亡する2週間以内に診療していた医師。当直業務中などですぐに対応できないなど、到着までに12時間以上かかる場合を想定する。ほかに生前にICT(情報通信技術)を活用した死亡診断に患者と家族が同意している▽死期が予測されている▽診察した病気以外での死亡の場合は警察に届ける――などを条件とする。

政府は昨年6月、みとりを円滑に進めようと、一定の条件を満たせば医師が対面診察しなくても死亡診断できるようにする見直しを盛り込んだ規制改革計画を閣議決定した。

これを受けて厚労省研究班(研究代表者=大沢資樹(もとき)・東海大教授)は、20年ほど前から看護師が死亡診断できる英国の状況などを調査。国内でもICTを活用した指針案をまとめた。厚労省は今後、自治体や関係団体に指針を通知し、通信機器の整備や看護師の育成を進め、今年度内にも遠隔での死亡診断を始める方針。指針案は遠隔での死亡診断を全例把握し、検証していくことを求めている。

大沢さんは「死という機微に触れるデータが流出していかないような仕組みづくりが大きな課題だ」と話す。遺体を撮影する手順について、「家族の心情に配慮して進めるとともに、社会が受け入れる土壌をつくっていかなければならない」とも指摘する。これらの仕組みが犯罪に悪用されないようにすることも重要だ。

2015年に約130万人だった死亡者は、ピークの39年には36万人ほど多くなると見込まれる。現状は8割が病院など医療機関で亡くなっているが、自宅や介護施設でみとりができる体制を整えないと、病院のベッドが足りなくなることが懸念されている。

■2017.7.3  看護師、スマホで医師にデータ送信...遠隔での死亡診断が可能に
多死社会を迎え、厚生労働省は、情報通信技術(ICT)を活用した遠隔死亡診断の体制を整備する。

医師不在の離島に住んでいたり、かかりつけ医が出張や当直中だったりする場合に、看護師が送る診療データを基に遠方の医師が死亡診断をできるようにして、在宅での穏やかなみとりを推進する。

医師は最後に診察した時から24時間が経過すると、死亡診断書を交付するには、亡くなった患者を対面で診察する必要がある。離島では、遺体を長時間保管したり、医師のいる場所まで長距離搬送したりする。死期が近づくと自宅から病院や施設に移る地域もあり、在宅のみとりの支障になっていた。

政府は昨年6月、遠隔の死亡診断の条件付き解禁を閣議決定した。これを受け厚労省研究班は、具体的な条件や手順、補助する看護師の研修内容などを検討し、指針案をまとめた。

指針案では、死亡を確認するのに医師が移動などで12時間以上かかる場合に限り、遠隔死亡診断を認めるとした。対象は、がんなどで医師が死期が近いと判断した患者。医師は事前に、患者や家族に実施の同意と、延命措置を望まない意思を書面で確認する。

補助する看護師は、離れた場所にいる医師の指示を受けながら、亡くなった患者に聴診などを行い、スマートフォンやタブレット端末などで状態を医師に伝える。必要な写真や心電図のデータも送る。これらのデータを基に医師が死亡診断を行い、看護師が死亡診断書を代筆する。

同省は今秋にも指針案を踏まえた看護師向け研修を行う。実際の遠隔診断は年度内に始まる見通しだ。

■2017.7.16  障害者「幸せ奪う存在」=トランプ氏演説契機に―手紙で植松被告・相模原施設襲撃
相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害されるなどした事件で、殺人罪などで起訴された植松聖被告(27)が15日までに、手紙を通じて複数回、時事通信の取材に応じた。

障害者を「人の幸せを奪う存在」として、保護者らのためにも安楽死させるべきだと主張する一方、遺族や被害者へ向けた言葉はなかった。襲撃の契機として、トランプ米大統領の演説を聞いたことなどを挙げた。

事件発生から今月26日で1年。重度障害者の殺害を正当化する植松被告の考えが、今も事件前と変化していないことが明らかになった。
植松被告は手紙の冒頭、「不幸がまん延している世界を変えることができればと考えました」と記した。重度・重複障害者を「人の幸せを奪い、不幸をばらまく存在」だと主張し、「面倒な世話に追われる人はたくさんいる」「命を無条件で救うことが人の幸せを増やすとは考えられない」と訴えた。

安楽死の対象の判断基準として、「意思疎通が取れる」ことを挙げた。植松被告は襲撃時、居合わせた職員を連れ回して「この入所者は話せるのか」と聞きだそうとしていたことが分かっており、障害の程度を確認し、殺害するかどうかを決めていた可能性がある。
事件前に措置入院した際、肯定する発言をしたとされるナチスの優生思想について、手紙では「人間の尊厳や定義が忘れられている」と批判した。ただ、自説との違いに関する詳しい説明はなかった。

殺害を思い立ったきっかけとして、ニュースで報じられた大統領就任前のトランプ氏の演説や、過激派組織「イスラム国」(IS)の活動を挙げた。「世界には不幸な人たちがたくさんいる」としたトランプ氏の言葉に、「真実を話していると強く思いました」と記した。

勾留生活についても、「息の詰まる生活に嫌気がさす」「時折外の生活を恋しく思う」と言及。食事への不満にも触れた。

手紙の文体は極端に丁寧で、一部が支離滅裂にも思われた事件前の衆院議長宛ての文書とは異なり、一貫して淡々と自説を述べている。

■2017.7.20  相模原殺傷事件1年 知的障害者、入所25年以上43% 高齢・重度化が進む 大規模施設・毎日新聞調査
大規模入所施設に入った知的障害者の4割以上が25年以上にわたって入所していることが、毎日新聞の全国調査で分かった。相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が刺殺された事件からまもなく1年。国は「施設から地域へ」を掲げ、障害者の地域移行を進めるとしているが、実際には入所者の高齢化と重度化が進み、7割以上の施設が現場の「人材不足」を課題と考えている。

今年6〜7月、津久井やまゆり園と同規模(定員100人以上)の全国120施設を対象にアンケートを実施し、84施設(70%)から回答を得た。この結果、入所年数「25年以上」が全体の43%を占めた。過去5年間に施設から出た973人以外に、1127人が施設内で亡くなっていた。

地域移行が進まない理由(複数回答)は「家族の反対」が81%で最多。「入所者の高齢化」79%、「障害程度が重い」75%と続き、「本人の意思」は38%にとどまった。入所者も家族も高齢化する中、支える側が「施設に預けた方が安心」と考えるケースが多いとみられる。

入所者の年齢は、29歳以下5%▽30代10%▽40代21%▽50代23%▽60代26%▽70歳以上16%。障害の重さを示す支援区分は、最も重度の「6」が49%▽「5」=29%▽「4」=17%▽「3」=5%▽「2」=0・5%▽「1」=0・05%。障害が重いほど、グループホームなどの地域生活に移るのが困難で、地域移行できる人が退所していった結果、重度・高齢の入所者が施設に残っているのが実態だ。施設側からは「地域生活のイメージが持てない」「施設生活のほうが効率的」という回答もあった。

運営の課題(複数回答)は「人材不足」74%、「入所者の高齢化」68%、「人材育成」「重症化」各42%と続いた。

また、相模原殺傷事件を受け、60%の施設が防犯設備の強化に乗り出した。職員研修の充実は58%、防犯カメラの設置は55%が取り組んでいた。





地域移行

大規模施設に入所している知的障害者が地域社会から切り離されていると批判され、厚生省(当時)は1993年、地域生活への移行を促進するよう自治体に通知した。数人ずつ地域で共同生活するグループホームで2016年12月現在、10万6928人が暮らす。一方、知的障害者らの生活介護、自立訓練、就労移行支援を担う障害者支援施設では、現在も約13万人が生活している。



相模原障害者殺傷事件

相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で昨年7月26日未明、入所者19人が刃物で刺され、死亡した。直後に警察に出頭して逮捕された元職員の植松聖(さとし)被告(27)は「障害者はいなくなればいい」などと供述。精神鑑定で人格障害の一種である「自己愛性パーソナリティー障害」と診断された。横浜地検は完全責任能力があると判断。今後、横浜地裁で公判が開かれる。

■2017.7.20  相模原殺傷事件1年 高い地価・住民反対、障害者の地域移行停滞 都外施設に3000人
東京都内の知的障害者のうち約3000人が、都や都内区市町村の財政支出がある14県の「都外施設」で生活していることが、都などへの取材で分かった。都は1997年、障害者虐待事件をきっかけに都外施設の新規建設をやめ、自宅近くで暮らせるようにする方針を打ち出したが、この20年間で入所者は減っていない。相模原障害者施設殺傷事件でも浮かんだ障害者の地域移行が進まない実態の一端が見える。

都外施設の整備は、都内の地価の高さや住民の反対運動を背景に、60年代後半から始まった。地元の社会福祉法人が都の補助金で建設し、都民が優先して入所。国の居住地特例制度に基づき、介護費の自治体負担分などはもともと住んでいた区市町村が出している。こうした施設は東日本の14県に41施設あり、定員3212人の約9割が都民だ。

97年、都外施設の一つの福島県の「白河育成園」で、職員による暴行や薬物の大量投与などの虐待が発覚した。遠隔地では監査が行き届かない問題が指摘され、都は再発防止策として、地域で生活する少人数のグループホーム(GH)などを増設し、施設入所型の処遇から地域生活型ケアへの転換を目指す方針を決定。都の有識者会議も翌年、入所施設整備は都内とする提言をまとめた。

だが、既存41施設は「入所希望者がいる」との理由で維持された。都は今も施設改修の補助金を出し、高齢化した入所者が死亡するたび、都内から新たに障害者が送られている。

都施設サービス支援課によると、都内外の施設から自宅や自宅近くのGHなどに移った障害者は、2014年度からの2年間で入所者全体の3%の260人だけという。入所者の多くが重度の知的障害を持ち、自力で暮らすのが難しい▽両親らが高齢化して介護できない▽都内のGHは家賃が高い−−といった点がネックになっている。

同課は「重症心身障害者や家族の緊急相談などに応じる拠点を各地に整備するなど、近年ようやく国の支援の仕組みが整ってきたものの、障害者の地域移行は本人の高齢化に伴い難しくなっている」と話す。「金銭トラブルや都会の誘惑に巻き込まれずに静かな環境で暮らせるという点で、都外施設にも意義がある」と指摘する区の担当者もいる。

一方、知的障害者の家族らで作る「全国手をつなぐ育成会連合会」統括の田中正博さんは「都内の暮らしを支える仕組みがなかったから、家族は都外施設しか選択肢がない状況に追い込まれた。地域での支え方を行政や住民が本気で考える必要がある」と訴える。

都は今年度、入所者の地域移行を促進する補助金の対象を、都内だけでなく都外のGHにも広げた。「住み慣れた場所への定住」が狙いだが、この場合も出身地からは離れたままだ。

遠くても頼みの綱 高齢の両親「介護限界」

都外施設で暮らす障害者が減らないのは、遠くても受け入れてくれる施設の存在が家族の頼みの綱になっている現実があるからだ。

全国で初の知的障害者の都外施設として1968年に開園した栃木県足利市の「緑ケ丘育成園」は、入所者140人全員が都民。うち40人は40年以上暮らしている。平均年齢は、今は57歳。園によると、年4、5人が亡くなり、空きが出るとすぐに都民で埋まる。高齢化した両親が介護できなくなって預けるケースが多いという。地域のGHに移った人はほとんどいない。

家族から離れての生活に、施設や家族にも葛藤はある。「家に帰りたい」と訴える入所者に、職員は年3回の帰省まで待つよう言い含めたりする。柏瀬悦宣(かしわせえつひろ)常務理事は「高齢の両親は限界になって施設を頼る。介護する側に自由を与えてあげたい」と話す。

知的障害の兄を6年前に他界するまで40年間預けていたという台東区の男性は「施設がなければ、家に閉じ込めていたかもしれない。人間らしい暮らしができたと思う」と、施設へ感謝する。施設までは車で約2時間で「ほどよい距離だった」と振り返る。

■2017.7.20  やまゆり園、小規模で再建 県部会が提言骨子案
相模原殺傷事件が起きた知的障害者施設「津久井やまゆり園」の在り方を検討する神奈川県障害者施策審議会の部会は18日、現在地には小規模施設を再建した上で、横浜市内にも新しい入所施設を整備するとの提言骨子案を、大筋で了承した。

骨子案は、入所者の意向に応じて地域のグループホームも利用できるよう、県が事業者に施設整備費や人件費を補助する必要性を指摘。既に受け入れを表明している事業者との連携も求めた。新施設は仮移転先の横浜市港南区の「芹が谷園舎」付近を想定している。

入所者家族は現在と同様の大規模施設での建て替えを求めており、部会を傍聴した家族会の大月和真会長は報道陣に対し、「なぜ小規模にするのか明確な答えがない」と強調した。

部会は8月に県に提言する方針。県は入所者家族や障害者団体などから改めて意見を聞き、9月にもやまゆり園の「再生基本構想」をまとめる。

■2017.7.20  殺傷事件の知的障害者施設 検討部会が分散整備案まとめる
去年、殺傷事件が起きた相模原市の知的障害者施設の再建を検討する神奈川県の部会が開かれ、元の場所での建て替えに加え、入所者が一時的に移転している横浜市にも施設を整備し、分散するとした案をまとめました。部会はこの案を来月上旬までに報告書としてまとめ、最終的に県が再建策を決定することにしています。

去年7月、相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者が次々に刃物で刺され、19人が殺害され27人が重軽傷を負った事件を受けて、県は家族の要望も踏まえ、施設を元の場所で建て替える方針をいったん決めました。しかし、障害者団体などから反対意見が相次ぎ、専門家らでつくる部会で改めて検討を進めていました。

18日の部会では、「入所者の多様な意向に対応できるよう複数の選択肢を用意すべきだ」として、元の場所で施設を建て替えるのに加え、多くの入所者が一時的に移転している横浜市の施設のある地域に新たな施設を整備し、分散するとした案をまとめました。

部会では、この案を来月上旬までに報告書としてまとめ、これを基に最終的に県が再建策を決定することにしています。


家族会会長「なぜ分散する必要があるのか」

「津久井やまゆり園」の入倉かおる園長は今回の案について、「まだ戸惑っている状況で、これから対応を検討していきたい。家族も不安だと思うので、元の場所に戻りたい人がきちんと戻れる施設をつくってほしい」と話していました。

また、入所者の家族らでつくる家族会の大月和真会長は「なぜ、みんなと一緒に暮らしたいというのに、分散する必要があるのか。全く納得できず、とうてい受け入れられない。事件を乗り越えていこうとしている家族の思いをわかってほしい」と話していました。


部会長務める堀江教授「理解がえられるように」

部会の会長を務める白梅学園大学の堀江まゆみ教授は「入所者一人一人の暮らしをそれぞれの人にあわせて考えていくという観点を大切にして議論を続けてきた。きょう部会の報告に向け、それをしっかりと確認できたことはよかった。入所者の家族にどのように説明するかは県と相談するが、理解がえられるように進めたい」と述べました。

■2017.7.20  いきてたらあかんのか やまゆり事件後、障害者自ら放送
知的障害がある当事者たちが自ら声を伝えるインターネット放送局が、大阪にある。設立準備のさなかだった昨年7月、神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害された。「いきてたらあかんのか」。1年がたつのを前に、事件と向き合って番組を作った。

横浜から高速道路を使って1時間あまり。相模湖近くの山あいにあるやまゆり園を、6月末、知的障害がある永井広美さん(44)が花束を持って訪ねた。
傍らには、小型のビデオカメラを構えたスタッフ。大阪府東大阪市の社会福祉法人「創思苑(そうしえん)」が立ち上げたネット放送局「パンジーメディア」の撮影だ。東大阪から3日間の日程で、園入所者の保護者や、地元の社会福祉法人に取材し、最後に事件の現場を訪ねた。

入所者たちは施設建て替えのため転居し、電気が消された園は静まりかえっていた。「山奥の施設で暮らすより、にぎやかな地域に住むほうがしあわせだと思う」とつぶやいた。

創思苑は障害者が働く事業所やグループホームを運営している。ネット放送は昨年9月に始めた。理事長の林淑美さん(67)は「家族や支援者ではなく当事者自身が発信するメディアをつくりたいと、ずっと考えていた」と話す。2001年に訪れたスウェーデンで、障害者が参加してつくる情報紙やラジオ番組の存在を知り、アイデアを温めてきた。

昨年の年明けから高校時代の先輩で映像ディレクターの小川道幸さん(69)=東京都渋谷区=の協力も得られ、設立にめどが立った。そして初回の企画を考えていた7月26日、やまゆり園の事件が起きた。

死者19人、重軽傷27人。事件の衝撃を、全国の障害がある当事者たちはどう受け止めていたのか。横浜の障害者団体を通してパンジーメディアに寄せられた手紙には、心からの叫びがあふれていた。

 《しょうがいしゃは いきてたらあかんのか すきで しょうがいしゃとして うまれたわけじゃない ころされるために うまれた わけじゃない》

 《いきどおりをかんじます 私たちは しょうがいしゃであるまえに にんげんなんだ》

この言葉がメディアの方向性を決めた。林さんは「障害のない人たちに、障害がある当事者の声を伝えていく。社会を変えていくための自分たちの役割がはっきりした」と振り返る。

パンジーメディアは月1本、50分程度の番組を公開する。これまでのべ約5千人が視聴した。
構成や編集は施設職員が担当し、だれにでもわかりやすいようテロップや図を多用する。漢字も小学2年生までに習う範囲を目安にしている。
障害に関するニュースや施設での日常などを取り上げてきた。一番の人気企画が、出演者が半生を語る「私の歴史」。やまゆり園を訪ねた永井さんも、かつてのいじめや虐待の記憶を赤裸々に語った一人だ。

「小学校では、クラスの男の子の全員にいじめられました。『お前、きもいねん』とか『となりにすわるな』とか言われました」

「お父さんはおこったとき、わたしをけったりしました。お父さんといるのは、しんどかったです」

それまで言えなかった思いを吐き出したことで、永井さんの意識も変わった。
「自分の意見が言えて、楽しかった。番組をお父さんが見てくれるかもしれない」。父とは20年以上会っていない。それでも、今は前向きに父のことを思い出せるようになった。

番組を監修する小川さんは「映像では自分が主役。見た仲間から拍手をもらうことで、『私のままでいいんだ』という自己肯定感が生まれている」と話した。

 

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